映画『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』感想  刹那に全てを懸けた者達の狂騒劇!!

高頻度取引(HFT)で利鞘を稼ぐ会社、トレス・サッチャー社で働くヴィンセト・ザレスキとアントン・ザレスキ。従兄弟同士の彼達は、仕事外で何かを企んでいた。
仕事そっちのけの彼達のプロジェクトは、カンザスからニューヨークまで、一直線に光ファイバーケーブルを敷設しようというものであったが、、、

 

 

 

 

監督は、キム・グエン
カナダ出身。
監督作に、
『魔女と呼ばれた少女』(2012)
『きみへの距離、1万キロ』(2017)等がある。

 

出演は、
ヴィンセト・ザレスキ:ジェシー・アイゼンバーグ
アントン・ザレスキ:アレクサンダー・スカルスガルド
エヴァ・トレス:サルマ・ハエック
マイケル・マンド:マーク・ヴェガ 他

 

 

 

ハチドリ(Hummingbird:ハミングバード)。

ハチの様に羽ばたきながら、花の蜜を吸う鳥です。

その羽ばたきは、
毎秒約55回、最高で約80回をも数えるとの事。

その一瞬の羽ばたきとなぞらえたのが、
高頻度取引(high-frequency trading : HFT)。

 

HFTとは、Wikipedia を参考にすると、
1秒に満たないミリ秒単位のような極めて短い時間において、
コンピューターにて、自動的に、
株のやり取りを行うシステムの事だそうです。

何処かの誰か(Aさん)の「売り注文」を察知すると、
先回りして、その株を買い、
価格を僅かに吊り上げて、
その吊り上げた価格で、Aさんに売る。

すると、
その価格差の「利鞘」が丸儲けとなるのです。

 

まるで、
「刃牙」シリーズの、
「意識に浮かぶ前の察知」レベルの株取引。

Aさんは、自分に損失が生まれた事すら、気付かないのです。

この薄利多売による、安定した利益創出のシステム、
端的に言うと、
高頻度取引をしている人の利益は、していない人の損失により成り立っているのです。

 

故に、不公平さが際立つこの手法は、
米国、欧州、日本でも、規制が強化されました。

 

その切っ掛けとなったのは、
映画の元ネタとなった、
『マネー・ボール』『世紀の空売りー世界経済の破綻に賭けた男たち』等で有名な、

マイケル・ルイスの著作、
『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』。

この本の出版が、
一般にも「高頻度取引」というシステムを知らしめ、
その問題点を浮き上がらせたのです。

 

そして、本作『ハミングバード・プロジェクト 0.01秒の男たち』は、

その、高頻度取引に賭けた男の物語です。

 

トレス・サッチャー社の強権的な社長、
エヴァ・トレスの支配から脱却し、

自分達のみで、
高頻度取引の新たなシステムを構築しようと企む、ザレスキ従兄弟。

それは、カンザスからニューヨークまで、
1600キロメートル、
一直線に光ファイバーケーブルを敷設し、
最も早い「高頻度取引」により、
いの一番の利益を創出しようとの魂胆からであった。

パトロンを見つけ、
秘密裏に計画を推し進め、
遂に、
トレス・サッチャー社に辞表を出したザレスキの二人。

退社の際、
二人に罵声で答えたエヴァ・トレス。

しかし、腑に落ちないものを感じたエヴァ・トレスは、
探偵に二人の動向を探らせる。

ザレスキが、自分を裏切り、
会社以上のシステムで、独自の「高頻度取引」を行おうとしている事を突き止めたエヴァ・トレスは、

二人の計画を潰そうとする、、、

 

 

そんな本作、言うなれば、

個人のイノベーション VS. 大企業の権力、資金力

 

という戦いなのです。

0.017秒かかっていた通信時間を、
0.016秒に縮める。

0.001秒に、全てを賭けた戦いなのです。

 

目的の為に、一意専心、
口八丁手八丁で、手段を選ばぬヴィンセント。

プログラムの事しか考えぬコミュ症、アントン。

性格悪く、脅し、すかし、わめき散らすエヴァ。

一癖も二癖もある奴らが、
夢と欲望の為に鎬を削る人間悲喜劇。

 

傍から見たら、
欲望丸出し、アホ丸出しで、

子供の喧嘩レベルの精神性、

しかし、
それ程までの「本気度」であるからこそ、
身も蓋もない必死さが、面白いのです。

 

ハチドリの羽ばたきよりも短い、

0.001秒の為に生まれる狂騒劇。

その、大山鳴動ぶりが
本作『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』の面白さなのです。

 

 

 

  • 『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』のポイント

個人 VS. 大企業

イノベーションが生まれる時

大山鳴動して鼠一匹

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • イノベーションが生まれるとき

人が、誰もやった事の無い、革新性。

それは、
誰も「やろう」としないアイディアなのか?
誰もが、やる前から「不可能」だと断じてしまう事なのか?

