漫画『キン肉マン(38~60巻)』ゆでたまご(著)感想  イデオロギーの対立!!可能性と秩序の対決!!

 

 

 

王位争奪戦を制し、第58代キン肉星大王に即位したキン肉マン。正義、悪魔、完璧超人は三属性不可侵条約を締結し、地球は平和の時代に入った。しかし、「我らこそ完璧超人の本陣」と自称する「完璧無量大数軍」が襲来、正義超人を粛正し始める。他のアイドル超人が治療中の中、テリーマンはたった一人の正義超人軍として奮起するが、、、

 

 

 

著者はゆでたまご
原作担当の嶋田隆司。作画担当の中井義則のコンビのペンネームである。

『キン肉マン』の旧シリーズは1979年~1987年にかけて『週刊少年ジャンプ』にて連載された漫画。

そして、この新シリーズはWEB連載として『週プレNEWS』にて、
2011年11月28日~2017年5月15日に亘って連載された。

そして、現在もさらなる新シリーズがスタートしている。

『週プレNEWS』のURLはこちら
http://wpb.shueisha.co.jp/comic_novel

しかし、実際は『Yahoo!ブックストア 週刊プレイボーイ web comic』の方が更新が早いので皆こちらを見ている。
(更新は毎週月曜日 0:00)
https://bookstore.yahoo.co.jp/free_magazine-136077/

 

『キン肉マンⅡ世』の究極の超人タッグ編の終了から間をおかずに開始された『キン肉マン』正篇の続き。

それは

間違い無くここ数年、ナンバーワンの面白さを提供し続けた漫画であった。

 

連載開始時、あらかじめ提示されたテーマは

イデオロギーの対立。

 

正義、悪魔、完璧それぞれの属性の超人が、各々の主張と信念を持ってリングに臨む。

超人プロレスバトルの面白さにプラスして、
お互いの主張に理がある思想の対立を同時に描いている。

 

当初は短いシリーズを予定し、好評なら長く続けようとの話を受けていたそうだ。
だが、よっぽど好評だったのか、結果はご覧の通り。
6年に亘る連載、コミック33巻分の大長編となった。

『キン肉マン』の新シリーズ。
勿論、昔の1巻~36巻までを読んでおかねば真に楽しめないのは確かだ。(37巻は新シリーズ連載前に書かれた短篇中心)

しかし、昔キン肉マンを愛した少年、現在ではうろ覚えの中年になった人間でも間違い無く楽しめる。

そして、バトル漫画としても新しい読者のお眼鏡にもきっと適っているだろう。

まだ読んだ事が無い人は、ちょうどキリのよい、この機会に

60巻分一気読みしてみては如何だろうか?

 

 

以下ネタバレあり


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  • WEB連載の先駆け

ゆでたまごという作者はブームの先駆けとなる存在だ。

かつて『キン肉マンⅡ世』で、漫画のリバイバルブームを作り、
そして『キン肉マン』の新シリーズにおいて「漫画の無料WEB連載」という新たな形のモデルとなった
(実際は『キン肉マンⅡ世』のクライマックスからWEB連載は始まっている)

出版不況が叫ばれ、漫画雑誌の発行部数も減少を辿りつつあった2011年において、
とにかく読者の目に触れるにはどうすればいいのか?
そういう問いに答える一つの回答を『キン肉マン』のWEB連載は示したのだ。

 

  • 期待に応え、予想を裏切る展開

『キン肉マンⅡ世』は当初、好評をもって迎えられていたが、連載が続くにつれ
「テンポが悪い」「キャラの使い方が悪い」等の批判にさらされもした。

その反省を活かす形で開始されたのが『キン肉マン』の新シリーズである。

キャラクターは旧シリーズにおいて魅力的な奴らが沢山いる。
それを、つるべ打ちの如く数々投入。
それも、読者が予想も付かない形でやってのけたのだ。

まさに、「期待に応え、予想を裏切る展開」であった。

 

  • 絶妙な導入部

当初は短いシリーズの予定で、好評なら長期化。
こういう話を受けていたからか、序盤の展開は練りに練られている

まず、最初にテリーマンが一騎当千の完璧超人(パーフェクト超人)相手に孤軍奮闘を強いられる。

シリーズ序盤の孤軍奮闘はお約束の展開である。
しかし、その役目は毎回キン肉マンであったが、今回はその「相棒」たるテリーマンが臨む。

この少しの捻りが嬉しい。

そして、
「メディカル・サスペンション中の正義超人」
「シルエットで登場する悪魔将軍、アシュラマン、サンシャイン」
という条件を見せる事で
「正義超人の参戦は遅れる」
「その代わりに悪魔六騎士が参戦する」
という事を臭わせる。

