映画『インランド・エンパイア』感想  最早映画に非ず!?複雑怪奇な迷宮映像!!

 

 

 

かつての名女優、ニッキーは新作映画の主演に抜擢され、再起を狙い張り切っていた。しかしその作品『暗い明日の空の上で』は実はリメイク作。元になったポーランド映画の『47』は主演が二人とも死亡したという曰わく付きの映画だった、、、

 

 

 

監督はデイヴィッド・リンチ
複雑、難解と言われる作品群の中で、本作が随一の奇怪さである。

映画監督作に
イレイザーヘッド』(1977)
『エレファント・マン』(1980)
『デューン/砂の惑星』(1984)
ブルーベルベット』(1986)
ワイルド・アット・ハート』(1990)
ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)
ロスト・ハイウェイ』(1997)
『ストレイト・ストーリー』(1999)
マルホランド・ドライブ』(2001)
『インランド・エンパイア』(2006)がある。

TVシリーズ監督作に
ツイン・ピークス』(1990、1991、2017)
『オン・ジ・エアー』(1991)がある。

 

主演はローラ・ダーン
デイヴィッド・リンチ作品の常連で
『ブルーベルベット』『ワイルド・アット・ハート』
TVシリーズの『ツイン・ピークス The Return』に出演している。

他代表作に
『ランブリング・ローズ』(1991)
『ジュラシック・パーク』(1993)
『きっと、星のせいじゃない』(2014)
『わたしに会うまでの1600キロ』(2014)
スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)等がある。

 

共演にジェレミー・アイアンズ、ジャスティン・セロー、ハリー・ディーン・スタントン、カロリーナ・グルシュツカ等。

 

現在(2017年10月13日)、デイヴィッド・リンチ監督の最後の映画作となっている『インランド・エンパイア』。

上映時間は3時間。
だが、私が映画館で観に行った時は、もの凄く短く感じた。
30分くらいだろうか?

何故なら、爆睡していたからだ。

 

開始5分で寝始めて、音が大きい時だけ起きる感じだ。
(裕木奈江のシーンだけ覚えている)

ファン失格な感じだが、パンフレットを読むと、試写会でもほとんど皆が寝ていたらしい。

安心した。どうやら初見では寝る映画らしい。

 

何故なら、難解だ、複雑だと言われ続けた監督の作品の中でも、

『インランド・エンパイア』は最も意味不明な映画であるからだ。

 

さらに荒い画像、
繰り返されるアップ、
抑揚のない展開、
これらがどうしても安眠を誘う。

暗い映画館の気持ちの良い座席なら尚更である。

結局何が言いたいのかというと、

正直、初見では寝てしまうほどつまらない

 

という事だ。

なので、この『インランド・エンパイア』は複数回観る事が前提となっている。
何度も観て、そうやって訳の分からない部分を解き明かして行くのが面白いのだ。

だが、その初見の段階で寝てしまうと(ほとんどの人間が寝る)、二度と観る事がないという矛盾がある。

それでも、変の映画が観たい!
と思われる方は是非挑戦してみてほしい。

もっとも、この作品

最早、映画とも言えないかもしれないが、、、

 

 

以下ネタバレあり


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  • 作品構成の解説

いつものデイヴィッド・リンチ作品なら、まずテーマを掴んでからストーリーを読み取って行く。

しかし、『インランド・エンパイア』においてはストーリーは勿論、テーマすら理解出来ない。

なので、まず機械的に作品の構造をまとめてみる。
それが難解なこの作品を理解する第一歩となる。

まず、この作品が意味不明なのは、「ストーリーの多重構造」の為である。
これを解きほぐす事が、作品を解き明かす事となる。

 

ハリウッドニッキー・グレース

新作映画『暗い明日の空の上で』で再起を狙うニッキーのいる場所。
共演はデヴォン・バーク
監督はキングスリー・スチュワート

映画女優でセレブ。
旦那(ピョートル)がいる。

映画のスーザン役を演じる内に、役と同じようにデヴォンと不倫をしてしまう。

映画『暗い明日の空の上で』スーザン・ブルー

映画『暗い明日の空の上で(ON HIGH IN BLUE TOMORROW)』の世界。

夫がいるスーザン・ブルーは、
豪邸にいるビリー・サイドと不倫している。

舞台はハリウッド。
昔っぽい雰囲気だが、現代が舞台。

大人数でダベっている娼婦達がいる。
スーザンとは昔馴染み?

