幻想・怪奇小説『ネクロスコープ』ブライアン・ラムレイ(著)感想  オカルトネタてんこ盛り!!父を倒す息子の物語!!


 

イギリス霊能諜報局(Eブランチ)長官のキーナン・ゴームリーが死んだ。次長であるアレック・カイルは、ある種の予知能力者であり、組織の存続の為には、長官室を訪れなければならないと感じていた。アレックはそこで、実体の無い「影」に出会う。それは、長い話を語り始めた、、、

 

 

 

著者はブライアン・ラムレイ
イギリス出身のホラー作家。
翻訳された著作に、
「タイタス・クロウ」サーガのシリーズがある。

 

 

クトゥルフ神話を創設した、
H・P・ラヴクラフト。

それを体系化した、
オーガスト・ダーレス。

そのオーガスト・ダーレスに認められ、
アーカム・コレクターにラヴクラフト風の短篇『深海の罠』が掲載された事が、
小説家のデビューとなったのが、
ブライアン・ラムレイです。

 

本邦では、
東京創元社から、
クトゥルフ神話的なヒロイック・ファンタジーである、
「タイタス・クロウサーガ」のシリーズが翻訳されていた著者の、

別の長篇シリーズの第一作目が、
本作『ネクロスコープ』となります。

巻末の解説によりますと、
全16巻+中短篇集という、大河シリーズとの事ですが、

本作は、その第一弾ということで、
単品でも楽しめる作品となっているので、ご安心を。

 

さて、その本著の主人公は、

イギリスの孤独な少年、ハリー・キーオウと、
ソ連の冷酷な特殊工作員、ボリス・ドラゴサニの二人。

ハリー・キーオウは、
死者と会話、交流する事が出来る死霊見師(ネクロスコープ)。

ボリス・ドラゴサニは、
死骸を漁る事で、生前の記憶を奪取する事が出来る死骸険師(ネクロマンサー)。

正、邪のダブル主人公が織りなす、
オカルト伝奇アクションとなっております。

 

 

似て非なる能力を持ち、
別の国で、それぞれの人生を生きている二人。

この二人の人生が交わる時、
物語は一気に加速して行きます。

 

そんな本作、

死霊、死骸、
未来予知、霊的諜報戦、
吸血鬼、
時間、空間、メビウスの輪 etc…

 

オカルトネタてんこ盛りでお送りする内容です。

ぶっちゃけ、
人を選ぶ事間違い無し。

しかし、
ソレ系が好きな人には、
垂涎の作品となっております。

 

正義と悪の対決する、
オカルト伝奇ヒロイック・ファンタジー!!

厨二的な世界観を存分に楽しめる、
『ネクロスコープ』は、そんな作品と言えるのです。

 

 

  • 『ネクロスコープ』のポイント

オカルトネタてんこ盛りの伝奇アクション

父を乗り越えんとする、息子の物語

メビウスの輪

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


スポンサーリンク

 

  • 父の打倒を目指す息子の物語

本作『ネクロスコープ』は、
それ、そのもので、
傑作オカルト伝奇ヒロイック・アクション・ファンタジーと言えます。

正に、てんこ盛りの内容。

 

死者から知識を得て、
それを自分の技術とする死霊見師(ネクロスコープ)のハリー・キーオウ。

死骸を漁り、陵辱する事で、
生前の知識、能力を強奪する死骸険師(ネクロマンサー)のボリス・ドラゴサニ。

この二人の能力の対比が、
そのまま人生の対比となり、

似て非なる能力の二人の人生が交わり、
雌雄を決する事になるというストーリーの盛り上がりも面白いです。

 

似たモノ同士が憎み合い、
殺し合う事になる。

これは、同族嫌悪とも言える争いですが、

「自分と似た者との争い」として、
男子が迎える、最も最初の敵と言えば、
父親との対決です。

本作では、
二人の能力者の厨二的な戦いが描かれる一方、

テーマ的には、「父殺し」が描かれているのです。

 

 

以下、内容、結末、オチに触れた記述となっております

 

 

 

ハリー・キーオウは、幼少期に父を亡くしていますが、
その代わり、
母・メアリと再婚した、義父のヴィクトールが、その対象となります。

母と再婚し、母を殺した義父のヴィクトール。

ハリーにとっては、
母の仇討ちという名目で、心理的な合法(世間的承認)を得た、
エディプスコンプレックスと言える行為なのです。

 