その上で秀逸なのが、38巻 p.185 のラストのコマである。

事前にバッファローマンの復活を描いている。
そして「ドドドド」という足音の擬音。

その瞬間、読者は
「バッファローマンが来た!」と思い次のページを捲る。

しかし、そこにいたのは疾走する黒装束の5人組。
「あ、違う」と思った次の瞬間には
「これ、悪魔六騎士だろ!!」と思い至る。

しかしページを捲るとそこにいたのは
ス・テ・カ・セ・キ・ン・グ!!!
大人気シリーズ「七人の悪魔超人」の一人であった。

私は読んでいて声が出た。
それ程上手い展開であったのだ。

こちらの予想を躱し続け、
しかし、そこで登場したのはかつての悪役、30年ぶり位に見る人気キャラ「七人の悪魔超人」だったのだ。

予想を裏切った着地点が、
こちらの想像を超えるワクワクを生み出した

この新シリーズは、兎角、この展開を迎える事が多かった。
これは驚異的な事である。

読者は作品を愛し読み込むと、ある程度展開が読めてくる。
作者はそれが分かるだけに、奇を衒った展開に持っていって、結果作品が微妙になってしまう。

しかし、『キン肉マン』の新シリーズは、読者の予想を裏切りつつ、さらにその上の展開を持っていき続けたのだ。
これは本当に凄い。

これは、かつて長く続き、読者に熱烈に愛された『キン肉マン』の旧シリーズの遺産を、
現在の熟練した実力で再構築した結果の面白さであるのだ。

 

  • 盛り上がったシーン3選

特に盛り上がったシーンをあげてみる。

まずは「ステカセのマッスルインフェルノ」(39巻収録)

かつてキン肉マンと戦い、印象的な能力を見せつけたステカセキングが、過去とは比べものとならないほどパワーアップしている様子を見せつけたシーンだ。

これはつまり、他の「七人の悪魔超人」も同様にパワーアップしている可能性を示唆し、否応無しの期待感を煽ってきた。

お次は「ブラックホールからのペンタゴン登場」(43巻収録)

ネットでは「良い子のみんな!!」でお馴染みの四次元殺法コンビがまさかのシングル戦で復活!!

劣勢のまま敗退するかと思われたブラックホールのキモい変身シーンからのペンタゴンの速攻で大逆転。
興奮する事しきりであった。

そして、「裁きの神ジャスティス参戦」(50巻収録)

かつて、金のマスクと銀のマスクの天上兄弟喧嘩を裁き、まるでモンゴルマン的なシルエットを持った謎のラスボス的存在がまさかの参戦!!

次週であっさり正体を晒した潔さも含めて大変話題になった。

 

いずれも読者の予想を超える超絶展開であったのだ。

 

  • シリーズ全体の構成

『キン肉マン』の新シリーズ38~60巻までは「完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)編」と銘打たれており、概ね四幕構成となっている。

1「正義超人と七人の悪魔超人VS.完璧超人無量大数軍の戦い」
2「悪魔将軍率いる悪魔六騎士と完璧超人始祖の戦い」
3「生き残った者達による『許されざる世界樹』での決戦」
4「クライマックスの2本番。キン肉マンVS.ネメシスと悪魔将軍VS.ストロング・ザ・武道」

序盤の展開は完全に悪魔超人が引っ張った

人気も実力も成長しきった正義超人は、その分だけ粗末に扱えず使いようが難しかった。

その分、大量に投入した悪魔超人達は使いやすかった。

インパクトと知名度はあれど、一部の人気キャラ以外今までさほど深く掘り下げる事がなかった悪魔超人というキャラクター群
「完璧超人始祖編」ではそこに着目し、
育っていないキャラであるが故に読者も勝負の行方が読めず、緊張感のあるバトルが展開された

「名前は知っているが、真の実力を知らないアイツの活躍」をお腹一杯見られたのは幸福であった。

そして中盤を支えたのはグリムリパーこと”完璧・拾式”サイコマンの暴虐である。

グリムリパーとして登場したサイコマンは『キン肉マン』の中では珍しい、嫌みでおしゃべりな優男であった。

しかし、そのインパクトは絶大。
謎のスイッチを操り、慇懃無礼な態度と憎まれ口を見せつける。
そして、倒れた仲間の体から能力をむしり取るというドン引き描写で読者に「只者ではない」という印象を植え付けた。(43巻)

また、折り紙付きの実力を持ちながら、さらに「マグネットパワー」というチート能力を操り、
スプリングマン、バッファローマン、プラネットマン、ブロッケンJr.、シルバーマンと一人で5戦も行う獅子奮迅ぶり

従来のシリーズではキン肉マンが担っていた役割を果たしたと言っても良いだろう。

また、お喋りであるが故に説明ゼリフも多く、ストーリーの中核となる物がサイコマンの周辺で徐々に明らかになっていった

バトル、ストーリーそしてその歪んだ純粋な思想が作品のテーマの一翼を担っており、まさに「完璧超人始祖編」を代表するキャラクターとして作品を引っ張った。

最期は潔く退場する事で、クライマックスの展開へと繋げていった。

終盤、物語のクライマックスとして据えられたのが、主役のキン肉マンとシリーズの主役たる悪魔超人の総帥・悪魔将軍の試合である。

この二試合はどちらも、「完璧超人始祖編」のテーマであるイデオロギーの対立を描いた対戦であった。

可能性を奔放に伸ばす事を目指すべきか?
厳格に管理し秩序ある世界の確立を目指すべきなのか?