ドライバーで刺す暗示をかけられた女性はビリーの妻ドリス・サイド
暗示をかけた人間はファントムという東欧のサーカス団の男。

スーザンは一軒家に住んでいる。
に妊娠を告げるが喜ばない。
結局産んだようだが、子供(息子)は死んでいる。

夫にDVを受け、その相談を眼鏡の男(Mr.K)にしている。

ポーランドの映画『47

ハリウッド映画『暗い明日の空の上で』の元ネタ。

黒い服の女が浮気を疑う夫(ファントム)にDVを受ける。
道で会った黒い服の女に、夫は「お前といた事のある男が死んでいる」と言う。

白い服の女が浮気しているに「子供(娘)は渡さない」と言う。

黒い服の女は右脇腹から血を流して死んでいる。

不倫相手も死んだようだ。

ウサギ人間のいる部屋

頭がウサギの人間が三匹?いる。
喋る度に何処からか合いの手の笑いが巻き起こる。

オス?は部屋を出入りしている。

TVを観ている女性ロスト・ガールの部屋

TVの画面に、ニッキーの世界、ウサギの人間の部屋、『暗い明日の空の上で』、『47』といった、他の舞台が映っている

それを、女性(ロスト・ガール)が涙を流しながら観ている。
ビリーと呟き、涙するが、電話が繋がる先はウサギの部屋。

 

  • 複雑さを助長する演出

『インランド・エンパイア』はこれら世界が重なる多重構造になっているのだ。

実は6重構造なのだが、それは後ほど)

しかも、画像が粗く、また場面転換もハッキリ分からない為、今、どのパートの話なのか判別が困難なのだ。

さらに、人の顔の判別が付けづらい。

ローラ・ダーン(ニッキー/スーザン役)が二役しているのは直ぐ分かるが、他の人間の顔の見分けが付かないので、その事もパートの判断が出来ない理由である。

私などは、みんな同じ顔に見えた。

…それもそのはず。

実際に、同じ役者が二役、三役しており、違うキャラクターが同じに見える様に、混乱させる構成になっているのだ。
その為、顔で役や場面を判断する事が出来ず、ただでさえ粗い画像でストレスが溜まるのに、観客自身の記憶にすらノイズが混じって溜まっていくのだ。

 

以下、まとめてみたい。
スタッフロールに名前が載っていなくて、私が判断した箇所が多分にあり、間違っている可能性もある事を、御了承頂き、その場合はご寛恕、ご指摘願います。

役者名。
その下に役柄の名前。

場面のパートは
ハリウッド(1)
『暗い明日の空の上で』(2)
『47』(3)
ウサギの部屋(4)
TVの部屋(5)と番号分けする。

ローラ・ダーン
ニッキー(1)
スーザン(2)

ジャスティン・セロー
デヴォン(1)
ビリー(2)

ピーター・J・ルーカス
ピョートル(1)
スーザンの夫(2)
黒い服の女と不倫している、白い服の女の夫(3)

ジュリア・オーモンド
ドリス(2)
白い服の女(3)

カロリーナ・グルシュツカ
黒い服の女(3)
ロスト・ガール(5)

クシシュトフ・マイシュカフ
東欧のサーカス団のファントム(2)
クリンプ(2)
(上記二人が同一人物かどうかは不明)
ファントム(3)

 

 

役が絡まり合っていて混乱する。
しかし、あらかじめ仕掛け分かっていれば、多少は判別が付くであろう。

 

  • 最早映画に非ず

デイヴィッド・リンチ監督はこう言っている。

「映画を作る時、わざわざ低いレベルの観客に合わせて作る必要は無い」と。

確かにそうだ。
まずは、自分が納得出来なければ、良い作品になれないだろう。

しかし、
畢竟、映画とはエンタテインメントである。
作った作品を観る人間がいてそれは成立する。

その意味で、他人の快適な観賞を考慮しないこの『インランド・エンパイア』は、従来と同じ観点で映画と言える代物ではない

むしろ、本作は、
その複雑怪奇な構造を解き明かしてつなぎ合わせる事が目的の、映像パズルである。

そして、それが本作のテーマである。

 

  • あらすじまとめ

ようやくテーマが掴めたので、ストーリーをざっとまとめてみたい。
あくまで私の解釈です。
(以下ストーリーネタバレあり)

ポーランド映画『47』。
最初は娼婦と客として出会った二人が結婚する。
だが黒い服の女は夫(ファントム)を裏切って、他の男と不倫をする。

そして、『47』にて主演を演じた女性が、役と同じように不倫をし、殺されてしまう。

彼女はロスト・ガールとして部屋(『47』という映画)に囚われ、地縛霊の様に後悔しながらTVで世界を見ている。

(恐らく、『暗い明日の空の上で』のスーザンの夫が銃を取ったシーンで泣いている女性もロスト・ガール)

