幻想・怪奇小説『キョウコのキョウは恐怖の恐』諸星大二郎(著)感想  夢幻の狭間にたゆたう不安の具現化!!

現在絶版中です。

 

農業技術試験場の旧館へ所用で遣いに行った稲本。どうやら書類を貰い忘れたらしく、昨日に続き、今日も行く事になった。その途上のバスの中で、キョウコと名乗る不可思議な女性が声をかけてくる、、、

 

 

 

著者は諸星大二郎
本書は唯一無二の奇想漫画家の初小説集である。
『キョウコのキョウは恐怖の恐』(本書)
蜘蛛の糸は必ず切れる
の2冊の小説集がある。

漫画の代表作に
『暗黒神話』
『妖怪ハンター』シリーズ
『栞と紙魚子』シリーズ
『西遊妖猿伝』
BOX ~箱の中に何かいる~』等がある。

 

漫画家・諸星大二郎が著した初の小説集『キョウコのキョウは恐怖の恐』。

本書は5つの中短篇からなる怪奇小説集。

著者・諸星大二郎の漫画が好きなら存分に楽しめる。

 

読んでいると、著者の絵が思い浮かんでくる。

ジャンル的には、正に幻想・怪奇小説。

悪夢をそのまま具現化した様な恐怖小説である。

 

漫画家の小説なので、どうかと思われるかも知れないが、

むしろ恐怖小説としてはかなりの面白さがある。

 

私が著者のファンという事もあるだろうが、もっと小説作品があってもいいと、
そして、もっと知られてもいいと感じる作品集だ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • イメージ喚起型小説

本書『キョウコのキョウは恐怖の恐』は著者・諸星大二郎の本業が漫画家なだけあって、読むと映像のイメージが喚起される
それも、著者自身の漫画でだ。

そもそも、諸星大二郎が小説を書いたのは、漫画のネームを読んだ編集者に書いてみてはどうですかと勧められた事が切っ掛けだったらしい。

*ネームとは、漫画の下書きの様なもの。
人によっては書かなかったり、文のみの人もいるそうだ。

自分の場合は著者の絵が立体で動いている様な感じを本書からイメージとして受け取れる。
著者の漫画のファンなので、新鮮な面白さがある。

個人的には、言語遊戯的な作品より、
イメージ喚起型の小説の方が読み易いので、その意味でも本書は面白い。

 

  • 悪夢の具現化

『キョウコのキョウは恐怖の恐』の内容を一言でいうと悪夢の具現化である。

著者の漫画は、SF、伝奇、ホラー、民俗学系とその幅は広いが、どの作品にも奇妙なユーモアがある。

それは、本書にもシュールなユーモアとして通底しているが、殆ど恐怖によって押し隠されている。

絵によって和らげられていた恐怖が、文のみになった事で、より先鋭になった印象を受ける。

そして、ホラーでありながら幻想的、どこか悪夢の続きを見ている様なボンヤリとした恐怖がヒシヒシと迫ってくる

構成の妙で魅せるミステリ・ホラー、
設定やスケールで読ませるスペクタクル・ホラー、
残虐さや狂気を描くサイコ・ホラー、
本書『キョウコのキョウは恐怖の恐』はそれらとは違う、日常のすぐ裏にある様な身近なホラーを描いている。

そして、どこか上品な印象も受ける。
漫画もそうだが、これは著者の人柄が影響しているのだと思う。

 

  • 作品解説

全5篇の作品を個別に解説してみる。
最初の3篇にはキョウコという狂言回しが出てくる。

狂犬
キョウコのキョウは吉、凶の凶。
喪われて行くモノの悲哀が、現実と悪夢の狭間で揺れ動く。
キツネや犬神といった、著者ならではの物語素材を扱っている。
幻想的だが、本篇が本書で一番理路整然としているという事実。

秘仏
キョウコのキョウは恐怖の恐。
誰を信じて良いのか?自分の感覚、行動すらも怪しいのが恐ろしい。
まさに、触らぬ神に祟りなし、である。


キョウコのキョウは狂気の狂。
他人の悪夢に紛れ込んだ様な意味不明さを感じる。
世界どころか、自分の存在感すら曖昧である。

鶏小屋のある家
内容自体はシュールだが、イメージしながら自らの体験として読んでゆくと笑えない怖さがある。

濁流
何故、そんな事が起きたのか?
その意味は何なのか?
そういう詳しい事は分からなくとも、不思議なノスタルジーと爽やかな読後感がある。
人生の不安も、濁流と共に流された、みたいな、、、

 

狂言回しのキョウコは漫画『BOX~箱の中に何かいる~』においてトリックスターとして登場している。
興味があれば、そちらも是非ご一読を。
因みに、キョウコのキョウは興味の興である。

 

 

漫画家・諸星大二郎の小説作品である『キョウコのキョウは恐怖の恐』。

本書は著者が描くホラー、曖昧な存在への不安感といったものを悪夢的に表現したものである。

著者の漫画のファンは勿論、怪奇小説ファンも満足できる作品集だ。

文庫でも何でも良いので、復刊が望まれる作品集である。

 

キョウコも活躍する著者の漫画、全3巻。

 


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さて次回は、再び諸星大二郎の小説作品『蜘蛛の糸は必ず切れる』について語りたい。