伝奇小説『人魚ノ肉』木下昌輝(著)感想  幕末に蔓延る人斬り!!正体は妖(あやかし)!?

 

 

 

坂本竜馬、岡田以蔵、中岡慎太郎、かつての幼馴染みの彼等は幼少の頃人魚に出会い、そしてその血肉を喰らっていた!?数年後、岡田以蔵が持っていた人魚の肉が流出、新撰組隊士の面々も、それを喰らうのだが、、、

 

 

 

 

著者は木下昌輝
デビュー作の『宇喜多の捨て嫁』が直木賞候補となる。
本作は第二作目。
他の著作に
『天下一の軽口男』
『敵の名は、宮本武蔵』
『宇喜多の楽土』等がある。

 

 

本書『人魚ノ肉』は、

幕末の京都にて、
新撰組隊士の面々が各々直面する幻想怪奇の数々を綴った連作短篇集です。

 

各エピソードが緩やかに繋がっており、
それを繋ぐのは、

いわゆる八百比丘尼伝説。

 

人魚を食べ、不老不死となった伝説、
これをベースとして
人魚の肉を食した人物が見舞われる怪異を描いています。

 

本作の面白い所は、

幕末の京都、新撰組を舞台として、
史実をベースに大胆な解釈をしている所。

この奇想天外さが、
本作を伝奇小説たらしめている所以です。

 

あの事件、
この出来事、

歴史に詳しくなくとも何となく知っている人物が、
歴史を刻んだ出来事の裏に出会っていたのはホラー現象!?

それだけで、
もうワクワクしてしまいます。

 

血なまぐさい新撰組の活動、

その一方で、さらに呪われた現象に見舞われる剣客達。

奇妙奇天烈、だから面白い、
『人魚ノ肉』はそういう小説です。

 

 

  • 『人魚ノ肉』のポイント

幕末の京都、新撰組隊士が出会う幻想怪奇の数々

史実をアレンジした奇想天外なストーリー

様々な読み味が楽しめる連作短篇集

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 伝奇か、幻想怪奇か?

本作『人魚ノ肉』の読み味は独特なものです。

新撰組という魅力的な題材、
人によっては時代劇としても楽しめます。

私としては、
幻想怪奇小説
そして、伝奇小説として大いに楽しめました。

 

ホラー描写も色々あり、その読み味もかなりのもの。

単純に、怪異が次々と現われるのも、
妖怪小説として面白かった所です。

 

一方、伝奇小説としても、

奇想天外なストーリー、
史実をアレンジした展開、
エンタテインメントな内容など、

これまた格別の物があります。

 

伝奇小説か、ホラー小説化か?

そういう区別に拘るより、単純に楽しんだ方が面白くもあります。

 

  • 収録作解説

では、全8篇の短篇を簡単に解説してみます。

緩やかに繋がった連作短篇でもあります。

 

竜馬ノ夢
みんな大好き、ループもの。
しかし、最悪のタイプである。

坂本竜馬という、
日本史においても屈指のキャラクターを木っ端の如く扱うぞんざいさが素晴らしい作品です。

 

妖ノ眼
猫に小判、豚に真珠、
未来が見える眼をもっていても、
その使い方、解釈を間違えば不幸でしか無い。

というか、
定められた破滅には、抗うことすら無意味というホラー的なオチが秀逸。

 

肉ノ人
新撰組屈指の人気キャラ、沖田総司。
このキャラクターの大胆アレンジが面白い作品。

喀血したのは病気では無い、
むしろ血を飲んでいて、吹き出した!!

この逆転の発想から逆算したかの様な設定が秀逸です。

吸血鬼というカッコイイ系の妖怪と、
沖田総司というイメージの融合具合もマッチしていてグッド。

 

血ノ祭
アンファンテリブルな子供時代の「悪友」と長じて再会し、
昔の誓いを実行しようとするも、
それを果たせない者の物語。

ホラーなおぞましさより、
むしろノスタルジックな感じさえする、不思議な読み味の作品です。

 

不死ノ屍
作中で、最悪なオチの物語。

ホラー的な部分の面白さもさる事ながら、
現状に不満を持ち、後先考えず勢いで行動をすると最後は破滅に終わるのという教訓をも含んでいます。

組織と個人の意思が和合しないのは、
いつの時代も同じなのですねぇ。

 

骸ノ切腹
「武士の本分は主に仕える事」とは、
私は『シグルイ』で知ったタイプの人間です。

自身に、何か一つでも「誇りとなる自信」があれば、
それが生きる力となる

しかし、それが必ずしも人生に叶う力では無いというのが、
世知辛い所です。

とは言え、
故人の遺志を、残された者が継ぎ、無念を晴らす。

そうして成仏出来る想いもあるのかもしれません。

 

分身ノ鬼
別の名前を名乗っていたのは何故か?
単純に別の人物だったからだ!

と、これまた逆転の発想。

一つの道を究めようとすると、
段々と自らの内に没頭して行く事になります。

究極的には、自分自身との戦いとなる。

それを言葉の通りに展開させた作品です。

私は山田風太郎の『柳生十兵衛死す』を思い出しましたね。

 

首ノ物語
エピローグ的な内容。

読み返してみれば、プロローグの「竜馬ノ夢」ともども、
人魚の「血肉」を食した岡田以蔵と坂本竜馬は、
共に歪んだ形で不死を実現しているのですね。

そして、
「人魚ノ肉」のみを食した新撰組隊士は、「妖」となって破滅に向かっています。

そして、舞台となった「京」自体も、うらぶれてしまった感じ。

関わるもの全てを不幸にする「呪い」。
それが本作における人魚伝説である様に思います。

 

 

幕末の京都、新撰組という魅力的な題材、
これを大胆アレンジして伝奇ホラーの連作短篇としたのが本作です。

新撰組隊士は、意図せず、その場のノリで「人魚ノ肉」を口にし、
そして自らが「妖」となってしまいます。

巻き込まれ型の不幸にて、人生が劇的に変化する。

自分の意思、目的とは違った方向に人生が流転して行くのは、
実生活でもよくある事。

このストーリー展開をメインとして、

いわゆる新撰組界隈の武勇伝的な伝説を、
怪異的なストーリーとして解釈しているのが本作のポイント。

それが、奇想天外ながらも、奇妙なリアリティをも生み出している、
それが本作『人魚ノ肉』なのです。

 

 

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