ある晴れた日。赤松運送のトレーラーが緩いカーブで脱輪事故を起こし、結果、通行人が死傷してしまう。当初は社長の赤松自身、整備不良を疑っていたが、しかし、整備担当者の徹底した自主点検の記録を見て、メーカーのホープ自動車に再調査を依頼する、、、
監督は本木克英。
主な監督作に
『鴨川ホルモー』(2009)
『おかえり、はやぶさ』(2012)
『超高速!参勤交代』(2014)等がある。
主演の赤松徳郎に長瀬智也。
共演に、
ディーン・フジオカ、岸部一徳、笹野高史、深田恭子、寺脇康文、ムロツヨシ、高橋一生、小池栄子、他。
原作は池井戸潤の小説、『空飛ぶタイヤ』。
ご存じ、TVドラマ『半沢直樹』で一躍有名になった著者の、
これまた社会派エンタテインメント作品です。
「赤松運送の整備不良」
それが、事故車を調査したメーカーのホープ自動車の調査結果。
この結果に疑問を抱いた赤松は、再調査をホープ自動車に依頼、
しかし、
担当のカスタマー戦略課課長の沢田は、再三の赤松からの連絡をシカトする。
銀行からの融資も滞り、
取り引き先からの契約も解除、
警察に家宅捜索され、
窮地に陥った赤松運送、
社長の赤松は、独自調査を決心する。
一方、
品質保証部の課長から釘をさされた沢田は、
これまたきな臭い物を感じ、社内の動きに関心を持つ。
また、
ホープ銀行本店営業部の融資担当者・井崎も、
ポープ自動車が経営不振である事を理由に、融資を拒否。
その裏には、ホープ自動車の黒い噂が影響していた、、、
本作『空飛ぶタイヤ』は豪華な出演者が多数登場する社会派エンタテインメント。
色んな所で見た事なある、
色んな人が多数登場し、それを観ているだけでも面白い作品です。
しかし、基本は赤松、そして沢田の目線で物語が進んで行きます。
自らの正義を信じ、
しかし、悩みながらも懸命に真相究明に奔走する赤松、
一方、
組織の倫理に忠実に、
あくまで会社人として問題に対応する沢田、
この二人の対比が、
この作品を象徴する物の一つです。
この二人によって描かれるは、
強いものに従うか、否かの物語。
臭い物には蓋をして、
見て見ぬ振りをするのが一番賢い。
このルールがまかり通っている現代社会において、
しかし、そこに真っ向からぶつかって行く赤松の姿に、
頑張ってくれ!
とエールを送らずにはいられません。
カッコイイ、
ひたすらカッコイイ赤松役の長瀬智也に惚れるも良し、
一方の沢田の会社人としての立ち回りに共感を寄せるのも良し、
人によって、
立場によって、
心に響く場所は違う、
しかし、
現代社会に生きる我々としては、
決して他人事では無い、
だからこそ、面白い作品。
様々な人の共感を呼ぶ、
それが『空飛ぶタイヤ』だと言えます。
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『空飛ぶタイヤ』のポイント
事故か、事件か!?中小企業 VS. 大企業!!
「上」の意向を忖度する事の安心感
自主的に戦う事の困難さと、尊さ
以下、内容に触れた感想となっております
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赤松の選択
本作『空飛ぶタイヤ』で描かれるのは、大企業のリコール隠し。
赤松の懸命の捜査で、
「運送会社の整備不良」として処理された同型のホープ自動車のトレーラーの脱輪事故が、過去にも数件あるという事が判明します。
一方、独自に探りを入れた沢田も、
自社がリコール隠しをしているのだと気付き、
その興味もあってシカトしていた赤松と面談します。
ホープ自動車の常務取締役であり、
リコール隠しを主導する「T会議」の主宰である狩野はその動きをいち早く察知、
沢田の行動を牽制するため、栄転をエサに沢田に「今回の事件は忘れろ」とのメッセージを伝えます。
この誘いに飛びついた沢田、
俄然張り切って、自分でこの件を終わらせると、
赤松に一億での「手打ち」を持ちかけます。
物語の分水嶺となるのが、ここ。
銀行からの融資も停止され、
会社の運転資金が喉から手が出る程に欲しい赤松、
しかし、
赤松はこの沢田の提案を突っぱねます。
何故か?
赤松は自らの潔白を信じてはいましたが、
被害者遺族に再三お見舞いに行き、
しかし、その都度追い返されていました。
特に、四十九日の法要の時、
被害者夫の血を吐く様な訴え、
「人殺し、リアルに家族を喪った辛さが分かるのか!」
この言葉と、
被害者息子が作った母への手紙を読んで打ちのめされます。
確かに、
大企業相手にわざわざ喧嘩するより、
相手の言い分を呑んで、手打ち金を受け取った方が「社会人としては賢い」と言われる行動です。
会社としての利益、
従業員の生活を守る為の資金確保、
様々な理由で、お金を手に取る方が賢明です。
だが、それは本当に正しい行動でしょうか?
