幻想・怪奇小説『迷宮1000』ヤン・ヴァイス(著)感想 透明探偵の大冒険!

 

 

 

自らの名も素性も知らず目覚めた男。手帳により、自分の名はピーター・ブロークである事、失踪したタマーラ姫を探し、館の主オフィスファー・ミューラーを打倒するのが目的である事が分かる。1000階層にもわたる館の中でピーター・ブロークの探索が始まる、、、

 

 

 

ヤン・ヴァイスは1892年イレムニツェ(現・チェコ共和国)生まれの作家。SFを数十点発表している様だ。

一つの建物がまるで一つの国の様になっており、その中を進む冒険探偵小説だ。主人公のピーター・ブロークが透明なので、いろいろなフロアに潜り込むのも容易だ。割と脳筋で物事を解決してしまうので、痛快に読むことが出来る。

冒険主人公気分を味わうにはもってこいだ

 

建物は1000フロアにもわたり、その中に住む者の行動は全て支配者オフィスファー・ミューラーの監視下にある。
ジョージ・オーウェルの『1984』を彷彿とさせるが、その発表が1949年だったのに対し、『迷宮1000』は1929年の発表である。オーウェルどころかナチスすら先取りしているのが驚きだ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 建物内部の社会構造

その建物内国家は、資本主義の行く末か、はたまた全体主義のなれの果てか、限界寸前を迎えている。
労働者は使い捨てにされ、働けなくなったものは狭い個室をあてがわれ、感情抑制剤を混ぜた食べ物を与えられる。彼らの最後の望みは死だ。
密航業者が当局とグルで、逃亡者は奴隷か焼却処分か女衒屋行きである。
革命家率いる反乱軍にはフロアごと毒ガス攻撃がお見舞いされる。

こう書くと救いの無いディストピアの様に見えるが、ピーター・ブロークが透明なのをいい事に、テンポよくを渡り歩くので閉塞感をそれほど感じない。相手が悪いヤツだからこそ、ピーター・ブロークの冒険が痛快に感じられる。

支配者オフィスファー・ミューラーは監視カメラとマイクで住民をチェックしている。今で言う所の、ビル等の管理室か。
違反者には即、秘密警察が差し向けられ、住民たちには神のように恐れられている。
だが、その実物は小男で、『オズの魔法使い』のエメラルド大王をイメージさせる。

 

90年近くも昔の小説だが、全然古くさく感じないのは、現代においても社会構造の問題点に共通点があるからなのだろうか?
しかし、特に難しい事を考えずとも冒険小説としても十分楽しめる。

 

 


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さて、次回はこれまた建物内で冒険してしまう小説『時間のないホテル』について語ってみたい。