幻想・怪奇小説『失われた者たちの谷』ロバート・E・ハワード(著)感想  怪奇、拳闘、西部劇、ファンタジー!!バラエティ豊かなハワード入門書!!

 

 

 

休暇の途中の道行き、日が暮れ、目にした古屋敷にて一夜を明かそうとしたグリズウェルとジョン・ブラナー。不吉な夢を見て、ハッと目を覚ましたグリズウェル。気付くと何処からか口笛の音が聞こえ、それに誘われる様にジョン・ブラナーが歩いている、、、

 

 

 

著者はロバート・E・ハワード
『黒い海岸の女王』などの「コナン」シリーズで有名な著者。
コナンと言っても名探偵では無く、シュワルツェネッガーの映画の方である。
他、『黒の碑』等があるが、本書以外は絶版。

 

現在(2017年11月)、本邦で新刊で手に入る唯一のハワード作品集『失われた者たちの谷』。
本書は

ハワード入門にうってつけのバラエティ豊かな収録内容となっている。

 

怪奇テイストという基本がありながら、
拳闘、西部劇、ファンタジーといろいろ取り揃えて居る。

そして、作品に通底するのは、

ほとばしるエネルギーである。

 

どの作品も、うずくまった豹が飛びかからんばかりの力に満ちている。

よって、読後は無駄に昂揚した気持ちになる。

怪奇小説というテイストがありながら、その実ワクワクする冒険要素も入っている。

著者の他作品も読みたくなる事請け合いの入門書である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 続きが読みたい入門書

本書『失われた者たちの谷』は、編者の中村融氏のバラエティ豊かなチョイスが絶妙だ。

中でも、ファンタジー的アドベンチャーの「暗黒の男」「影の王国」が面白い。
しかし、シリーズの第1話の読み味を持つ両作品なので、面白い反面続きが気になる。

解説によると、(売れなかったらしいが)両作品とも続きがあり、クロスオーバー的作品もあるそうである。
是非とも一冊本でお次は出して欲しい。

 

  • 作品解説

本書は8つの中短篇からなる。

収録作品を簡単に解説してみたい。

鳩は地獄から来る
ストレートなゴシック・ホラー
とは言え、舞台はアメリカ。
恐怖に翻弄されるだけでなく、抗い、打ち砕くというノリがアメリカンである。

トム・モリノーの霊魂
拳闘物語。
普通の幽霊モノだが、アクション描写が面白かったりする。

失われた者たちの谷
西部劇から一転、漆黒のホラーをアクションを交えつつ描く
地底から湧き出る恐怖。ありがちなモチーフだが、迫真の描写でグイグイ読ませる。

黒い海岸の住民
短い作品ながら、復讐に燃える男の執念、そのものを描いている。

墓所の怪事件
ミステリ風に展開すると思いきや、やっぱりホラー。
この作品も地底から湧き出る恐怖である。
人の悪意を越える「おぞましい存在」に出会ったならば、逃げるが勝ちである。

暗黒の男
北欧アドベンチャー風のファンタジー。
アクションで読ませ、今後の展開も示唆しており、そこが魅力的ではあるが、第1話のみの収録である。

バーバラ・アレンへの愛ゆえに
定められた運命をなぞる事は、
自らに課せられた役割を全うする事である。
それを従容と受け入れる事が、臨終においての救いである。

影の王国
異世界風ファンタジー。
アクションにて疑心暗鬼と戦う脳筋的発想が面白い。
「俺たちの戦いはこれからだ」というジャンプの打ち切り漫画的ラストもある意味面白い。

 

 

「地の底から這い出る恐怖の存在」「蛇人間」等、モチーフ自体はよく見るものだ。

しかし、読み味は「在り来たり」なものでは無い。

それは、どの作品にも通底する怒りのエネルギー情熱のほとばしりによるものである。

恐怖に直面し、「何と言うことだ!」と怒りながら絶望している。
敵に出会ったら、命の危機に瀕しながらも怒りを爆発させる。

繊細でネガティブな感情を細やかに描くのが怪奇小説ではあるのだが、
ハワード作品においては、これにアクションを加え怒りにより恐怖に対峙して見せる。

そして、ある者は打ち勝ち、ある者は逃げだし、ある者は破滅し、着地点はホラーではあるのだが、その過程が他の怪奇小説とは一線を画しているのである。

本書『失われた者たちの谷』は面白い。
しかし、著者ロバート・E・ハワードの他作品を読む事は叶わない。

この悩ましいフラストレーションを抱えながらも、他作品の翻訳を期待して待って居よう。

 


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さて次回は、怪奇小説短篇の王道的作品集『塔の中の部屋』について語りたい。