3件の連続殺人事件。そう断定されたのは、現場に共通する「暗号」が残されていたからだ。次の犯行現場を予告している暗号。3件目の暗号から、4件目は「ホテル・コルテシア東京」と判明する。警察は、ホテルを警備しつつ、潜入捜査を行うが、、、
監督は鈴木雅之。
『白鳥麗子でございます』(1993)
『HERO』(2001、2014)等、
数々のTVドラマを手掛ける。
映画監督作に、
『GTO』(1999)
『HERO』(2007、2015)
『プリンセストヨトミ』(2011)
『本能寺ホテル』(2017)等がある。
原作は、
東野圭吾の『マスカレード・ホテル』。
出演は、
新田浩介:木村拓哉
山岸尚美:長澤まさみ
能勢:小日向文世
稲垣:渡部篤郎
藤木:石橋凌
他、
篠井英介、梶原善、鶴見辰吾、利根作寿英、石川恋、前田敦子、笹野高史、髙嶋政宏、菜々緒、宇梶剛士、生瀬勝久、松たか子 等。
出す作品出す作品、
次々と映像化される稀代の作家、
東野圭吾。
その著者の『マスカレード・ホテル』が、
豪華出演陣にて映画化、
それが、本作です。
フロントに立ち、
ホテルの「顔」として業務を遂行する
「フロントクラーク」。
新田浩介は、その潜入捜査員として、
フロントクラークの業務を受け持つ事となる。
その教育係とホテル側に任命されたのは、
山岸尚美。
警察として、疑いの目線で客を見る新田、
あくまで、お客様第一で業務を遂行する山岸、
正反対の信条を持ちながら、
フロントクラークの仕事を通じて、
反発しながらも、二人は協力し合って行く、、、
『マスカレード・ホテル』は、
ジャンルとしては「ミステリ」になります。
連続殺人の犯人は、
何故?
どうして?
どうやって?
犯行しようというのか?
その謎解きの面白さもさる事ながら、
本作の印象としてはやはり、
ホテルに訪れる「お客様」と、
それに対応するフロントクラークが織りなす人間模様のあれこれが最大の見せ場と言えます。
一癖も二癖もあるお客様の、
要望、クレーム、無理難題に、
にこやかに、誠実に、スマートに対応するフロントクラーク。
犯人捜しと並行して描かれる、
客対応のあれこれは、
それだけでも見応え十分な面白さ。
ネタとして、
TVドラマ数回分の展開を、
これでもか、と凝縮して畳みかけてきます。
それにしても、あの木村拓哉がフロントクラーク!?
何となく、
本人と役柄とに、ギャップを感じてしまいます。
あの、キムタクの「おもてなし」が観られる!!
それだけでも、
十二分な価値が本作にはあるのです。
刑事として、
疑いの目線で客を眺める新田浩介。
それに対し、
教育係の山岸尚美は、
接客のなんたるかを、新田に訥々と語ります。
刑事とホテルマン、
正反対の立場の者が、
業務を通じて協力し、
いつしか、互いを認め合って行く、
そう、
そして本作には
バディ・ムービーとしての面白さもあるのです。
様々な要素が楽しめる、
お得なエンタテインメント、
それが本作『マスカレード・ホテル』なのです。
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『マスカレード・ホテル』のポイント
ミステリとしての犯人捜し
客対応にて発生するドラマの数々
相棒コンビの関係性が面白いバディ・ムービー
以下、内容に触れた感想となっております
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フロントクラークとは?
先ず最初に、
木村拓哉演じる新田浩介が扮した「フロントクラーク」とは一体何なのか?
それを簡単に説明してみます。
文字通り、
フロントに立ち、
謂わば、ホテルの顔として、
お客様の第一印象を司り、
そしてお客様のチェックアウトにも携わる。
最初から、
最後まで、
お客様と繋がりのある業務なのです。
宿泊客の予約、
チェックイン、チェックアウト、
部屋割り、
部署間の連携、etc…
その全てが「対人」であり、
ホテルの前面に立っているが故に、
客側から見ると、
最もホテルを象徴する存在だと言えます。
それだけに、
フロントクラークにはやり甲斐と困難があります。
そして、
それを、キムタクが行う!?
破天荒なイメージのキムタクが、
「おもてなし」そのもののフロントクラークを演じる、
そのギャップが先ず、本作は面白いです。
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木村拓哉の、接客ゥ~!?
皆さん、
接客をした事がありますか?