本作、『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』では、

1600キロメートルを、
一直線でぶち抜くというアイディアが秀逸。

しかも、その目的が、
「0.001秒縮める為」というのが、狂気じみています。

しかし、
観る方としては、
狂気の沙汰ほど面白い、これも又、事実なのです。

 

この狂気を現実のものとする為に、
ヴィンセントは口八丁手八丁、

光ファイバーケーブルを通す場所の地権者に、
「あなたの生活の向上にも、きっと役立ちます」と、
根も葉もない、露程も思っていない事を、
ペラペラと囀ります。

その意味でも、ハミングバードなのか?

ハチドリの鳴き声は、
人間の可聴域を超えているといいます。

聞こえない鳴き声、
=内容の無い発言、という意味が込められているのかもしれませんね。

 

それに加え、面白いのが、
エヴァ・トレスの性格の悪さ。

『Mr.ビーン』の面白さは、
関わりたくないが、傍から見る分には面白いというもの。

本作のエヴァ・トレスも、その類い。

美人で、気が強くて、オッパイがデカくて、リーダーシップのある社長、
傍から言動を見る分には面白いが、
態度がデカ過ぎて、自分は関わりたくないタイプですね。

 

このエヴァ・トレスが、ヴィンセントに、
子飼いの懐刀であるアントンを盗られた(と本人は思っている)事で、

可愛いさ余って憎さ百倍

恨み晴らさでおくべきか
と、いわんばかりに、

資金力と権力を振りかざし、
相手の計画に被せて、
電波塔の基地局を乱立させる形で、
通信時間の短縮を図り、
ヴィンセントの計画を潰そうとしているのが、

面白いのですね。
(自分がやられるのは、腸煮えくりかえりますが)

 

誰もやらない事を、敢えてやる

それがイノベーションを生みますが、

本作では、もう一つの、イノベーションを生む原動力、
他人、世間に対する、恨み、嫉み、妬みという負の感情をも描き出しているのですね。

 

以下、ラストのオチに関わる形の記述となります

 

 

  • 大山鳴動して鼠一匹

本作『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』は、

結局、そのオチは、
大企業の前に、
個人が敗れ去るというものです。

答えは「3」
現実は非情である
ポルナレフの如くに、絶望的な終わり方です。

しかし、
最も大切なのは、結果では無く、
そこへ向かうという過程であり、
そこで得た体験は、無駄では無いと、

現場監督のマークは、ヴィンセントへと告げます。

 

そして、
アントンも言います。

「ハチドリの一瞬の羽ばたきの様に、瞬間に過ぎ去る時に意味はあるのか?」と、問うヴィンセントに、

ハチドリの羽ばたきが一瞬のものだったとしても、
その一瞬こそ、充実した一生という瞬間なのだ、と。

時間の長短は、相対的、
ならば、その価値も、
人それぞれの、相対的なもの、
一生という価値に、時間の「長さ」は関係無い。

プログラムに耽溺する、
理系ならではの、合理的なアドバイスであり、

「0.001秒」にかけた本作ならではの、
まとめ形だと思います。

 

…しかし、
負けて終わった事に、
何処か、
心の中に、釈然としない、
不満のようなものがわだかまるのもまた、事実。

何故なら、
現実を生きる、
我々、多くの凡人の観客は、

その人生において、
常に、大企業や権力者に、スコスコにいわされる人生を送っているからです。

せめて、
物語の中だけでも、
弱いヤツが勝って欲しい!

判官贔屓と言われても、
何処か、そういう「理想のハッピーエンド」を望んでいた自分がいました。

 

作品で扱った「高頻度取引」という題材や、
キャラクター描写、
目的達成を目指す、一意専心の熱さなど、

見処が多くとも、
あまりに、現実的なラストに、
ちょっと、醒めてしまう、

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』は、そん印象の作品でした。

 

 

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本作が元ネタとして、参考にしたのがマイケル・ルイス作の『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』です



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