映画『暗い明日の空の上で』では、スーザンとビリーが不倫関係になる。
だが、ビリーは緑のコートを着たスーザンの夫に殺され、スーザンはクリンプ(or ファントム)に操られたドリス(白い服を着ている)に右脇腹をドライバーで刺され死亡する。

…というシーンを撮影した後、ニッキーは映画の中に入る様に、暗闇からスーザンの家へ行き、ビリーを殺した銃を手にする。

その銃をニッキーはクリンプにぶっ放すのだが、
それはロスト・ガールから見ると、
『47』にてビリーを殺したファントムであり、
ビリーの似姿である「スーザンの夫」を裏切った「スーザン=不倫した自分の罪」でもあった。

ベティーにより、自らの恨みと罪を浄化された(?)ロスト・ガールはビリー(スーザンの夫)と息子(スーザンの息子?)に再会し、成仏する。

ここは錯綜した事実関係をワザとそのままに、単純に『47』にて愛し合い死んだ二人が、「ロスト・ガール」と「スーザンの夫」に転生した形で結ばれるエンディングになっている。
どちらも、実在しない存在ではあるが。

…だが、それも全て、明日の事を昨日みてしまう、冒頭に出て来た謎のオバサン訪問客(グレイズ・ザブリスキー)が不思議能力を使って見せた、これから起こる未来の記憶だった!
(魔術師が見通すのは「future past」(未来における過去)ならぬ「past future」(過ぎ去りし未来)である)

つまり、5つの世界を全て包含する、オバサンの記憶(夢)、という6重構造である。

一言で言うと夢オチだ。

だが、夢オチでも、相手が地縛霊なので、記憶による未来の「予行演習」であっても救われたのであろう。

そして、映画自体があれほど混乱していたのは、オバサン自体が混乱した人間だからだ。
彼女の記憶によって再構築された世界であるが故に、ザラザラした一貫性のない内容であったのだ。

つまり、オバサンの頭の中の話だから『インランド・エンパイア』なのだ。

また、その記憶を投影されたのはニッキーなので、登場人物は、ニッキーの知る人物が被って出演する事になったと思われる。

そしておそらく、オバサンによって祓われたので、『47』のリメイク作『暗い明日の空の上で』が血みどろになる事は避けられるだろう。

 

…だが、細部の判明は未だ完了していない。

ウサギ人間、
「私と会ったことあるなら言って」というセリフ、
謎のおっさんクリンプ、
ファントムが銃を渡されたシーン、
ラストシーンでの足の悪い女性(ファントムの妹)や猿や木を曳いていた場面の解釈もしたいが、
未だそこまで考えが及ばないのが実際だ。

 

  • 小ネタを少々

謎のウサギ人間。

オスの声はスコット・コフィ。

そしてメスの2匹。
アイロンの方がナオミ・ワッツ
ソファに居る方がローラ・ハリング
マルホランド・ドライブ』での主演の二人だ。

そして、日本人の裕木奈江が日本人英語を喋って出演している。
初見時爆睡していた私だが、何故か彼女のシーンだけ起きていた覚えがある。

また、スーザンが死ぬシーンは『ツイン・ピークス』のクライマックス第16章にそっくりのシーンがある。

おそらくセルフオマージュだろう。

 

  • デジタルビデオにて撮影

『インランド・エンパイア』はフィルムで撮っていない。
全篇デジタルビデオ(ソニーのDSR-PD150)にて撮影している。

ハンディなカメラなので、監督自身が持ちやすく、直ぐに撮影開始が出来るという利点もあるが、
一方画質はそれほど良くない。

(ハンディなので無駄に顔のアップが多い。画質が良くないので、ワザとさらに画質を落として作品にしている)

手軽に撮影が出来るので、突発的に映像を撮影し、積み重ねたそれを組み立てた作品が『インランド・エンパイア』となったのだ。

 

 

パズルの如き作品『インランド・エンパイア』。

最初はあんなにつまらなかったハズが、何度も観て話の筋を理解して行く内に、だんだん面白く思えて来るのが不思議だ。

これがリンチマジックであり、ファンを止められない理由なのである。

 

 

現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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収録作は『イレイザーヘッド』『エレファント・マン』『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』の6作品

 

 

 

 

 


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これにてリンチの作品特集は終了。次回は監督名鑑としてデイヴィッド・リンチ作品をまとめてみたい。