アメリカ、ニュージャージー州パターソンにてバスの運転手をしているパターソン(人名)。朝は6時過ぎに起き、空き時間には詩をしたため、バスを運転し、妻のいる家に帰り、夜の犬の散歩の途中バーに立ち寄り、一日が終わる、、、
監督はジム・ジャームッシュ。
主な監督作に
『パーマネント・バケーション』(1980)
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)
『ミステリー・トレイン』(1989)
『デッドマン』(1995)
『コーヒー&シガレッツ』(2003)
『ブロークン・フラワーズ』(2005)
『ギミー・デンジャー』(2016)等がある。
主演のパターソン役はアダム・ドライバー。
必殺技みたいな名前だが、近年売り出し中の役者である。
主な出演作に
『J・エドガー』(2011)
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(2013)
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)
『沈黙 -サイレンス-』(2016)
『ローガン・ラッキー』(2017)
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)等がある。
共演にゴルシテフ・ファラハニ、バリー・シャバカ・ヘンリー、永瀬正敏、等。
『パターソン』にて描かれるのは、町と同じ名前を持つパターソンという男の一週間の物語である。
そう、言うなれば
民謡の「一週間の歌」を映画化した様な作品である。
普通の男が、普通の生活をしているだけである。
朝起きて、仕事へ行って、妻との夕食後、犬の散歩がてらバーに立ち寄る。
特別な事は何も起こらず、
普通の男の、ちょっとずつ違う毎日の生活が描かれている。
劇的な何かは起こらない。
そして、パターソンの趣味は「詩作」というこれまた地味なもの。
彼の生活に何を観るか。
野望の無い小市民のつまらない生活と言ってしまう人には向いていない。
どちらかというと、
毎日の生活に飽き飽きしている、ちょっと疲れた人向けの映画である。
そういう人が観ると、彼の一週間に、何らかの意味を見出す事が出来るかも知れない。
平凡な人間の幸せの有り様とは何か。
そんな事を考えさせてくれる映画である。
以下ネタバレあり
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小市民の幸せの在りか
パターソンの毎日は代わり映えのしない、ルーティン・ワークと化した物の様に見える。
そんな彼の姿に、自分の毎日を思い浮かべ、重ね合わせてしまう人もいるのではないだろうか?
だがパターソンの平凡な一日を客観的に眺めて見ると、その毎日が少しずつ違う事に気付く。
目覚ましは使用せず、自然に起きるに任せるので、毎日の起床時間が微妙に違う。
仕事前、バスの運転管理者は毎日違った愚痴を打ち明ける。
乗客はいろいろな事を語り、
妻は毎日、色々な楽しい事を発見し、報告してくる。
犬の散歩中に様々な人に出会い、
バーではちょっとした他人の人生を垣間見る。
空き時間には自作の詩をしたためる。
そして、パターソンはそんな毎日を淡々と過ごしている。
しかし、彼の生活を観客はどう見るだろうか?
私は彼が幸せそうに感じた。
映画を観ただけでは、パターソンの内面までは窺い知れない。
しかし、決まり切ったハズの毎日でも、改めて客観的に見ると全然違う毎日なのだと、パターソンを見ると気付く。
そして、その変化に気付き拾い上げる事こそが、実は幸せであるのかも知れない。
パターソンにとっては、その行為が「詩作」にあたる。
自分が見たもの、感じた事を、「詩」として表現してみる。
彼はそこに毎日の違いと幸せを見つけているのではないだろうか?
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双子
本作には双子が出てくる。
それこそ、一週間毎日何らかの双子が出てくる。
双子って同一人物に見えますか?
しかし、同じに見えても全く違う人物である。
本作における双子とは正に、
「同じ様に見える毎日でも、それは実は違う一日」を体現する存在であろう。
特に木曜日。
パターソンは待ちぼうけしている双子の片割れと会話する。
その娘も詩をしたため、秘密のノートに自作を綴っている。
同じ様に見える毎日(双子)でも、違う面やふとした幸せ(秘密のノート)を隠している。
そういう事の象徴である気がする。
しかし、日曜日は双子がいないじゃないか、とお思いかも知れない。
いや、日曜日にもちゃんと双子が出て来ます。
日曜日に出てくる双子は「パターソン」と「日本から来た旅行者」である。
彼等は二人とも、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズを愛し、自らも詩作をする者である。
見た目は違っても、内面は双子関係なのだ。
そして日本から来た旅行者(永瀬正敏)が白紙のノートを渡し、「新しい可能性が広がっている」というシーンに、
また一から幸せを見出す「楽しみ」が表現されている様にも感じる。
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エヴェレットという存在
代わり映えしない毎日で、ちょっとした事件を起こしたのが彼女にフラれたエヴェレットである。
彼は本作におえる「失意」を象徴するキャラクターだ。
だが日曜日、その彼に励まされパターソンは少し笑顔を見せる。
いつも夜に会う「失意」であっても、昼に会えば笑顔にしてくれるアドバイスをくれたりする。
そんな意味も含まれているのかも知れない。
そしてエヴェレットは去り際、「また会う事もあるだろう」と言う。
人間万事塞翁が馬。
良い事もあれば、悪い事にも会う(失意と会う)と彼は言っているのだ。
代わり映えしない飽き飽きとした毎日。
しかし、それを客観的に見てみると、実は色々な違いがあるのではないだろうか?
そして、それに気付き、その変化を拾いあげる事が幸せなのではないか?
『パターソン』は、平凡に毎日を生き、そこに幸せを見出す術を教えてくれる。
その方法は人それぞれ。
パターソンは詩作であり、
私にとってはこのブログである。
あなたにも、そんな何かがあるのでは?
無いなら見つければ良いじゃない♡
ジム・ジャームッシュ監督の過去作。工藤夕貴、永瀬正敏が出演。
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ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの『パターソン』からの引用「花びらが開き始める!~」という引用から始まるホラー畢生の大作をご存じでしょうか?
次回は小説『IT』について語りたい。