舞台女優だった母の13回忌に出席していた男、羽生田に誘われ、演劇を観に行った淵累(ふち・かさね)。そこで出会ったスランプ中の女優・丹沢ニナの影武者にならないかと羽生田に提案される。顔に大きな傷のある累を見て丹沢ニナは笑う。しかし、累が母からもらった口紅を塗り、丹沢ニナにキスをすると、、、
監督は佐藤祐市。
代表作に
『キサラギ』(2007)
『ブラック会社に勤めてるんだが、もう限界かもしれない』(2009)
『ストロベリーナイト』(2013)
『脳内ポイズンベリー』(2015)等がある。
原作は松浦だるま作の漫画、
『累』(全14巻)。
出演は、
丹沢ニナ:土屋太鳳
淵累:芳根京子
羽生田欣互:浅野忠信
淵透世:檀れい
烏合零太:横山裕 他。
リップバンバンウィンクル!!
無垢なる子供が魔法のリップクリームを使えば、変身能力が得られる!!
……失礼致しました。
違う漫画の話をしてしまいました。
あらためまして、
口紅を塗って丹沢ニナとキスした累。
すると、
二人の顔が入れ替わった!!
謎の不思議アイテムを使い、顔を入れ替えた二人。
外見は美貌の丹沢ニナ。
演技力は大女優の娘、淵累。
二人で一人の
女優・丹沢ニナを演じる事になるのだが、、、
一見、ファンタジックなアイテムの口紅でも、
それを、どう使用するかによって、
起こる事が如何様にも忌まわしくなります。
淵累は丹沢ニナの容姿に入れ込み、
丹沢ニナは淵累の演技力に嫉妬します。
そう、
本作は、
嫉妬渦巻く、怨念ホラー。
互いが互いに相手に嫉妬するとどうなるのか?
世にも恐ろしい物語ですねぇ。
そして、本作の注目なのは、
「口づけで顔が入れ替わる」という設定上、
土屋太鳳と芳根京子の二人が、
互いに役を入れ替えながら演じている点です。
この演技的な面白さが、
原作漫画には無い、
生の役者が演じる、映像的な面白さの一つだと思います。
ワンアイデア的な面白さを、
ストーリーの忌まわしさと、
演技の面白さで支える、
『累』は、中々観どころが多い作品となっております。
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『累』のポイント
一人二役を演じる、二人の出演者
二人で一人の人物を作り上げる事の狂気
弱者が武器を持つ事の恐ろしさ
以下、内容に触れた感想となっております
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複雑なものを、そう見せない凄さ
本作『累』は、土屋太鳳と芳根京子のダブル主演。
世に、ダブル主演の作品は多々あります。
最近では、
『検察側の罪人』が、木村拓哉と二宮和也のダブル主演ですね。
しかし、一言でダブル主演と言っても、
例えば、二大スター共演だったり(役者の格の部分)、
二人の役の、それぞれが物語を支えていたり(ストーリー的な意味合い)、
それぞれで、若干意味合いが違います。
そして本作の場合は、
主演の二人が共に、同じ人物(淵累)を演じているという意味で、
ダブル主演なのです。
ちょっと珍しい例ですね。
口紅を塗ってキスすると、
顔が入れ替わる。
つまり、
演じる役者としては、
互いの役を入れ替えている訳ですよね。
これが面白い。
土屋太鳳と芳根京子の両名は、
淵累と丹沢ニナの
二役をお互い演じている、
しかし、
劇中では、
容姿と社会的立場は丹沢ニナ、
演技力とキャラクターは淵累という、
二人で一人の「女優・丹沢ニナ」を演じているのですね。
この、
演じるのは一人二役を二人が互いに演じ、
映画の中では、キャラクターが一人の役を演じているという、
メタ的な目線を導入した、
ある種の捻れた複雑な構成が本作の興味深い所です。
文字に起こすと、
ちょっと意味が分かり辛い、
しかし、
百聞は一見にしかず。
実際の映画では、
この複雑な設定をスムーズに理解する事が出来ます。
それは、
二人のキャラクターの入れ替え、
つまり、
土屋太鳳と芳根京子、両名による
丹沢ニナと淵累の演じ分けがスムーズに移行しているからなのですね。
斜に構えつつ、意地悪なツッコミをせずにはいられない丹沢ニナ、
オドオドしながらも、無遠慮な猪突猛進ぶりを見せる淵累。
この両極端なキャラクターの理解を、
土屋太鳳と芳根京子の両名が意識して統一しているから、
観ている方は
キスによる互いの役のバトンタッチに違和感が無いのですね。
これが凄い。
観ていて、ちょっと感動した部分です。
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弱者が開き直った時の恐ろしさ
演劇を舞台にしているだけあって、
そういう演技的な面での面白さがウリの一つである『累』。
そしてそれは、
ストーリー上の必然による設定だというのがまた、
面白いのです。
二人が一人の「女優・丹沢ニナ」を演じるという事。
これは即ち、
世間に出るのは常に一人、
という事を意味しています。
結局はどちらかが、
自分の人生を相手に捧げなくてはならない。
丹沢ニナは累の演技力に嫉妬し、
淵累はニナの容姿と社会的な地位が欲しい。
お互いに、互いを邪魔だと思い出した時の、
二人の心境の変化がまた、
対象的なのです。
丹沢ニナは、
最初は利用しているつもりと自分に言い聞かせてはいましたが、
徐々に、自分の人生が奪われるという切迫した危機感を感じて行きます。
一方の淵累は、
美しい容姿を得た事で、自分の知らない世界を知り、
それを手放したく無いという思考に陥り執着する様になります。
当初は、
容姿に優れて性格的に積極的な丹沢ニナが主導権を握っていたような感じですが、
陰湿な情念で主導権を握り締めて放さないという累の意思が、
徐々に攻勢を見せて行くのが後半です。
攻守が前半と後半で入れ替わるのですね。
さて、
本来の淵累の様な、
劣等感に溢れた陰キャが一躍脚光を浴びるとどうなるでしょうか?