男子にとって、
父親が最初の敵と言うのは、
母の愛情を巡って争う相手だからであり、

その状況をこそ、エディプスコンプレックスと言います。

 

父が死んだ事で、
その母の(異性に向ける)愛情を一身に受けるハズが、自分が収まるハズの後釜にはヴィクトールが収まり、

それどころか、
母が殺された事で、息子としての愛情すら得られなくなったハリー。

ハリーは、
周りの死霊(=モラル)に復讐を止められながらも、
自らのエディプスコンプレックスに導かれるかの様に、
ヴィクトールを殺す事に執心します。

 

しかし、復讐を果たした結果、
義父が、母の間近で永遠に眠る事になるというのは、
ある意味、皮肉な結末と言えるでしょう。

 

そして、もう一方のドラゴサニも、
父を打ち倒さんとします。

ドラゴサニも直接の父と言うわけでは無く、
これまた、ある種の義父と言える存在、

自分の能力を育て、
教育し、知識を授け、導く存在である、
「師」としての父、吸血鬼のティボール・フェレンジー、

即ち、
父性という強権を打ち倒す戦いを行うのです。

 

ドラゴサニは、
ディボールを殺し、
また、
ソ連の超常諜報戦術開発局長官のグレゴール・ボロウィッツという、二人の強権者を殺し、

その権力を得る事で、
自分が、その座に収まる事、
つまり、自分自身が「父」と成る事を画策するのです。

 

  • メビウスの輪

正邪の二人の主人公は、
共に、父を倒し、
その欲求を一時は満たしますが、
共に、皮肉なオチが待っています。

 

本作には、
時間と空間を超える超能力を実現する、
そのガジェットとして「メビウスの輪」が存在します。

長方形の真っ直ぐな帯を、
一度捻り、
その端と端をくっつける事で、
表も裏も無い図形として存在する「メビウスの輪」。

時空を超える超能力として描かれる一方、
本作では、

奇妙に捻れ、
ある種のループを形成するに至る、
ハリーとドラゴサニの運命をも象徴するものとしても、存在しているのです。

 

死闘の末、
共に命を落すハリーとドラゴサニ、
彼達の魂は肉体を離れ、
別の運命と、それぞれ合流します。

 

ハリーは何と、
自分の息子の魂と「同化」する事になります。

普通なら、エディプスコンプレックスは、
親離れし、社会に出る事で解消されますが、

そのエディプスコンプレックスのままに、父殺しを達成したハリー。

彼は更に、
息子自身に成る事で、
息子から、自分に向けられるハズのエディプスコンプレックスを回避し、

自分の妻=母の愛を独占するという離れ業を行うのです。

 

祖母、母から受け継いだ、
母系の能力ネクロスコープを極めたハリーは、

母、妻、(息子の)母、という、
母系の愛を独占し、
エディプスコンプレックス、ここに極まれりという、
ある種、異常な存在と言えます。

男児(幼児)の欲望を体現していると言えます。

 

一方、ドラゴサニ。

彼は、父権の強奪を達成しますが、
結果、
自分自身が最後には、ティボール・フェレンジーに寄生する吸血鬼そのものに成るという、
捻れた運命に陥ります。

つまり、自分自身に殺される運命を繰り返す事になるのです。

この奇妙なループは、
権力の栄枯盛衰を表し、

驕れる者は久しからず、の運命を体現してしまうのです。

奪い取った権力は、誰かに奪い取られるという恐怖を孕む、
それが、自分自身だという強烈な皮肉なのです。

 

共に、
正に「メビウスの輪」の様な奇妙なループに陥る
ハリーとドラゴサニ。

共に、父性、父権を巡る戦いを繰り広げながら、

お互いの能力の違い通り、

一人は命を繋げ、
もう一人は、命を奪われるループを形成するというのが、

対比を前面に押し出した、本作の特徴であるのです。

 

とは言え、
普通にオカルト伝奇アクションとしても楽しめる。

『ネクロスコープ』はエンタテインメントとしての面白さが確固としてあり、

個人的には、続きが読みたいと思わせるシリーズです。

 

 

コチラは下巻。邪悪そうな表紙ですが、実は主人公の母親なんだよなぁ…


 


スポンサーリンク