小説『半分世界』石川宗生(著)感想  奇妙な世界を緻密に描写!!そして面白い!!

 

 

 

S市K町在住の吉田小代子さんは夕飯の準備中、玄関方面から物音を聞き確認しに行く。そこには、五名ほどの夫、吉田大輔氏が扉に挟まっていた。小代子さんは直ぐさま反転、息子と2階に避難するが、更なる夫が家になだれ込む。何しろ、一九三二九人も居るのだ、、、

 

 

 

 

本作『半分世界』は、著者石川宗生の初単行本。
本作収録の「吉田同名」にて第7回創元SF短編賞を受賞しています。

出版のレーベルも「創元SF日本叢書」。
なので、本作もSF作品と思われるかもしれません。

しかし、SFというより

奇想物語、より分かり易く言うと、
奇妙なホラ話なんですね。

 

収録は短篇2篇、中篇2篇の四作品。

いずれの作品もまず最初にワンアイデアがあり、

その奇妙な状況をねっとり、
面白く描写しています。

 

何か、奇妙な事を書いていたら、
「全部SF!!」と言えるので、そういう意味ではSFですが、

読んだ印象としては、

諸星大二郎+村上春樹みたいな印象を受けました。
(個人の感想です)

 

なので、ガッツリハードSFじゃないと、嫌だ!
という向きには合わないかもしれませんが、

奇想天外な騙りの物語

 

が読みたい方には、正に打って付けの作品集となっています。

「私は最初期から目を付けていた!!」と今なら言えるタイミングですよ。

どうですか?あなたも先物買いしてみませんか?

 

 

  • 『半分世界』のポイント

奇妙で不思議な物語

状況を積み重ねてゆく描写

「騙り」の面白さ

 

 

以下、内容に触れた感想となっています

 


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*本書には巻末に飛浩隆氏の分かり易い解説があります。
私の解説など不要にも思われますが、やはり、本を読んだ感想というものは個人の物なので、私の感想も何か意味があると思い、以降の文を書いております。

 

  • SF?文学?

本作『半分世界』収録の「吉田同名」はSFの短編賞を受賞。
本のレーベルも「創元SF日本叢書」です。

確かに、SFというジャンルは幅広い。

ぶっちゃけ、読んだ人が「これはSF!」と言えば、その作品はSFと言えるでしょう。

しかし、実際読んだところは「吉田同名」も他の3つの収録作も、「Science Fiction」ではありません。

「少し、不思議」といった感じのSFなんです。

SFと言えば、突飛な事や想像を絶する事件が起こったりして、それを如何に解決してゆくのかという「オチ」へ向かって行く物語が王道の印象があります。

しかし本作は、ワンアイデアの状況を提示した後は、
その状況がどの様に展開、発展してゆくのかという「状況描写」に終始しています。

ある意味、設定SFとも言えますが、
読み味としてはやはり「騙りの文学」という印象です。

個人的には、
村上春樹が諸星大二郎の漫画を小説化した様な作品、という印象を受けました。

分かり難いかな?

 

  • 作品解説

簡単に収録作の解説をしてみます。

最初の2作が短篇、後半2作が中篇となっています。

 

吉田同名
第7回創元SF短編賞受賞作。
中年のオッサンが一九三二九人に増殖するという笑撃の悪夢から物語が始まります。

普通、SFなら「どうして増殖した?」とか
「彼等が社会の中でどう生きるか?」という話になりそうですが、
本作では社会から隔離された吉田大輔氏が独自の進化(深化)を辿って行く様子を描いています

隔離された状況でリーダー役と雑役に分かれると、「スタンフォード監獄実験」宜しく、自然とその役目に人間が収まっていきそうだが、
本作ではそういう社会性すらも排除していますね。

ひたすら自己に埋没してゆき、自分自身の体の温もりを求める様子は、何となく諸星大二郎の『生物都市』を思い起こさせます。


半分世界

短篇作品。
家が半分に割れた!
しかし、本作もその原因やその家の住民自体にはスポットを当てず、
家と住民を観察する人間達を描写する事を主眼としています。

本作は
半分に割れた家に住む藤原さん一家四人
それを観察する出歯亀・フジワラーの描写→
そのフジワラーの様子を読む読者
というメタ目線の入れ子構造になっています。

他人の生活を絶対安全な場所から覗き見して批評に終始するのは、現在のSNS文化を如実に表している様にも見えます。
そして、そういう観察者の行き着く先は、メタ構造の下に降りる(枠を取り払う)、
「観察者の出演者化(発信者化)」という状況を描写しているんですね。

白黒ダービー小史
町全部でサッカーやったら面白くね!?
という、まるで小学生が夢に見たような設定の中篇。

この作品でも勿論「町全体サッカー」にてもたらされる「町の歴史」を描写する事が主眼となっていますが、
その一方でキャラクターの描写にも軽く触れています。

一見、笑っちゃう様な設定をクソ真面目に騙っているから面白い。
しかし、どうせやるなら、各年代に主人公をおいた一大叙事詩の年代記(クロニクル)として大長篇で書いた方が面白いネタだったろうな、と思います。

バス停夜想曲、あるいはロッタリー999
一端バスを降りたが最期、荒野の十字路にて次の合流が何時になるか分からず、延々とバスを待ち続ける人々がやがて集団化、組織化して行くという、なんとも奇妙で不条理な中篇

諸星大二郎の「船を待つ」の様なシュールな状況からスタートします。

バスが来るまで待合人同士が相互互助する小集団だったものが、徐々に組織化して行き隆盛を誇るが、対立と抗争により没落、離散した人間の文化レベルが衰退して行く様子を幻想的に描かれます。

これこそ叙事詩的だが、もとはと言えば「バスを待っていた」だけというのがシュールと言えるでしょう。

 

 

「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」を読んで思い浮かんだ光景は、
サボテンが点在し、熱風が吹きすさぶメキシコの荒野というイメージでした。

それもそのハズ。

著者、石川宗生氏はスペイン語留学の経験があるそうです。

そして、スペイン語圏の名作といえば、
『百年の孤独』や『精霊たちの家』が挙げられます。

本作『半分世界』収録の
「白黒ダービー小史」や「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」からは、確かにそれらの一大叙事詩を連想させる文学的臭いを受け継いでいるのです。

ただのSFじゃない。

しかし、文学というには物足りない。

そんな石川宗生が今後どの様な作品を作り上げてゆくのか?
読書好きなら、今後刮目すべき作家と言えるでしょう。

 

「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」が気に入ったなら、こちらもオススメ

 


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さて次回は、落ちてくる星を刮目して撃ち落とす物語!?『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』について語ります。