幻想・怪奇小説『ウェンディゴ』アルジャーノン・ブラックウッド(著)感想  怪奇小説、良い子、悪い子、普通の子!!

 

 

 

ヘラジカ狩りに出かけた一行。しかし獲物は全く仕留められず、深い森の中を進むことにした。そこは人跡未踏の地。前年は、何やら良からぬ噂が流れ、そして今も、何処からか臭いが漂う土地であった、、、

 

 

 

著者はアルジャーノン・ブラックウッド
イギリス出身の怪奇幻想作家。他の著作に
『秘書綺譚』
『人間和音』等がある。

 

本書『ウェンディゴ』には3篇の中篇が収録されている。

私見を言わせて頂くと、この3篇、出来に差がある。

まさに、怪奇小説の

良い子(面白い)
悪い子(分からない)
普通の子(それなりに楽しめる)

 

と言える読み味の3篇である。

表題作の「ウェンディゴ」は怪奇小説。

他2篇はオカルト趣味が混じっている。

 

この描写を読むのが難しい人も多いだろう。

表題作は面白くてオススメなのだが、他2篇は人を選ぶ。
素直に勧め辛くて何とも悩ましい作品集である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • オカルト趣味

アルジャーノン・ブラックウッドは神秘学の秘密結社である「黄金の夜明け団(The Hermetic Order of the Golden Dawn)」に所属し、オカルティズムの信奉者であった。

その影響は本書『ウェンディゴ』収録の

アーニー卿の再生
にも色濃く見られる。

特に「」は全篇オカルト趣味が炸裂している。
正直、私には意味が分からなかった。

状況描写と神秘学の話が主で、ストーリーがないように思えたのだ。

勿論、それが「砂」の持ち味であるのだが、私には合わなかったというだけである。
これが面白いという人もいるだろう。

アーニー卿の再生」は途中までは怪奇小説として面白く読めた。
しかし、私にはクライマックスでの抽象描写が煩わしいと感じてしまった
話のネタ自体は面白い。

…どうやら、私はオカルト小説は合わない様だ。

 

  • 直球怪奇小説「ウェンディゴ」

その一方、表題作である「ウェンディゴ」は面白い。
普通の怪奇小説として楽しめる。

まず、起承転結がはっきりしていて読みやすい
何かが起こるぞとほのめかす「起」。
鹿狩りが上手くいかず、いわく付きの場所へ行く「承」。
怪異が起こる「転」。
そして「結」。

そして、特徴的なのが、怪異そのものが姿を見せない点だ。
読者と登場人物は怪異の足跡や、怪異に晒された人物の様子から間接的に「ウェンディゴ」の驚異を知る。

この直接見せずに想像力を喚起して読ませる方法が上手いのだ。

恐怖とは内なるもの。
直接描写ではなく、読者の恐怖を呼び覚ます方向で作ってあるのが面白いのだ。

 

 

本書『ウェンディゴ』の3篇の私の評価は

「ウェンディゴ」面白い。
「砂」理解出来ない。
「アーニー卿の再生」クライマックスが惜しい。

と言った感じである。

特に「砂」は、日本語で書かれてあるのに全く意味が理解出来なかった。
訳者の方はどうやって訳したのかと、不思議でならない。

だが、オカルト趣味が薄い「ウェンディゴ」は、怪奇小説として大変面白い。

同じ作者の作品なのに、これほど読み味が違うものなのかと驚く。

読書を楽しめるかどうかは、作者の感性と合う、合わないという部分が大きい。

結局は、個人の好みであり、実際に読まないと判断は出来ないのである。

 

 


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さて次回は、怪異と遭遇し、それを排除する男の話、映画『トロール・ハンター』について語りたい。