アメリカで突如見つかった巨大な「手」。それは5000年以上前に作成されながら、現代の科学では再現不可能な重金属の合金で出来ていた。この古代の遺物は放射性物質アルゴン37に反応するらしく、これはつまり、ある一定の文明レベルがないと発見出来ない仕組みになっていたのだ、、、
著者シルヴァン・ヌーヴェルは本書『巨神計画(原題:SLEEPING GIANTS)』(2016)でデビュー。
50以上のエージェントに原稿を送るも没になり、有料書評サイトに投稿した所、話題となって出版にこぎ着けたそうだ。
実際に読んでみると、如何にエージェントが無能だったのかがよく分かる。
率直に言って面白い。
本書『巨神計画』はどうやら3部作の第1部らしい。
なるほど確かに、巨大ロボは出てくるが、実際にロボがブイブイ活躍する戦闘シーンはない。
謎や伏線も張るだけで、ほどんど解明されない。だが、
謎や伏線が張られてゆく展開それ自体が面白いのだ。
そして実際の内容としては
「謎や明かされない設定にまつわるサスペンス」
「登場人物描写」
「巨大ロボを巡る駆け引き」
この3本柱で物語は進んでゆく。
さらに『巨神計画』はその文体も独特である。
そのほとんどがインタビューの書き起こしという形式を取っている。
これが
まるで実録物を読んでいる様な臨場感を生んで話を盛り上げる。
話が完結しない続き物なら面白さも中途半端だろうと、そう考える向きもあるかもしれない。
しかし、本書はこれだけでも十分に面白い。
しかも、続きも気になる。
ゴチャゴチャ言わずに、兎に角面白いSFが読みたい!
そういう方に絶対的にオススメする。
以下ネタバレあり
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謎の存在、インタビュアー
謎や伏線が多い本作でも、その最大のものが「インタビュアーって誰?」というものだろう。
作中に実際に子供がいるので、叙述トリックによる不在の語り手ではない。
宇宙人の子孫に説明を受けているので、彼自身が宇宙人的存在ではない。
世界各地にあらゆるコネクションがあり、アメリカ合衆国大統領とも直にコンタクト出来る。
そして、その性格は果断で苛烈、少々ニヒルな所もある。
このちょっとスカした範馬勇次郎的な存在は、結局最期までその正体が明かされない。
むしろ明かされないままで終わりそうな気もする。
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人物紹介の手法
『巨神計画』は人物の紹介が上手い。
インタビュー形式で登場人物達と何度も対面し、その出身、性格、志向等を面接という形で引き出している。
そして、登場人物との会話で、インタビュアー自身の性格も描写している。
読者は登場人物達を詳しく知れるので、より感情移入がしやすくなる。
作中でも述べられていたが、「全くの他人の大勢の死より、知人一個人の死の方が悲しい」のだ。
詳しく知れば知るほど、そうなのである。
その一方、素性や性格が最初は伏せられ、行動でその志向が判明した遺伝学者のアリッサ・パパントヌは本書の悪役になっている。
冷静に見ると、アリッサの主張に悪い所は無い。
しかし、アリッサ自身の性格が分からない内に、科学者然とした態度を押し付けられると、その真意が測れないが為に反発を招いてしまう。
読者も、他の登場人物にしてもだ。
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ロボの主権争い
『巨神計画』には巨大ロボの戦闘シーンは無い。
朝鮮半島の軍事境界線で恣意行為を行った位だ。
読者の期待はロボの実戦であろうが、『巨神計画』でのロボ描写は「パーツ集め」→「操作訓練」→「各国の主権争い」となっている。
そしてこれが十分に面白いのだ。
パーツは世界各地で出土される。最初に組み立てたのが米国だからとしても、各国の反発は免れ得ない。
これにどう対処するのか?
インタビュアーの謀(はかりごと)が見事で、本書のクライマックスと言える部分だ。
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大義の為に
大義の為には、行いは何処まで許されるのか?
哲学的な大きなテーマである。
『巨神計画』のインタビュアーはこれに明確な信念を持っている。
彼は「特別な結果は、かなりの手段を正当化する」(上巻p.234より抜粋)と言っている。
「目的が行為を正当化する」と考えるタイプだ。
これは独善的で危険な思考である。
歴史的にも独裁者や宗教の侵略戦争の理由として、「大義名分」が錦の御旗として掲げられてきた。
しかし、その一方でこの果断とも言える行動力があるからこそ、物事を動かす原動力となっているのだ。
善悪を考えず物事を先に進め、その是非の判断は後の世に委ねる。
人類は、確かにそうして進歩してきたのだ。
失敗や批判を恐れて何もしないよりは、まずは行動を起こしてみる事が肝要である。
サボりがちな自分としては、常に身に置いておきたい言葉である。
*衝撃のラストから続く、続篇『巨神覚醒』についてはコチラのページにて語っています。
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さて、次回はこれまたロボが出てくる作品、小説『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』について語ってみたい。