幻想・怪奇小説『忌み地 怪談社奇聞録』福澤徹三、糸柳寿昭(著)感想  はじめの挨拶から始まる、実話怪談


 

怪談社の糸柳(しやな)と上間(かみま)が集めた「怪談」の数々。それを、取材のプロセス込みで、文章として書き起こしたのが福澤。本書は、福澤の地元、K市に多数存在する「事故物件」にまつわる怪談の数々を中心に、怪談実話を多く取り揃えている、、、

 


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著者は、
怪談収集、取材:糸柳寿昭
文章:福澤徹三

糸柳寿昭は、実話怪談師。
「怪談社」として、全国で怪談にまつわるトークイベント等を行っているらしい。

福澤徹三は小説家。
ホラーや警察署説、怪談実話などを手掛ける。
代表作に、
『すじぼり』
『Iターン』
『侠飯』 等がある。

 

 

怖い物みたさ、ってのがあるでしょ?

人間、
怖いもの、嫌なものには近付きたくはありませんが、

しかし、
絶対安全な所から、
第三者目線で、恐怖を「体験」して、ドキドキしたい

そういう欲求を、誰しも持っているものと思います。

 

この「安全圏」の見極めが、
意外と難しい。

これをスレスレで挑戦し過ぎると、
バンジージャンプとか、スカイダイビングとか、モータースポーツとか、
そういう、
実際に、自分の体が、死と隣り合わせの興奮というものは、

一度経験したら、病みつきになると言います。

 

その点、
「実話怪談」というものは、
非常にリーズナブル。

怖くて、刺激的で、リアリティがあって、

でも、安全

遊園地の、ジェットコースターの様に、

絶対安全な恐怖を味わう事が出来ます。

 

しかし、
遊園地のジェットコースターが、
まれに事故を起こすことがある様に、

「怪談」自体も、
のめり込みすぎたら、支障が出る

努々、それをお忘れ無きように…

 

 

と、言うわけで、
本書『忌み地 怪談社奇聞録』です。

本書は、基本、至って普通の実話怪談。
(本書では、「怪談実話」と表記されています)

人から聞いた体験談という名目の、恐怖譚
即ち、
「怪談」が、ズラリと並んでいます。

 

その数、45篇(前書きと後書きを入れると47篇)。

帯を見ると、
まるで、全部が事故物件の続き話の様に思われますが、

福澤徹三の地元というK市を舞台にした話は、
実際は、
最初の2篇と、最後の5篇、合計7篇のみですね。

その辺は、悪しからず。

 

因みに、
福澤徹三の出身地は、
福岡県の北九州市だそうです。

K市って、北九州市の事?

 

それはさておき、

まぁ、所謂、実話怪談というものは、

「実話怪談」というジャンルなので、
実際には、
全部が「実話」という訳ではありません

個人的には、
ホラーのショートショートとして楽しんでいます。

そりゃぁ、
語る本人は「これは、実話です」と言いますよ。

でも、それって信じられるんですかねぇ?

「これは、創作ですが、怖い話です」

と言われたら興醒めだから、

話にスパイスを加える為に、
「全て実話」という態にしている、

と、思っているのですが、
実際はどうなのでしょうね?

 

本書の収録作品でも、
「怪談稽古場」
「アヨノサト」は、作った話っぽい雰囲気ですが、
どうでしょうか?

「多磨霊園まで」も創作っぽいですが、
これは、読んでゾッとしましたね。

 

でも、
もしかして、
この中に、
本当に起こった事が、
あるかもしれない。

 

そういう、
玉石混淆を味わえるのが、
実話怪談の短篇集の醍醐味と言えるのではないでしょうか。

 

その上で、
本書ならではの面白さというのは、

コンセプトとなっている、

取材のプロセス込みで、
怪談を記述している事です。

 

「怪談」というのは、
基本、体験談なので、
本人の語り
若しくは、
それを知った他人が、あたかも本人に成り代わって語る事で、
その場に、臨場感が生まれます

しかし、
怪談を収集したという行為があるのならば、
その怪談を取得する前段階、

誰から、
どういった形で、
何処で、
どの用に、
怪談を聞いたのか、

 

その、ドラマがあるハズなのです。

本書は、そこに目を付け、
取材のプロセスを、怪談の前口上として、
各話に挿入しています。

 

ぶっちゃけ、
本書は、その前段階が、面白い。

怪談を聞いたら、現場に行ってみるとか、
古い民家を狙うとか、
警戒心を持たれない様に「郷土の歴史を調べている」と言い訳するとか、
相手に不審がられたら単刀直入に尋ねるとか、

この辺、
実際に、人に当たって怪談を収集した経験があるからこその、
「リアルな体験談」と言えるものです。

 

この、見知らぬ他人から話しを引き出す、
というコミュニケーションの部分はつまり、

全て、成功談であるのです、
怪談を聞き出す、という目的は達成しているのですからね。
(中には、「撮影禁止」みたいな異分子もありますが)

 

本書では、

コレコレ、こういう事があって、
この話を聞き出したのだよ

というプロセスが描かれており、

そのプロセス自体に説得力があるので、

「怪談」本体にも、
リアリティがある(かのように読者が錯覚する
という効用があるのです。

 

こういう効用を狙って本書を作ったというなら、
成程、と唸らざるを得ません。

怪談というものを、文章で語る。

その方式も、色々あるのだと感心させられます。

実話怪談にも、語り方が色々ある、
それを教えてくれるのが、
『忌み地 怪談社奇聞録』なのです。

 

 

  • 『忌み地 怪談社奇聞録』のポイント

実話怪談、ショートショート

取材のプロセス込みで、怪談を語る

実録!?怪談は、こうやって集めるべし、その手法を公開!?

 

 

 


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