漫画『BOX ~箱の中に何かいる~』諸星大二郎(著)感想  諸星版リアル脱出ゲーム!?

 

 

 

高校生・角田光二の元に送られてきたパズルの箱と「入場券」。それらに導かれて向かった先には、謎の立方体、巨大な「箱」があった。そこに集まった7人の男女+飛び入り参加の「キョウコ」。彼等は「箱」の中に足を踏み入れる、、、

 

 

 

作者は諸星大二郎
独特の作風によりファンが多い作家だ。
代表作に
『暗黒神話』
『マッドメン』
『妖怪ハンター』シリーズ
『西遊妖猿伝』シリーズ
『栞と紙魚子』シリーズ、等がある。

本作『BOX~箱の中に何かいる~』は全3巻、
『月刊モーニングtwo』2015年12月号~2017年10月号まで連載された。

 

民俗学系、伝奇、SF、ホラー、ギャグ、ファンタジー等、様々なジャンルの作品を独特の世界観で漫画化する、唯一無二の作家・諸星大二郎。

本作『BOX~箱の中に何かいる~』にて描かれるのは、ホラー風味の謎解きミステリー。
言わば

諸星大二郎プロデュース、
リアル脱出ゲーム(漫画版)といった内容だ。

 

作者の手作りのトリックや謎解きがふんだんに仕込まれた、パズル漫画である。

パッと読み流すより、
じっくりゆっくりパズルを解きながら読むのが面白い。

 

舞台は「箱」の中。
なので、ソリッド・シチュエーション的な感じを受けるかも知れない。

しかし、「箱」の内部は不思議空間になっており意外に広い。
なので、閉鎖空間の限定状況といった感覚は薄い。

パズルを解いて、ステージを進んで行く感じだ。

そして諸星漫画お馴染みの

名状しがたき存在(unnamable)がうじゃうじゃ出てくる。

 

つまり雰囲気はやっぱり諸星漫画、パズル漫画といえど

論理的思考+超常現象的な展開となっている。

 

色々なジャンルの漫画を描きながら、やはり諸星漫画という芯はぶれない。
本作『BOX~箱の中に何かいる~』も、彼の作品のファンなら問題なく楽しめる作品である。

 

 

以下ネタバレあり

 

 

 

  • 狂言回し vs トリックスター

本作『BOX~箱の中に何かいる~』の登場人物の一人、キョウコは作者・諸星大二郎の小説集『キョウコのキョウは恐怖の恐』に出てくるキャラクターである。

声に出したい題名の本だ。

本作においては「興味の興」の「興子」という名で出演し、トリックスターの立場で「箱」の中に侵入する。

また、狂言回しとして、謎の少女(?)が「ナビゲーター」として登場する。

メインのストーリーで「箱」の謎解きを強いられる七人のメンバーを尻目に、この二人のイレギュラーが火花を散らす。

諸星大二郎は伝奇、民俗学、SF、ホラーなどが目立つ作家であるが、その作品においては意外とアクションも目立つ

この辺はやはり、『週刊少年ジャンプ』出身の作家である。

 

  • じっくり読みたい作品

『BOX~箱の中に何かいる~』において提示される謎解きは、意外と地に足がついた物である。

ミステリー小説によくある「こんなの、あり得ないだろ」という感じでは無く、じっくり考えたら正解に辿り着けるレベルだ。

なので、自分で考えて謎を解く楽しみがある。
是非焦らず余裕を持って読んで欲しい。

 

  • 名状しがたきモノ

その一方で、世界観は不可思議極まりない。

「箱」という限定された状況のハズが、内部は不思議空間、東京ドーム3個分位ありそうな雰囲気だ。

そして諸星漫画にお馴染み、人間が崩れた様な不定形の存在「名状しがたきモノ(unnamable)」もウジャウジャ出てくる。

不気味な存在だが、諸星漫画ファンにとっては「お、出たな」と思わせる、ある意味レギュラー的な存在なので妙な安心感があるのが不思議だ。

さて、この存在。
読む者の不安をそのまま表わした様な存在でありつつ、諸星作品に通底するテーマも象徴している。

それは、「名状しがたき不安感」といったモノである。

普段、目の端に映っていながら敢えて無視しているもの。
言い表せぬ将来への不安。
暗い道の曲がり角で、何かが待ち受けているかのような予感。

こういった未知への恐怖や拭いがたい不安を端的に表わす存在が「名状しがたきモノ」であり、
諸星漫画はそれをテーマに描いた作品が多い。

本作においては、そのラストにて自らの「名状しがたき不安感」を生贄に捧げる事になる。

人は皆、何らかの不安・不満を持って生きている。
それが無くなれば、今までとは違う自分に成ってしまう。

「箱」に呼ばれたメンバー達は、その不安・不満を大きく抱えた人間であり、脱出の際、それを捨て去る事でむしろ以前より幸福そうになっている。

一方、不安感を持ち前の好奇心で楽しんでいた「キョウコ(興子)」は、それを失い、キャラまで変わっていたのは皮肉な感じがする。

 

  • 諸星作品の絵

諸星大二郎という作家は、漫画大国である日本において唯一無二の存在である。

作風もそうだし、特にその絵柄に後に続くフォロワーが居ない。

それは、諸星大二郎の世界観自体と絵柄が密接な関係にあるからだろうか?

絵の線に独特の雰囲気があるのだ。

人物を例に取ると、女性キャラは目が斜視気味な感じで、睫毛が長い。
体のラインも美しく、独特のエロチックさがある。

本作でいうと、男のキャラのハズの惠(めぐみ)が、顔は中性的に、体が女性的に描かれていたのが印象的だった。

話自体も面白いが、この独特な絵を眺めているだけでも私にとっては面白いのだ。

 

 

 

謎解きを中心に、「脱出ゲーム」的な作品であった『BOX~箱の中に何かいる~』。

しかし、雰囲気はいつもの「名状しがたき不安感」を表わしており、ファンの期待は裏切らない。

好きな作家が変わらず面白い作品を作ってくれる。
これほど幸福な事があるだろうか?

万人には受けずとも、一部にはやっぱり『BOX~箱の中に何かいる~』は名作として映るだろう。

 

 

 

諸星大二郎の名を世に知らしめた名作の愛蔵版


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さて次回は、本作のトリックスター、キョウコが出演する作品集、小説『キョウコのキョウは恐怖の恐』について語りたい。