映画『盆唄』感想  撮影者と被写体の共同作業から、奇跡のクライマックスにいたる盆踊り!!

2015年、東日本大震災の影響で、帰還困難区域に指定された福島県、双葉町。この町出身で、現在は他所に引っ越した、盆踊りの太鼓打ち、笛の奏者、唄い手は、先祖代々続いた盆踊りの存続の危機に直面し、如何ともし難い気持ちを抱えていた。そんな折り、100年以上前にハワイに移住した福島出身者が伝えた「盆踊り」が、今もフクシマオンドとして、当地に生きている事を知り、、、

 


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監督は中江裕司
長篇劇作品とドキュメンタリーの両方を撮る。
主な作品に、
『ナビィの恋』(1999)
『ホテル・ハイビスカス』(2002)等がある。

 

 

本作は、ドキュメンタリー映画です。

しかし、
ドキュメンタリーと一言でいっても、
様々な種類の作品があります。

 

事実をそのまま、忠実に映像化した作品

フラットな目線で、
事実を淡々と描写する事に務めた作品と言えます。

先日紹介した、
作兵衛さんと日本を掘る』なんかは、このタイプ。

それは、記録映像として価値はありますが、
ぶっちゃけ、観ている方にサプライズはありません

 

自分が伝えたい事が確固としてあり、
それを伝えんが為に、事実、証言、を都合良く取捨選択するタイプ

ドキュメンタリーという名目にて、
事実を使って、
虚構を作っている感じの作品。

つまり、自分の都合の良いように、
事実をねじ曲げる事も辞さない作品。

例えば、マイケル・ムーアの作品なんかは、このタイプですね。

このタイプは、
言いたい事が確固としてあり、
しかも、クセがあるので、
観ている分は面白いですね、
まぁ、
全く信用出来ませんが

 

さて、本作『盆唄』は、
そのどちらでもありません。

敢えて言うなれば、
撮影者と被写体が、共同作業にて物語を作って行くタイプなのです。

 

人間、
カメラを向けられると、平常心では居られません

必然、
カメラを向けている人の期待に応えようとしがちです。

相手の言って欲しい台詞を忖度して言ってしまったり、
自分を格好良く見せる為に、大きい事を、言ってしまったり etc…

 

この現象が、
ドキュメンタリー作品だと、何が起こるのか?

被写体は、撮影者の期待に応えようとし、
撮影者は、面白い画、ストーリーが欲しい。

そうなれば、
被写体が、思わず言ってしまった事が、
撮影者という、意識せざるを得ない第三者の存在により、
なし崩し的に、行動に移さざるを得なくなるのです。

これは、
被写体と撮影者の、
言わず語らず、あうんの呼吸の共同作業と言えます。

 

本作でも、
撮影者に促される様に、

被写体は帰還困難区域に訪れ、

ハワイへ行き、

かつて、福島へ移住した人の故郷、富山を訪ねます。

これはどれも、
撮影者が欲しかった、ストーリーのある、
インスタ映えならぬ、映画映えする「画」と言えます。

 

それで終わると、ある意味予定調和ですが、

本作は違います。

それは、クライマックスと言える、
最後のパート。

双葉町の出身者達は、
福島出身の、仮設住宅に住まう人々の為に、

盆踊りを復活させるのです。

 

ここまでに至る、
帰還困難区域篇、ハワイ篇、富山篇、
どれも、それなりに面白いですが、

しかし、
この最後の「盆踊りの復活篇」こそ、

双葉町の出身者達が本当にしたかった事であり、
撮影者が撮影したかった事であり、
そして、
映画を観ている鑑賞者も、期待し、観たかった事であるのです。

 

これを踏まえて、
本作『盆唄』の前半を考えると、
また、感慨深いものがあります。

人生、本当にしたい事があっても、
時機が来ていなかったり、
タイミングが合わなかったり、
準備が不足していたり、
様々な理由で、叶わない事が多いです。

しかし、
正にその紆余曲折の果てに、
丁度、その「秋(とき)」が来る事があります

『盆唄』では、
その奇跡のタイミング、
「機は熟した」という「秋」を映像に収める事に成功しています。

 

帰還困難区域にて、
戻れない往時を思い、

ハワイにて、
僅かでも、自分達の「盆踊り」が息づいて行くのを願い、

かつて、富山から福島へ移住した人達の物語に、
現在の、
福島から、各地へ散っていった人達の行く末を重ね、

様々な事を経て、
やっぱり、今、自分達が出来る事で、
自分達の盆踊りを、地域に密着した形で、未来へ繋げようとする。

 

被写体と、撮影者の共同作業から始まった「物語」が、

本当にしたかった「盆踊りを復活」という事態を、掘り当て、

それを、実現する。

『盆唄』は、
ドキュメンタリーの持つある種の力が、
奇跡的に結実した様子を観る事が出来る作品と、
言えるのかもしれません。

 

 

  • 『盆唄』のポイント

生活を奪われた、後の人達の生活の様子

帰還困難区域篇、ハワイ篇、富山篇で紡ぐ、盆踊りの物語

未来へ想いを繋げたいという、クライマックスの盆踊りの復活

 

 

 

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