映画『ロスト・ハイウェイ』感想  見たままのものが真実ではない!

 

 

 

「Dick Laurent is dead」(ディック・ロランとは死んだ)ある朝、そうインターホンに呟く声をフレッドは聞く。その翌日から、玄関に一本ずつビデオテープが届く。最初は家の外観のみだったのが、2本目には屋内の映像が映っていた、、、

 

 

 

監督はデイヴィッド・リンチ
後のデイヴィッド・リンチの映画の印象を決定付けたのがこの作品だとも言えるだろう。

映画監督作に
イレイザーヘッド』(1977)
『エレファント・マン』(1980)
『デューン/砂の惑星』(1984)
ブルーベルベット』(1986)
ワイルド・アット・ハート』(1990)
ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)
『ロスト・ハイウェイ』(1997)
『ストレイト・ストーリー』(1999)
マルホランド・ドライブ』(2001)
インランド・エンパイア』(2006)がある。

TVシリーズ監督作に
ツイン・ピークス』(1990、1991、2017)
『オン・ジ・エアー』(1991)がある。

 

主演のフレッド役にビル・プルマン
主な出演作に
『ゾンビ伝説』(1988)
『プリティ・リーグ』(1992)
『インデペンデンス・デイ』(1996)
『イコライザー』(2014)等。

レネエ役にパトリシア・アークエット。
主な出演作に
『トゥルー・ロマンス』(1993)
『エド・ウッド』(1994)
『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)等。

他、共演にバルサザール・ゲティ、ロバート・ロッジア、ロバート・ブレイク等。

 

不気味な『イレイザーヘッド』
ミステリーの『ブルーベルベット』『ツイン・ピークス』
バイオレンスの『ワイルド・アット・ハート』

いずれも奇妙な物語だが、まだ理解の範疇にある作品だった。

しかし、本作『ロスト・ハイウェイ』は違う。

食べているポップコーンが口からこぼれても
気付かない位、訳が分からない。

 

あまりの奇妙なさに、終始口が開けっ放しになってしまう。

とにかく見ている途中で

「は!?どうしてそうなるんだヨ!!」

 

とツッコまずには居られない。

何かが起こっているが、それが理解出来ないが故に、より一層気持ちの悪いものが残る。

観た後に、気持ちが晴れないままモヤモヤを抱えるのだが、しかし、

この不条理が一種の快感でもある。

 

謎を解くというより、謎そのものに触れる楽しみが味わえる。
『ロスト・ハイウェイ』とはそういう作品であるのだ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • テーマから掴む作品

では、この訳のわからない『ロスト・ハイウェイ』はどうやって理解すれば良いのか?

ここはやはり、他のデイヴィッド・リンチ作品同様まずテーマを掴むのが肝要である。

普通の作品は、ストーリーによってテーマを語る。
しかし、デイヴィッド・リンチ作品の場合はストーリーが理解出来ない作品が多い。

なので、ストーリーというか映画全体の印象からテーマを汲み取って、その上で再びストーリーへと立ち戻ると作品の全体像が見えてくる

この構成こそが、デイヴィッド・リンチ作品を二度見、三度見へと誘うのだ。
とはいえ、そこからまた再び細部の謎へと嵌って行くのだが、、、

まずは、『ロスト・ハイウェイ』のテーマを掴んでみよう。

 

  • 『ロスト・ハイウェイ』のテーマとは?

これはまず、フレッドの作中の発言がヒントになる。
レネエが「主人はカメラが嫌い」といった直後の台詞である。(00:24:30 あたりから一部抜粋)

「I like to remember things my own way.」
(物事を自分なりに覚えていたい)

「How I remembered them. Not necessarily the way they happened.」
事実の通りに記憶したいとは思わない

と言っているのだ。

そして、作品のオープニングとエンディング曲。
デビッド・ボウイの「I’M DERANGED
題名を直訳すると「私は錯乱した」とでも言おうか。

そして、パンフレットに依れば、『ロスト・ハイウェイ』のシノプシスにはこう書かれているそうだ。

「LOST HIGHWAY –a psychogenic fugue-」

「a psychogenic fugue」とはどういう意味か?

