漫画『惑星クローゼット(1巻)』つばな(著)感想  浸食されるアイデンティティの恐怖!!

 

 

 

見知らぬ場所で見知らぬ女の子が呼びかける、「だめ!!ここを離れなきゃ!!」…この夢を契機に、愛海は眠る度に異世界へと旅立ってゆくのだが、それと並行して現実でも、、、

 

 

 

作者はつばな。他の単行本に
『第七女子会彷徨』全10巻
『見かけの二重星』
『バベルの図書館』
ホブゴブリン 魔女とふたり』がある。

本作『惑星クローゼット』は「月刊バーズ」2017年1月号から始まり、現在も連載中である。

 

さて、表紙はふわふわ系女子のいちゃラブストーリーっぽく見える。
実際、『第七女子会彷徨』はそれっぽい雰囲気の漫画であった。

しかし、本作『惑星クローゼット』は違う。
言うなれば

侵略SFモノである。

 

しかもどことなくホラーテイストの演出をしている。
そして、侵略されるのは

自己のアイデンティティである。

 

油断しているとバクリと噛みついてくる。

崩れてゆく日常を描いている『惑星クローゼット』。
ちょっと変わった漫画が読みたいあなたにオススメである。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 深化したホラーテイスト

つばなという作家は『第七女子会彷徨』にて短編SF漫画を長年描いていた。
そこでは、日常から一歩踏み出した世界、少し今、こことは違う世界をSFとして描いていた。

可愛い絵でタッチも柔らかだったのだが、実はその時から、「アイデンティティ喪失の危機」をテーマにしたエピソードが多数みられた。

そして、本作『惑星クローゼット』はそのテーマを追求した作品となっている。

その影響か?『第七女子会彷徨』はSF+ギャグテイストがメインだったのだが、『惑星クローゼット』はSF+ホラーテイストという仕上がりになっている。

絵柄はほぼ同じである。
それなのに一方はほのぼのとした雰囲気。
不思議な事に、もう一方は何処か「虚ろ」とした雰囲気を醸している。

つばなはもともとスッキリとした絵を描く作家である。
しかし、『ホブゴブリン 魔女とふたり』を見ると背景を丁寧に描けば細かい描写も可能なのだと分かる。

『惑星クローゼット』では「虚ろ」の雰囲気を出す為に、抜くところは抜く、という背景を描いているのだ。
平原や荒野、夜や闇での道行き、どれも果てしなく続いている様な気になってしまう。

怖い絵だけではなく、背景だけでも不気味なのだ。

 

  • 侵略SFの恐怖

本作のメイン、バディを組んでいる二人は侵略の危機にさらされている。

愛海は夢の世界?を訪れる度に、徐々に日常にその世界が染み出してきている。

そしてフレアの方は異世界において、その記憶自体が段々薄れてゆく。

どちらも侵略SFの恐怖を表す手段だが、メインの二人に当てはめる事で違う恐ろしさを同時に表現しているのが面白い。

また、話の先が全く読めない。
これも面白い。
そもそも何故愛海は世界を行き来できるのか?
フレアは記憶を自主的に封印してしまったのか?
謎が謎であるから恐怖も生まれるのだ。

この恐怖は謎にも、世界にも、そして相棒にもアクセスが困難な「双方向性の断絶」によりさらに増やされる。

 

いつか二人が現実で出会う時、その時、謎と恐怖が解けるのか、それとも爆発してしまうのか今から楽しみである。

 

  • 少し思った事

『惑星クローゼット』を読んで思い出した作品がある。

可愛らしい絵柄に反して不気味なSF展開。
異世界探訪。
クローゼット。
その昔、『ミルククローゼット』(富沢ひとし・著)という怪作があった。

何処となくテイストが似ているので、『惑星クローゼット』の雰囲気が気に入ったら、こちらもチェックしては如何だろうか?

 

 

先に紹介した『好奇心は女子高生を殺す』も女子SFバディモノであった。

しかし、同じ枠組みを使っても「テーマ」の選択によって大分読み味が違ってくる。

併せて読むと、同時に別方向に広がる物語の楽しみが味わえてお得だろう。

 

 

 

 


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さて次回は、女子は女子でも死亡系女子の日記を覗き見る『ローラの日記』について語りたい。