自分の過去の惨めさ、
辛さ、
世間の理不尽さが、
嫌という程、身に沁みているが故に、
「二度と戻らない」という執念を発揮する事があります。
コンプレックスの裏返しが、
積極性へと転化するのですね。
しかし、
もし、その地位が、
正規の手段により手に入れたものでなかったら…
そして、その地位を維持するのに、
鬼畜の所業に手を染めなければならないとしたら…
そこに躊躇はありません。
何故なら、
自分は世間から疎まれて来たから。
ならば、自分も、
世間に配慮する必要は無いという思考に向かうからです。
弱者の世間に対する復讐、
それが個人に向かう、
『累』は、その生々しい様子を描き出しています。
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演じる事の難しさ
役者の演技とストーリー的な構成が、
見事に噛み合った作品『累』。
これだけなら、
屈指の名作な印象ですが、
若干のツッコミ処がある事も否めません。
例えば、
土屋太鳳が、
劇中の演劇の「かもめ」の舞台稽古にて、
淵累の時の鬼気迫る演技と、
丹沢ニナの時のヘボい演技の
二通りを演じる場面があります。
…これ、私が演劇に詳しく無いからでしょうか?
凄い方とヘボい方の演技の違いが分かりません。
キャラクターの演じ分けには成功していましたが、
演技力の演じ分けは難しかった、
という印象です。
確かに、
『ドラゴンボール』でも、
気のコントロールは難しいと言われ、
戦闘力の上下を覚えたベジータが、レベルを急激に上昇させたのは有名な話です。
土屋太鳳さんはまだまだ、
悟空と合う前のベジータの様な演技のレベルだったのだと思います。
また、演技指導する演出家の烏合。
その、烏合が、台詞棒読み。
これは、最早ギャグですね。
その演技指導は、キスシーンです。
作中でも「キスシーンが気になっているのか?」と、
問われます。
私も気になりました。
「口紅を塗ってキスしたら顔が入れ替わる」という設定のハズが、
実際に土屋太鳳と芳根京子がキスしているシーンはごく僅か。
ほぼ、全てのシーンを角度やCGを使って誤魔化しています。
と、いうより、
どうせなら、もっと濃厚にキスして欲しかったというのが正直な感想です。
後半にも、
「殺してでも手に入れたいものだろう?」と、
「サロメ」の状況と、
丹沢ニナの顔どころか、人生そのものを奪わんとする淵累の心境がシンクロして行くシーンがあります。
累も、ニナに対し、
サロメが抱くヨカナーンへの思いと同じような、
複雑な気持ちを抱いているのだと思われます。
そういう思いを、
キスシーンの一つででも、表現して欲しかった。
それが、皆無だったのが、残念ですね。
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ダンスのシーン
とは言え、
その心境は別の形で表現されています。
それは、映画のラスト、
劇中劇の「サロメ」のクライマックス、
「女優・丹沢ニナ」のダンスのシーンです。
演じる土屋太鳳は、
日本女子体育大学の舞踊学を専攻していたという経歴の持ち主。
最近でも、
ドラマ『チア☆ダン』のダンスシーンが話題となっていました。
そして、本作でのダンスシーンを振付したのは、辻本知彦。
Siaの『Alive』という楽曲での
日本版のミュージックビデオでのダンス、
第67回(2016)NHK紅白歌合戦での
郷ひろみとのダンスシーン、
そして、本作『累』と、
土屋太鳳とは三度目のタッグとなります。
勝手知ったる何とやら。
土屋太鳳は、ダンスをやらせたら映えると、
それをハッキリ理解しているのですね。
このラストのダンスのシーンの迫力たるや、
「女優・丹沢ニナ」を演じる累の情念を、
暗く、激しく表現し尽くしています。
公式で公開されている、クライマックスのダンスシーンの一部分
https://youtu.be/pfrQufCPRTA
死の淵にあり、
「ころしてぇぇェェ」と力無く呟く丹沢ニナとの対称により、
さらに激しい印象が際立ちます。
他人を絶望の淵に落し、
自分は絶頂を迎える、
その業の深さをダンスで表現し切ったラストシーンだといえるでしょう。
演劇を題材にした映画の傑作に『ブラック・スワン』があります。
そう言えば、
その『ブラック・スワン』の主演のナタリー・ポートマンは、
演劇の「かもめ」に出演した事もあります。
その、『ブラック・スワン』を彷彿とさせる作品『累』。
とは言え、
本作も負けてはいません。
一人二役を演じる役者が、
劇中では二人で一役を演じるという面白さ。
サスペンスフルなストーリー。
情念と嫉妬がぶつかり合い、
主導権と生存権を奪い合うサバイバル。
ツッコミ処は多々あれど、
それを補って余りある力強さのある作品、
それが、『累』だと思います。
*現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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原作漫画の1巻がコチラ
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