英ナビ!というサイト(http://www.ei-navi.jp/)で調べた所、こういう翻訳結果であった。(以下翻訳結果抜粋)

「人が、彼らがだれであるかを忘れ、新しい人生を歩むために家を離れる解離性障害。記憶喪失状態の間、以前の人生の記憶がない。回復後、解離状態の間の出来事の記憶がない。」

どうだろうか?
ほとんど『ロスト・ハイウェイ』のストーリーそのものの意味ではないか。

これらの事を総合し、まとめてみると『ロスト・ハイウェイ』とは、

不都合な記憶を捨て去り、意図的に解離性障害を発生させ記憶喪失となった男が別人格どころか別人となる話、である。

簡単に言うと、解離性同一性障害の話、つまり多重人格の男の話である。

だが勿論、テーマは分かっても、そこから再び謎が発生する、、、

 

  • 何故ピートになったのか?

では何故ピートへと変身したのか?
レネエの過去に関わりのある、Mr.エディーと繋がっているからだろうか?

ここでは、私の個人的な解釈を披露してみたい。

ピートはMr.エディーの女であるアリスと出会う。
何故アリスがレネエとそっくりなのか?

それはピート=フレッドであるから、
その対比でアリス=レネエである、というだけなのだ。

つまり、アリスの実像はレネエとは似ていなくて、ピート(と観客)にとって「レネエに見える」というだけなのだろう。

つまり、アリス=レネエとは虚像、別人である。
(白塗り顔のミステリーマンもそう言っている)

Mr.エディーことディック・ロラントの女という共通点があるだけなのだ。

さて、何故そもそもフレッドがピートになったかだが、それは結果から逆に考えてみる。

フレッドはディック・ロラントに落とし前をつける必要があった。
何故ならディック・ロラントは、フレッドが疑うレネエの不貞の相手だからだ。

実際アンディと繋がっているレネエはディック・ロラントとも関係が続いていたのだろう。

嫉妬か、憎悪か、レネエの過去への嫌悪か、フレッドはレネエを殺害する。
そしてその記憶は忘れる。
不都合な事実は、自らが嫌う「ビデオ」として客観的な映像として認識する

そして、面識の無いディック・ロラントを知る為に、彼に繋がるピートとして別人格になり、
さらにディック・ロラントの女のアリスを寝取ったのであろう。

つまり、ディック・ロラントに近付き、そういう事が出来る存在がピートだった
日本風に言うなら、ピートに憑依したと言ったところか。

だが、アリスのラストのセリフ「You’ll never have me(あなたは私をモノに出来ない)」で我に返って、ピートからフレッドへ戻ったのだろう。

結局アリスも、レネエもフレッドではなく、ディック・ロラントのモノだった(とフレッド本人が感じている)のだ。

なので、アリス自身、少々フレッドの別人格が入ったキャラクターである言える。

 

  • ミステリーマン

単純に時系列順に言うと、

フレッドがレネエの不貞を疑う
→レネエを殺害(不都合な記憶は忘れる)
→ディック・ロラントの女を寝取る(自分ではなく別人格の行動)
→ディック・ロラントを殺害する

という話なのだろう。
これをセリフや人物を錯綜させて、奇妙な話にしているから理解し辛くなっているのだ。

では、あの白塗り顔の男ミステリーマンとは一体何なのか?

恐らく、彼もフレッドの別人格、というより心の中の悪意だろう。

自らが見たくない現実、
唾棄すべき行動を示唆する存在、
その象徴として、自らが嫌うカメラを構えて歩み寄る。

そういう負の存在がミステリーマンなのだ。

ミステリーマンがレネエの不貞を示唆し、
ディック・ロラントへの復讐を促す存在。

言うなればメフィストフェレスなのだろう。

 

 

 

色々語ってきたが、これは勿論私の観点であり、それが正解ではない。

観た人間がそれぞれ、何かを想い、そして心の中にズッシリとしたしこりをのこす作品。

『ロスト・ハイウェイ』とはそういう映画なのではないだろうか。

 

 

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収録作は『イレイザーヘッド』『エレファント・マン』『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』の6作品

 

 

 

 


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そして次回『マルホランド・ドライブ』について語ってみたい。
因みに、Mr.エディーが車の試運転をして、煽った男をシメた所がマルホランド・ドライブだ。