エス・エフ小説『メカ・サムライ・エンパイア』ピーター・トライアス(著)感想  少年はメカに乗る!!SFビルドゥングスロマン!!

*画像はアマゾンリンクとなっています。
メカ・パイロットを目指す不二本誠(マック)は両親も、カネもコネもない平凡な高校生。目前に迫った帝国試験で一発逆転を狙い、模擬戦試験にて高得点を取り陸軍士官学校入りを目指していたのだが、、、

 

 

 

 

著者はピーター・トライアス。

前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』にて星雲賞を受賞。

本作『メカ・サムライ・エンパイア』はその続篇となりますが、
登場人物も年代も違うので、世界観を継承した別作品と言えます。

前作を読んでいなくとも、
『メカ・サムライ・エンパイア』単品でも楽しめます。

 

そして、読み味も前作と多少違います。

前作は
「ドキッ☆槻野課員のハチャメチャ・アドベンチャー」
みたいな感じでしたが、

本作は、

少年のビルドゥングスロマンとなっています。

 

高校卒業間際、帝国試験の出来如何によってその後の人生か決まる大切な時期。
そんな時期に、マックはゲーム三昧。

なんでも、ゲームの開発が、メカ兵器開発元と同じなので、
模擬戦試験の練習になると言うのです。

…なんだか、アレですね。
試験をまともに受ける気が無い言い訳にしか聞こえませんね。

 

そんな現実逃避気味のマックに親友の秀記が絶対攻略法、
即ち、カンニングの方法があるとマックに持ちかけて来ますが、、、

成功、挫折、恋愛、友情、鍛錬、
そして前作では控え目だった

巨大メカバトル。

 

青春物にSFアクションを加えた王道物語が展開されます。

時は1994年、
かつてアメリカという国があった土地を分割統治している、
第二次大戦の戦勝国、日本とドイツ。

この両国の緊張が高まっている中、マックの青春の物語が幕を開けます。

統制国家において描かれる、
SFアクションビルドゥングスロマン『メカ・サムライ・エンパイア』。
面白さ、ストレートです。

 

 

『メカ・サムライ・エンパイア』のポイント

少年のビルドゥングスロマン

巨大メカバトル!

改変歴史世界における統制国家同士の対立

 

 

以下、本作と共に前作の内容にも触れた感想となっております

 


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  • 変則から王道へ

本作『メカ・サムライ・エンパイア』は、
『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』と世界観を同じくするSFアクション小説。

前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』と共通する登場人物もいますが、
本作単品でも充分楽しめる作品となっています。

 

前作は、暴走ヒロイン槻野課員が大暴れするハチャメチャアクションアドベンチャーでした。

統制国家という恐怖政治の中で、
登場人物全員が、イカレタ感じに無茶するアクロバティックな面白さに満ちた怪作でした。

 

この感じから、どうやって次回作に繋げるのか?
そういう興味がありましたが、

なんと本作は正統派な物語となっています。

試験の前にゲームに夢中になるような、
ある意味普通な(むしろ普通以下!?)少年が、
ひょんな事からチャンスを得て、メカパイロットとなる夢を叶える為に突き進んで行きます。

成功あり、挫折あり、
友情、恋愛、鍛錬と揃っており、
ラストには巨大メカVS.バイオメカの対決まで描かれます。

少年のビルドゥングスロマン
この王道展開の物語となっているんですね。

 

アクロバティックな面白さから、
ストレートな王道展開へ、
物語の懐の深さを見せてくれます。

 

  • 前作と本作の違いとは

奇想天外なSFものだったものが、
続篇では地に足ついた王道展開の青春物になっています。

ある意味意外と言えますが、何故こうなったのか?

恐らく、それは作中の時代と登場人物が下ったからだと思います。

前作の主な舞台は1988年。
今作は1994~96年までを描いています。

前作では猛威を振るったGW団、
本作では「かつて暴れていたが、鎮圧された抗日運動組織」という認識になっています。

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』の顛末と6年という年月で、
アメリカ内の抗日運動には転換が見られたんですね。

1995年には、抗日運動というより、
アメリカを取り戻すという標語を掲げるNARA(アメリカ国民解放組織)が勃興しています。

このNARA、
「本当はアメリカが勝利した世界がある」と唱え、
日本とドイツの共倒れを狙うという、
何やら物語をメタ的に捉えた要素が見られる組織です。
(ポケット版p.178より)

