映画『マタンゴ』感想  極限状況にて現れる人間の剥き出し!!

 

 

 

ヨットにてクルージングを楽しむセレブとその仲間達。しかし突然の嵐に巻き込まれ、遭難してしまう。食料も無く、水も無く、霧の立ちこめた大海原を漂流する一行は、無人島に辿り着くが、、、

 

 

 

監督:本多猪四郎
特技監督:円谷英二
脚本:木村武
原案:『夜の声』ウィリアム・ホープ・ホジスン(著)
原作:福島正実
協力:星新一

このメンバーの錚々たるを見よ!
公開は1963年。

 

出演者と(役名)は
久保明(村井研二:心理学者)
八代美紀(相馬明子:村井の教え子)
土屋嘉男(笠井雅文:青年実業家)
水野久美(関口麻美:歌手)
太刀川寛(吉田悦郎:作家)
小泉博(作田直之:艇長)
佐原健二(小山仙造:水夫)

主にこの七人のメンバーで話は進む。

 

伝説の怪作『マタンゴ』。
「ドラゴンクエスト」シリーズのモンスターの元ネタで、名前だけは知っているという人も多いだろう。

たしかに、本作はモンスターホラーである。
しかし、主題はそこには無い。

極限状況に置かれた人間の剥き出しになる本性を描いている。

 

食料が減少し、暑く湿度の高い気候、島から脱出出来る当ても無く、ストレスばかり溜まってゆく。

しかし、キノコはそこら中に沢山ある。

 

食べてはいけない。
でも腹が減っている。
神経がイカレるというが、どの程度なのか分からない、、、

危険な状況において統率のとれない人間の浅ましい姿を映し出す『マタンゴ』。

笑い飛ばすか、
教訓を得るか、
それこそ、観る人次第である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 最悪のサバイバル

楽しいクルージングのハズが、遭難し、無人島に辿り着いた5人のボンボンと2人の雇い人。

どうやら、先人がいたらしく、遭難船を発見する。

しかも、食料がまだある状態で、、、

さらに、船内はカビだらけ、
鏡は全て無くなっており、
怪しげなキノコの標本がある。

そして、航海日誌から島の状況、
実験記録からキノコが食用に向かないという事を知る。

やってはいけない事、やるべき事は最初に明確に提示される、
なのに、そのガイドラインから皆がどんどん外れてゆく

何故か。
それは利己的に行動する人物が集まってしまっていたからだ。

これで、圧倒的なリーダーがいたらまた話が違ったかもしれない。
しかし、統率出来る人間もおらず、各人の勝手な行動が段々野放しになってゆく。

どうせ助からないと自暴自棄気味に他人に絡む者、
他人の目を盗み缶詰を独占しようとする者、
見つけた食料を自分用に貯め込む者、
欲望に身を任す者、
一人で脱出を謀る者、、、

自由な意思と平等な権利というものは、文明社会でのみ通用するもろいルールなんだと思い知らされる。

 

  • 怪奇!!マタンゴの恐怖!!

「キノコを食べると神経が狂う」
「キノコ食が原因で全滅したらしい」
「動くキノコを目撃する」

他にもサインが色々ある。
なのに、皆が次々とキノコを食べてしまう

そこへ至る各人のルートこそ、『マタンゴ』の見所である。

1:警告を無視して腹一杯食べるアホ。
2:そのアホに肩入れし、追放されてキノコ食に手を出す。
3:状況に絶望し、我を忘れる者。
4:マタンゴに襲われ、キノコ食に至る者。

状況が連鎖的に転がり、結果全滅に至る。

ラストの余韻も凄い。

結局、口では食べていないと言いはりつつ、村井も食べてしまっていたのか?
それとも、マタンゴに触られて、胞子か何かで感染してしまったのか?

どちらか分からないが、「私もキノコになってしまえば良かった、、、」という独白がもの哀しい。

恋人、友人も無くし、孤独を感じているのか、
結局感染しているのに、文明社会に戻って何になると思っているのか。

絶望的な状況から生還した人間が、苦悩を感じながら生きてゆくより、皆と一緒にマタンゴになりたかったと言ってしまうのだ。

 

  • 驚異!!マタンゴの魅力!!

そしてキノコ食初期には妙に活力があり、肌の色艶のいい事がまた、恐ろしい。

衣装まで新調し、妖艶な魅力を発揮する麻美が笠井を誘い出し、キノコを勧めるシーンの緊張感が凄い。

「止めろよ~、服まで変わってるのは怪しすぎるだろう」と思わずツッコまざるを得ない。

そして、発育するキノコが大きく膨れ上がる様子、
また、「うふふ」「ふぉふぉふぉ」といった笑い声が恐ろしくもあり、妙に魅力的だ。

 

 

 

名前だけが有名な過去の名作。

現代の目線で観ると色あせてしまっているものも多数あるが、本作『マタンゴ』は紛れもない名作である。

私の場合はネタバレしていても楽しめた。

追い詰められた人間が人倫を捨て、マタンゴへと転がり堕ちてゆく様が浅ましくも哀しい

だが、そういう弱さも人間の一面であり、それを容赦なく描いているからこその名作であるのだ。

この先も、語り継がれる事だろう。

 

 

 


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さて次回は、本作の原案『夜の声』を著したウィリアム・ホープ・ホジスンの作品、小説『<グレン・キャリグ号>のボート』について語りたい。