映画『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』感想  坊さんと詩人の探偵コンビ!?楊貴妃の死の真相に挑む!!

 

 

 

唐の都、長安。病に伏す皇帝を法術で鎮めるべく空海は呼ばれるが、その面前で皇帝は怪死する。「風邪」という事で処理されるが、空海は「猫」の気配を感じたと白楽天に告げる。時を同じくして、人語を話す猫に出会ったという役人・陳雲礁がいた、、、

 

 

 

 

監督は陳凱歌(チェン・カイコー)。
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993)
『始皇帝暗殺』(1998)
『搜索』(2012)等の監督作がある。

原作は夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』。

出演は、
空海染谷将太
白楽天黄軒(ホアン・シュアン)。

楊貴妃張榕容(チャン・ロンロン)。
阿倍仲麻呂阿部寛

舞台が中国という事で、監督もキャストも中国中心。
ほとんど、中国映画と言って良い程です。

(染谷将太も中国語を喋っており、日本語吹き替えをしています。よく見ると、口パクと微妙にズレているのが面白いです)

 

真言宗の開祖である空海。
様々な「空海伝説」により天才という称号を恣(ほしいまま)にしているイメージです。

本作『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』は、その空海の若かりし頃、長安へ遣唐使として赴いた時の物語です。

ならば、密教を絡めた仏教伝来の話だと思われるかもしれません。
違います。

本作は、

ファンタジー探偵物語なのです。

 

空海が偶然出会った怪事件に、頼まれもしないのに自ら首を突っ込みます。

さらに言うと、

バディ・ムービー、
しかも相棒は詩人、白楽天!

 

この二人が怪事件を追ってゆく内に辿り着くのは、なんと、

楊貴妃の死の謎!?

 

歴史に詳しくない私の様な人間でも、何となく聞き覚えのある偉人達が次々と現われる、

伝奇ロマンです。

 

仏教や詩、歴史の正確な記述などの拘らず、奔放な想像力をもとに

唐代の長安をファンタジックに描写した絢爛絵巻と言えるでしょう。

 

テンポ良いストーリー展開(むしろ、早すぎて着いて行くのに苦労するかも)で転変する場面は、いずれも豪華絢爛。

画作りの美しさも映えています。

伝説の偉人、空海は若い頃こんな活躍をしたのか!?
そんな想像に身を任せるのが楽しい映画、それが『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』です。

 

 

  • 『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』のポイント

ダッシュで進む奇想天外なストーリー

空海と白楽天の探偵コンビ

極彩色で絢爛、美しい画作り

 

 

以下、内容に触れた感想となります


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  • 空海と白楽天コンビの探偵物語

本作『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』を一言で表すと、
空海と白楽天の探偵バディムービーです。

皇帝の死を目撃したのを切っ掛けとし、空海は怪事件に白楽天と共に(なし崩し的に)挑みます。

空海の生没が(774~835)、
白楽天こと白居易は(772~846)。

空海が唐にいたのは(804~806)の間なので、もしかして二人は接点があったのかも!?

おそらく、本作は805年辺りの物語と言えるでしょう。

「あり得ない…とは言い切れない、むしろ、あったかも!?」
というギリギリのラインが想像力を駆り立てます。

なし崩し的に事件に関わる二人ですが、
ハッキリ言うと、何が目的の事件なのか、そして、どう対処すれば良いのかが当初は全く分かりません

その上、物語が駆け足で進むので着いて行くのがやっとです。

なんだか、目的地も知らされずに突っ走られると不安になってきますが、
ストーリーが進むにつれ、次第に物語の全貌が明らかになってゆくのが快感です。

そして事件の発端は、役50年前の楊貴妃の死にまつわる顛末へと繋がってゆくのです。

 

  • 傾国の美女、楊貴妃

世界三大美女の一人として日本でも有名な楊貴妃(719~756)。
唐代、玄宗皇帝(685~762)の寵愛を受けました。

しかし、親戚である楊国忠が取り立てられている事に反発した安禄山(705~757)が反乱を起こし(755~)、
楊貴妃はその原因であると玄宗皇帝の臣にも責められ、死に至らしめられます。

楊貴妃の死の50年後、白居易(白楽天)は806年に『長恨歌』を発表します。

天才・空海と国は違えど同年代だった白楽天、
彼等が友誼を結び、解き明かすは楊貴妃の死の謎。

さらにニクい事に、玄宗皇帝の時代の唐に遣えた日本人、阿倍仲麻呂(698~770)も登場させています。

百人一首の超有名な、
「天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも」
を詠んだ詩人です。

李白(701~762)や王維とも交流があったと言われています。

どうでしょう、言われて見ると、確かに繋がっている、
物語のロマンとしてのラインが通っているのがお分かり頂けると思います。

 

因みに、阿倍仲麻呂は安倍晴明の祖先とする伝説もあります。

「陰陽師」シリーズにて安倍晴明を描く原作者の夢枕獏としては、阿倍仲麻呂を出すのは当然の事だったのかもしれませんね。

 

  • なんで今更復讐してるの?

これら、実在の偉人達とオリジナルキャラの丹龍や白龍を絡めて物語を盛り上げます。

しかし、疑問に思うのは、何故50年前の恨みを今更?とお思いになるでしょう。

私なりに解釈してみたいと思います。

1:白龍が猫に成ったのはごく最近説
実は、50年守り続けたが、猫に成ったのはごく最近。
だから焦って、八つ当たり気味に復讐を決意した。

しかしこれは、丹龍が確保したという白龍の肉体が若いままだったので、可能性は低いです。

2:猫(白龍)の寿命が尽きかけているから説
楊貴妃の蠱毒(こどく)を肩代わりして肉体を捨て、猫になった白龍。
その猫の寿命が尽きると感じ、楊貴妃の目覚めを見る事叶わぬと悟った白龍。
ならばせめて、自分が死ぬ前に楊貴妃の復讐をしようと思い立ったのがこのタイミングだったのでしょう。

しっかりとは説明されてはいませんが、おそらく私は「2」の理由で猫は復讐を開始したのだと思います。

さて、
クライマックスにて、「白龍の肉体を取っていた(保存していた)」と丹龍は言い、楊貴妃の体の横に寝かせていましたがあれも幻術です。

お前が死んでも、せめてその肉体は、
お前と同じ様に魂の無いカラッポの肉体だけの楊貴妃と共に並べて置いておくよ、

というメッセージを伝える事で、安らかに白龍が逝ける様にしているのですね。

(嘘も方便というヤツです)

だから、再び映った楊貴妃の体の横には何も無く、故に猫の死体をその隣に横たえたのです。

流石、青龍寺の高僧、恵果。
丹龍も、彼なりに落とし前の付け所を探していたのです。

瓜売りに身をやつして世間を見てきただけはあります。

と言いたい所ですが、吹き替えの声が山寺宏一だったので、重要人物だと出た瞬間にバレバレですよ

 

 

本作『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』はロマン溢れるストーリーもさる事ながら、その豪華絢爛な画作りも魅力の一つ。

あのため息の出る様な極彩色の楽園があり、それが破滅の前の最後の夢であるからこそ、儚い美しさが際立ち、ストーリーを盛り上げます

歴史上の偉人がストーリーで繋がる面白さ、
画面の美しさ、
様々な楽しみが詰まっている、
正に幻想的な伝奇ロマンなのです。

 

…あれ?、でも、実は主人公って、空海である必要性ないな?なんて思ってはいけません!

 

 

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夢枕獏(著)の原作本は全4巻の長篇です

 


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さて次回は、美しい画面作りの裏には破滅が潜む!?『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』について語ります。