そしてNARAを影から支援するのがドイツ。

つまり、NARAを利用して日本側に打撃を与えたいドイツと、
日独開戦にまでこぎつけ、両国の共倒れを欲するNARA、
目的は違えど、互いに利用し合っているのですね。

 

この状況は、日本側から見たら、
敵対国とテロリストが通じているという状況。

国側はそう宣伝しますし、
1994年当時、18歳程度のマックの視点だと、
「皇国に仇為す怨敵」という見解なんですね。

 

前作では、第二次大戦後の混乱と統治を支配者側から描き
その欺瞞を知りながら、それを助長する自己撞着に苦しむ二人の主人公を描いて居ましたが、

本作においては、
その皇国の統制社会が自前のもの
当たり前の日常として育った世代の物語になっています。

「アメリカ大陸は日本の土地」が普通の認識の世代なんですね。

マック初め、日本人側は、
我々は支配者側、
軍国主義、全体主義的なノリと言動で相手国を批判する、
これを臆面も無くやってのけています。

前作では常に疑問を呈されていたこのノリが、
本作の若者には普通の感性。

 

前作では、支配者側の日本という存在のアメリカ大陸での歪さ、
本音と建て前の違いがストレスとなり、
登場人物が社会の歪さを認識しているからこそ、そのストレスを各自爆発させるパワーがありました。

我々の感性では、前作に近いですが、
本作の若者は統制社会が普通の社会。

だからこそ、社会に矛盾を爆発させる物語では無く、
統制社会の中での青春はどの様な物語になるのか、というストレートさを描く事になったのです。

 

とは言えマックは、
その青春の内に、徐々に世界への疑問を獲得していく事になります。

努力とは無駄なのか?
結局下の人間は駒に過ぎないのか?
国が違えば、常識も違うのではないか?

矛盾を知りながら、その中で生きていた前作は葛藤を描き、

社会の中の疑問を見つける度に、その歪さを徐々に認識して行く本作では成長と変化を描いているのです。

 

  • ベニコ・カムバック!?

本作『メカ・サムライ・エンパイア』にも前作のキャラがちょいと出演しています。

久地樂は前作より、むしろ本作の方が出番が多いですが、
前作の暴走ヒロイン槻野課員はチョイ役。

そして、ベニコに至っては(ポケット版 p.168)に犬の名前として出てくるだけです。

 

以下、前作の内容に触れています

 

 

実は私、
ベニコは絶対生きて次回作に出てくると予想していたんですが、見事に外れました

前作では、
「死ぬから脳のパターンを全て抽出する技術はまだ出来ていない」的な事が書かれていました。

これは翻って言えば、
「死んだのなら脳のパターンを抽出出来る」

つまり、
AI的な感じでベニコが絶対復活するぞと、
ワクワクしながら待っていました。

…まぁ完全に勘違いの勝手な深読みだったのですが。

まぁ、あの状況から復活したら、それこそ興醒めなので、これで良いのかもしれません。

 

  • ちょっと、アメリカナイズと特撮

日本が支配していると言っても、舞台はアメリカ。
完全にアメリカンな文化が無くなっている訳ではありません。

「忠勝会」というジャパニーズな名前なのに、
やっている事は大学のクラブ文化なのが笑える所です。

また、日本人は基本、バトルにおいてはタイマンを好みます
しかし、本作のクライマックスはチームプレー。

これは何となく特撮の「何とかレンジャー」系のノリなのでしょうね。

しかし、この勝利の為にはタイマンに拘らず、全員でボコるという姿勢にはアメリカンな物も感じます。

また、特撮といえば、「対メカ音速ロケットランチャー」こと「M87」という兵器。

これはやっぱり、ウルトラマンの故郷とされる、「M78星雲」からとられた名称なのでしょうかね?

ロボでバイオメカという怪獣(!?)的な敵と戦うというノリも含め、
何となくスペシウム光線的なイメージも湧きます。
(実弾系の武器ですが)

 

 

 

統制社会の中で疑問を抱えて生きていた前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』、
本作『メカ・サムライ・エンパイア』は、その疑問を獲得するまでの物語となっています。

アメリカ大陸を支配する日本、
そのアメリカ大陸で支配権を拡げたいドイツ、

メカ方面で優位をとっていた日本に、
生物兵器のバイオメカと宇宙開発で対抗せんと準備を整えるドイツ。

公然と日独の戦闘が遂に始まり、
戦争不可避の事態となった今後がどうなるのか?

早くも続きが気になる作品それが『メカ・サムライ・エンパイア』です。

 

 

*前作『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』についても語っています。
題字クリックでそのページに飛びます。

 

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