漫画『メタラブ』小路啓之(著)感想  人の希望に添っても愛されないのは何故?!!

 

 

 

人の「望み」が見える大学生のぞむは、その能力故に人間関係をそつなくこなすいい人キャラとして生きてきた。しかし、ある日出会った大学教授の園希美(そののぞみ)からは何の「望み」も見えず、、、

 

 

 

 

著者は小路啓之
独特の世界観と絵柄で人気を博した漫画家。
2016年、没。
代表作に
『イハーブの生活』
『かげふみさん』
『来世であいましょう』
『ごっこ』
『犯罪王ポポネポ』
束縛愛 彼氏を引きこもらせる100の方法』等がある。

 

 

全3巻の本作『メタラブ』はラブコメと帯に書かれています。

しかし、先日紹介した『束縛愛 彼氏を引きこもらせる100の方法』同様、

普通のラブコメというより、
特殊な状況による偏執的な愛の物語

 

となっています。

読んで「キャッ」となったり「胸がキュン」となったりはしません。

代わりに(?)

エロシーンは割と豊富

 

なので、その方面でドキドキは出来ますね。

「望み」が見えない希美が気になるのぞむは、彼女がいるにも関わらず希美が気になってしょうがありません。
人の「望み」が見える故に、期待に応えるばかりで自分の気持ちを持っていなかったのぞむは、これが「恋」かと思います。
しかし、希美には植物状態のフィアンセがいたのです。

…基本的に彼達、
のぞむ、希美、めばえ(のぞむの彼女)、カガリ(希美の恋人)
の4人で話が進んでいきます。

のぞむは人の気持ちが見える、
それ故、これはこう、あれはそうと、人の気持ちについていつもアレコレ理屈をこねます。

それを反映して、

字が結構多いです。

 

ページの端で作中の単語解説もしているので余計に字が多く感じます。

なので、漫画ではありますが、

言語感覚やセリフ回しを楽しむ部分が大きいです。

 

絵柄も特徴的で、内容も個性的。
本作も作者、小路啓之の独自の世界観、雰囲気に溢れています。

普通じゃない、ちょっと変わった面白さを求めるなら、本作『メタラブ』は打って付けの作品です。

 

 

  • 『メタラブ』のポイント

独特の言語感覚とセリフ回し

キュートでポップな絵柄の特徴的な世界観

本の装丁が面白い

 

 

以下、内容に触れた感想となっています

 


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  • 珍しい装丁

本作『メタラブ』を手に取って思うのは、まず本の装丁が特徴的だという事です。

カバーは全体の3分の2、上の部分の3分の1がありません。

そして、本の本体自体にカラー印刷がなされており、カバーをめくったら別の感じの絵になるという趣向になっています。

珍しい装丁なので、手元に置いておきたくなります。

 

  • 『メタラブ』

本作『メタラブ』は、その題名が作品のテーマの一部を如実に表しています。

のぞむは人の「望み」が見える為、自分の意思を云々するより、その「望み」を叶える事を尊重しています。

つまり、人との関わりにおいて自己を発っさず、
常に一歩引いた目線で人間関係を築きます。

この「状況を俯瞰するかの如くに一歩引いた目線」つまり「メタ目線」をもっているのです。

人間関係にメタ目線を持ち込むのぞむは、恋愛についても言うに及ばず、ある種相手の欲望を反映するだけの鏡の様な存在なのですね。

恋愛にメタ目線を持ち込んだらどうなるか?

そのテーマを込めて『メタラブ』と名付けられているのでしょう。

 

  • 正に蛇足

『メタラブ』にはページの柱に「蛇の足」を称して作中のネタや固有名詞などを拾って解説する部分があります。

正直、これは本当に「蛇足」だと思います。

元々、小路啓之という漫画家の作品はセリフや背景の小ネタが多く、その読者に伝わるかどうか分からない仕込みを見つけるのが楽しいのです。

それを自らバラしてしまうのは興が殺がれてしまします。

しかし一方、柱でネタを解説する安心感からか、作中の小ネタが著者の他の作品と比べても非情に多く且つマニアックで読み応えがあります

また、柱で解説文があるのでページ内の字が多くなり、
独白や内省が多い本作の作風をより明確に形作る一因となっているのもまた事実です。

自分でネタを確認する楽しみは減りますが、それも演出の一つを割りきれば楽しめる部分ではありますね。

 

  • ストーリーより、感情重視!?

この『メタラブ』の字の多さは、漫画でありながら字を読む楽しみに満ちています

また、ストーリー漫画の体裁をとっていますが、展開はどちらかというと、
前後の整合性よりも、その場その場の瞬間の感情を重視したやり取りがメインとなっています。

何故ストーリーを重視せず、その場のノリの展開になっているのか?

それはのぞむの生き方がそういうスタンスだからです。

のぞむは人間関係において、人の「望み」を叶えるスタンスの生き方をしています。

そこに自意識は殆ど存在せず、対人関係において場当たり的な対応に終始しているんですね。

それで人間関係が破綻しないのは、ひとえに「正解を言って相手を気持ちよくしているから」に尽きます。

つまり、のぞむはアイデンティティという「自己を規定する個性(ストーリー)」というものは持っておらず、
その場その場の瞬間の関係のみで生きているのです。

(2巻のp.150めばえのセリフにて言及されています)

のぞむというキャラクターを表す為にそういう構成にしたのか、
こういう構成だからのぞむというキャラクターが出来たのか、

どちらが先かは分かりませんが、作者・小路啓之は意図してこの構成を選んでいるのだと思います。

 

  • 対人関係には「意外性」が必要

のぞむは希美に惚れますが、結局希美が望む事とは、
相手が察して自分の要求を満たしてくれる存在
その一方自分からは与える事はせず、自己の行動による責任を放棄した形、謂わば自己愛による自慰行為でしかなかったのですね。

それ故、のぞむが行き着くのは、
自分の瞬間の対応を、同じく瞬間に受け止め楽しんでくれるめばえの方だったんですね。

 

さて、めばえの様な性格は別として、人間、要求を満たすだけでは相手を喜ばせる事は出来ません

「要求を満たす」という事は勿論素晴らしい事ですが、それはある意味予定調和でもあるんですね。

自分の欲求といえど、毎回自分の思い通り、つまり自分の想定内の出来事だったら新鮮味が無く飽きられてしまいます

なので、対人関係とりわけ恋愛関係において相手を飽きさせない重要な事として「驚き(suprise)」、つまり予想外の事を提供する必要があるのです。

それは、相手の要求を慮った反面、ある種の自己の押し付けをする必要があり、この「気に入ってくれるかな?どうかな?」というドキドキがコミュニケーションの楽しさでもあります。

 

相手の要求を満たすのも勿論必要ですが、
相手が持っていなかったものを提供して、その好意を承認してもらうというのも対人関係には重要な事だと、本作『メタラブ』を読むと気付かされます。

サトリの如くに心が読めても、人間関係はままならない。

本当に難しいものですね。

 

全3巻で完結です。表紙をめくると、、、

 

 


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さて次回は、小説『半分世界』について語ります。個性的で、奇妙な作品という事で、小路啓之にひけをとりません!?