どちらが優れていると断言出来ない故に、その力、技、そして思想のぶつかり合いが見応えのあるものになった。

 

  • お気に入りの3戦!

最後に、私の個人的なお気に入りの3戦を紹介したい。

ディアボロスVS.ジョン・ドウズ」(43巻収録)

「完璧超人始祖編」においての唯一のタッグマッチとなったこの戦い。
バッファローマン&スプリングマン
VS.
グリムリパー&ターボメン戦である。

一進一退の展開から必殺技デビル・トムボーイの炸裂と攻略。
そして、まさかの乾坤一擲のロングホーン・トレイン。

相手の特殊能力を根性の必殺技で打破するスプリングマン、自身も最期に燃え尽きる様子に震えた。

(そしてその後のグリムリパーにドン引きした!)

シルバーマンVS.サイコマン」(55~56巻収録)

対戦相手を数々倒し、暴虐の限りを尽くすサイコマンの前に立ちふさがるは、かつての同士にして親友のシルバーマン。

完璧超人始祖どうしがお互いの相容れない主張を相手に認めさせる為に戦う

名前は出てくれど、実戦描写が無かったシルバーマン。
ブロッケンJr.を救うメシアの役として試合に乱入するのはかつてのモンゴルマンのモチーフである。

相手は完璧超人始祖という実力を持ちながらチート能力「マグネットパワー」を操るサイコマン。

技と主張がぶつかり合いながらも、決して分かり合えない親友同士の相克がもの哀しかった。

「ゆで理論」によるマグネットパワーの攻略、
そして最強必殺技「マッスル・スパーク」を超える超必殺技「アロガント・スパーク」等バトル的見処も多い試合である。

キン肉マンVS.ネメシス」(57~58巻収録)

試合前の「溜め」が最も長かった分、試合自体の面白さも屈指であった。

同じ一族、同じ技を使いながら、その理想を異にする甥と大叔父の対戦。

お互いのプライドがぶつかり合い、
キン肉バスター、
キン肉ドライバー、
マッスル・スパークと必殺技のフルコースがストーリーの必然として描かれる。
贅沢すぎる対戦である。

主義主張の差に優劣はない、
相手を思いやる「慈悲」こそが力になる、
という正義超人の主張を貫くキン肉マンに、

正しき者が居ても、その他の衆愚が政治を腐らせるとう現実を、冷厳な厳しさでもって糺す事こそ自らの務めと課すネメシスのプライドが立ち塞がる。

作品のテーマとしても印象深い試合である。

 

他にも
意地を見せた「テリーマンVS.マックス・ラジアル」
骨!?「ブラックホールVS.ダルメシマン」
ゆで理論と根性が炸裂した「ジャンクマンVS.ペインマン」
4戦4敗4死亡を回避した「ザ・ニンジャVS.カラスマン」
敗色濃厚でも勝ちを求めた「ラーメンマンVS.ネメシス」
勝利のために明日をも捨てた「テリーマンVS.ジャスティスマン」等面白く語りたい試合は数々あった。

 

悪魔超人という今まで見出されずにいたキャラクターを掘り下げ、そのカウンターとして圧倒的で魅力的な強敵の完璧超人始祖を置く。

そして、その対立構造の軸には、正義超人の「友情パワー」たる「火事場のクソ力」がある。

この3者間を「イデオロギーの対立」でもって繋いだバランスと構造は、まさに奇跡的な面白さの作品を作るに至った。

過去のシリーズの名場面を、
新しい展開でもって魅力的に再生産する

テーマ、ストーリー、演出、キャラクター。
これらがバランスよく構成され、物語の最後までテンションを維持していたのが素晴らしい。

「完璧超人始祖編」は完了した。

しかし、今は新しいシリーズが再び始まったのだ。

敢えて出さなかったであろう、「キン肉星王位争奪編」のキャラクター達が出てくるのか?
ジャスティスマンやシングマンはどうなったのか?

いろいろ興味は尽きず、今後も期待が出来る最高の漫画。

それが『キン肉マン』である。

 

 

 

 

ベンキマンの雄姿が読める

 


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さて次回は、ある意味超人!?映画『スイス・アーミー・マン』について語りたい。