会社が無いと、従業員が困る、
従業員の家族の生活もかかっている、
仕事を辞めると、再就職が難しい、
しかし、そういった困難や言い訳を大義名分にして、
事実から目を背けているのではないでしょうか?
これは、我々自身の生活についても言えます。
上司の意向を忖度し、
やりたくも無いサービス残業をやったり、
数字のごまかしをしたりしていませんか?
間違った事をしていると気付きながら、
それに目を瞑って
反抗する事から逃げている。
それが現代社会の一番の病巣、
ここを改善する事が、一番の「働き方改革」だと思います。
しかし、赤松は逃げませんでした。
何故なら、
ここで金を貰って事実から目を逸らせば(相手のリコール隠しを見逃せば)、
それはつまり、
自分が真に、被害者を殺した事になるからです。
構造的欠陥のあるトレーラーを、それと知って野放しにする事、
これ即ち、隠蔽した人間と同列になってしまうからです。
被害者夫からの訴え、
本来は言う相手が違いますが、
しかし、
赤松が会社としての利益より、真実を追い求めると決心したのは、
彼の言葉を、真摯に受け止めたからです。
仕事を失う事が怖い、
新しい事をする自信が無い、
転職すると、給料が減る、
そういう打算的な事を言い訳にして
困難や正義から逃げている、
そして、それが「社会人としての正しい行動」「大人としての立ち位置」としてまかり通っている。
赤松の行動がカッコイイのは、
普段目を逸らして見て見ぬ振りしているこの事実を受け入れず、
真に正しい事を追求したからなんですね。
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沢田の選択
一方、もう一人の主人公とも言える沢田は、
あくまでも打算的な社会人としての立場を崩しません。
商品開発部への栄転が叶ったと思われたのも束の間、
事実は、仕事を干され、出世コースからの脱落を意味していました。
「リコール隠し」の事実を隠蔽した沢田。
しかし、彼はこのままでは自分の将来が無いと気付き、
一転、内部告発に踏み切ります。
沢田としては、
赤松から被害者息子の手紙を見せられ、
そこにショックを受けたという面もあるのかもしれません。
しかし、
沢田が内部告発に踏み切った最大の理由は、
自分の立場向上の為、
上に自分のアンチが居ると出世できない、
だから、その主宰である狩野を追い落とす為です。
もし、商品開発部で仕事を普通に出来ていれば、
沢田は決して内部告発はしなかった。
これは断言出来ます。
あくまでも社会人、会社人としての打算で動き、
それがタイミング的に赤松と共闘する結果となっただけなのです。
実は、赤松、沢田、両者とも運が良かったと言えますね。
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右から来たものを、左に受け流す
『空飛ぶタイヤ』の赤松はカッコイイです。
何故なら、自らの正義を追求したから。
そして、自分で責任を取って動いたからなんです。
社会において、
自分で責任を取る人間というのは、
思っているよりはるかに少ないです。
皆が皆、
自分のミスを隠し、
さらに悪い事に、他人におっかぶせようとしています。
ホープ自動車のリコール隠しの様に。
本作でも、
赤松以外の人間は、
皆が皆、自分で責任を取ろうとはしません。
沢田を煽って自分は動かない小牧、
匿名という形で動き、しかし、謀叛が失敗した杉本、
「ジャーナリストの前に会社人」と、意味不明の言い訳をして記事を握りつぶした榎本、
仕事を放棄する事で、状況が変わるのを待っているだけだった井崎、
決定的な証拠を持ち、しかし、それを活かさなかった
富山ロジスティックの相沢、
皆が皆、
「自分では動かないけれど、誰かやってくれ」
と、人に責任転嫁しています。
たらい回し。
これが無ければ、社会がもっと良くなるのに、
そう日々思いますね。
本作では赤松が、
そして、奇しくも沢田がその受け皿として動き、
責任を果たします。
責任のたらい回しをする事は残念ですが、
しかし、その一方で、
皆がたらいに入れた想いや情報が無ければ、
赤松や沢田が動けなかった事もまた事実。
人には人の役割があり、
その立場で、少なからず正義を追求する事が出来るのでは無いか?
例え、打算でも、無責任でも。
これこそ、本作の最大のテーマであると思います。
悩めるヒーローとしての赤松、
アンチヒーローの沢田、
自分の立場で真相究明に貢献した多くの人物達、
彼等が自身に出来る仕事をこなした、
だからこそ共感出来る作品。
そして、自分でも、自分なりの正義が出来るのではないか?
『空飛ぶタイヤ』を観て、私はそういう想いを抱きました。
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池井戸潤の原作小説はコチラ
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