映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』感想 否応なく過去と直面する時

 

 

 

ボストンでビルの管理人をしているリー。腕は確かだが無愛想、人と交わらず鬱々とした毎日を送っている。ある日、リーに兄のジョーが倒れたとの連絡が入る。リーは兄が居て、自らもかつて過ごしたマンチェスター・バイ・ザ・シーに急ぐ、、、

 

 

 

*舞台はイギリスのマンチェスターではなく、アメリカのマサチューセッツ州にある「マンチェスター・バイ・ザ・シー」という町である。

監督はケネス・ロナーガン。映画脚本家として活躍し、本作は監督3作目。
主演のリーにケイシー・アフレック。共演にミシェル・ウィリアムズ等。
アカデミー賞で脚本賞と主演男優賞を獲得した。

家族の凶報で地元に帰ってきた時、

過去に置いてきたものと否応なく対面してしまう。

 

あなたも、不都合な過去を持っていませんか?それと対面してしまった時、人はどうするのか?心に痛みを抱えたまま対処する男の物語だ。

 

以下ネタバレあり


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  • 家族の死

急いでマンチェスター・バイ・ザ・シーまで向かうも、兄のジョーは亡くなってしまっていた。
家族の訃報で地元に帰る。ほとんどの人間が経験する事だ。その時、日常には関わらない、普段目を背けていた問題と直面する場合もあるだろう。
介護問題、遺産相続、リーの場合は、ジョーの忘れ形見・甥のパトリックの後見人にされてしまった事だ。そして、これは、リーが過去に捨ててしまいたいものと再び向き合う事でもあった。

  • 過去の傷

甥のパトリックは陽キャのヤリチン。クラブ活動のアイスホッケーやバンドやセックスで大忙しで、青春を満喫している。当然地元から出たくない。しかし、リーはマンチェスター・バイ・ザ・シーに止まりたくはなかった。

リーも過去はパトリックのような陽キャで、地元で馬鹿騒ぎをし、妻のランディに呆れられながらも、子供3人と共に幸せに暮らしていた。
しかし、自らの過失で子供を死なせてしまい、衝動的に拳銃自殺を図るも果たせず、妻とも別れ、立ち直れずにうらぶれてしまっている。
地元で愛されていたリーはおそらく、重過失でありながら、情状酌量等を受け、実刑を受けたのかは定かではないが、軽い刑罰で済んでしまった様に見える。しかし、それが逆に、リーが自分自身を許せず、未だ心が壊れたままの原因の一つになってしまっている様に思う。

  • 重ならない気持ち

一方、元妻のランディは再婚をし、新しく子供も授かり、日常生活をまともに送る分には回復している。そのランディとリーがばったり出会い、会話をするシーンが悲しい。

ランディは子供を喪った時、リーをさんざん詰った。リーを悪者にし、攻撃して散々責め立てる事で悲しみを忘れ、乗り越えられたのだろう。しかし、当の悪者であるリー本人は、それを受け入れる事で立ち直る機会は失われ、今も引きずり、壊れたままの心で過している。
そして現在、ランディは自分が立ち直る為にリーを悪者にした事。そして、リーがそれを甘んじて受け入れたが為に、心が今も壊れたままでいるという事に気付いている。
ランディの涙は、自分が潰してしまったリーの心への涙だ。しかし、リーはその謝罪を受け入れる事は出来ない。「なんでもないよ、もう気にしてないよ」と言うしかないのだ。ランディの謝罪を受け入れてしまったら、自分が悪者ではなくなってしまう。リーの方からすると、謝罪を受け入れてしまうと、ランディに非があったと認めてしまう事になるからだ。

だから、二人の想いは重なる事はない。どんなに相手を気遣っても、それが返ってお互いを傷付ける事となる。

  • 乗り越えられずとも

リーはパトリックの後見を、長年の友人のジョージに託す。リーはランディと同じ町には住めない。やり場の無い怒りを晴らす為に夜な夜な喧嘩を繰り返す訳にはいかないのだ。

それでも、人付き合いを拒み続けていたリーがパトリックに、俺の所に遊びに来いと暗に誘うシーンには救われる。リーはパトリックを見捨てた訳では無い。それは、パトリックにも伝わっているハズだ。何故なら、リーが今でも子供の事を想っている事をパトリックは知っているのだから。

  • お気に入りのシーン

まず一つは、倒れたジョーを顧みずに、訳のわからない事をのたまう(元)妻のエリーズ病室から出て行くシーンだ。「なんだこのクソは!?」と、思わずリーと同じセリフを言ってしまう。

もう一つはパトリックがバンドの練習をするシーン。リズムが遅いのか速いのか分からないが、とりあえずドラムをディスって自分が優位である様に主張する。スクールカースト上位っぽいヤツがよくやるマウンティング行為だ。あのドラムの表情がいい。遠からずドラムはバンドを抜けるだろうなぁ、、、

 

 

越えられる壁ばかりではない。どうにもならない事もある。
それでも、立ち直る為の一歩をリーは踏み出したのだと思いたい。

U-NEXT


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さて、次回は、もやもやした気分を吹き飛ばす、悪党には粛正だ!怪奇小説『ジョージおじさん――十七人の奇怪な人々――』について語りたい。