記憶に残っているのは、
東京オリンピック招致時、
滝川クリステルがプレゼンした「おもてなし」です。
普段、生活していて、
「おもてなし」を受ける側は分からないかもしれませんが、
「おもてなし」を提供する側は様々な困難に、日々、直面しているのです。
客の
要望、クレーム、無理難題、
それを、
にこやかに、誠実に、スマートに処理・対応する。
相手が人間であるが故に、
その業務には、毎回不確定要素が発生するという困難さ。
作中でも、
フロントクラークに成り立ての新田は、
思わずこう言います。
「客だからって、何をしても良い訳じゃないぞ」
流石キムタク、
俺たちが言えない事を平然と言ってのける!
そこにシビれる、憧れるゥ~!!
客の理不尽さ、我が儘さにキレた新田を、
しかし、山岸はこう諭します。
「お客様がルールです」と。
ホテルの仕事に憧れ、
誇りを持って業務を遂行する、
その覚悟を表す発言に、
新田浩介ことキムタクも、
流石に感じ入る所があったのか、
徐々にフロントクラークとして、
プロの接客とはなんたるかを学んで行きます。
普段、生きていて、店員さんから受ける、様々なサービス、
ホテルで、
デパートで、
外食で、
映画館で、etc…
金を払っているから、サービスを受けて当たり前、
デカい態度、横柄な様子で命令するのが普通、
本作を観ると、
そういう態度を改める事が、
実は、客側にも必要なのだと分かって頂けると思います。
店員に、プロの対応を求めるならば、
それに対して敬意を払うのは、
人間として当たり前の行為。
店員と言っても、
相手も人間。
店員も、
客側も、
お互いを尊重し合えば、
お互いが気持ち良い思いを出来るのではないでしょうか。
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連続ドラマ数回分の面白さ
『マスカレード・ホテル』は、
犯人捜しというミステリ部分をメインに据えてはいますが、
本作の面白さのキモとしてはやはり、
ホテルというソリッド・シチュエーションの、
接客において発生する様々な人間ドラマの部分であると言えます。
本作は、それが面白い。
そして、
TVドラマ数回分のネタを、
一本の映画にまとめてぶち込んでいる、
その豪華さがまたまた面白いのです。
初回:
ホテルという舞台説明、人物紹介、
部屋のグレードアップを狙う客。
2回目:
特別扱いを強要する常連、
バスローブを盗むチンピラ風の男
3回目:
盲目の女性客
4回目:
無理難題を強要する男性客
5回目:
ストーカー被害を訴える女性客
6回目:
結婚式
7回目:
真相解明
一時間のTVドラマシリーズにしても、
最低7回は放映出来そうです。
しかし、本作は、
出来するトラブルを個別に解決するのでは無く、
時を追って、
複数の事態が同時進行し、
今はコチラ、今度はアチラと、
ザッピング的に進んでいくからこそ、
そこに面白さと、一本の映画にした意味があるのです。
しかし、
ゴチャゴチャになりそうなストーリーを、
それでもスッキリ、観やすくまとめている、
そこに本作の凄さがあり、
その様子は正に、
ホテルを仕切るフロントクラークの様子をも思わせるものがあります。
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構成の妙
多数の事態が同時進行的に絡まる本作。
構成として、
様々な伏線、ミスリードが多く、
そこに、「犯人捜し」以外の部分でも、
ミステリ的な面白さを見る事が出来ます。
如何にも怪しい人物、
実は事情があった、、、
と思わせておいて、
実は、やっぱり怪しい、
ストーカー被害者、
と思わせておいて、
実は自分が夫をストーキングしていた、
花嫁を狙うストーカー、
又、ストーカーネタ!?どうせ真犯人じゃないだろ?
と思わせておいて、
クライマックスになだれ込む展開、
他にも、
客に部屋番号を絶対に教えるな、
と、言った人間が教えていたり、
客の「仮面」を剥がすな、
そう言う台詞があり、
「女装客をすっぱ抜くのじゃなく、スマートに処理するんだろうな」
と思わせておいての、
大捕物を演じたり、
コチラの予想を
ちょこっとずつずらしているのが気持ち良いというか、
そこに、
騙される快感、
予想を的中させる爽快感みたいなものがあります。
その中でも、本作で面白いものは、
「被害者側の恨み」と
「ストーカー」というネタです。
「やった」側は忘れたとしても、
「やられた」側は、その恨みを何時までも忘れない。
それが憎悪の恐ろしい所です。
いじめっ子はのほほんと、伸び伸び成長しますが、
いじめられっ子は、
その人格形成、その後の人生が暗いものとなり、
その恨みを忘れない、
そういうものなのです。
以下、真相にも触れた記述が含まれております
本作では先ず、
宿泊客の栗原が、
新田に執拗に絡む、
その原因が、
過去の因縁だったというエピソードが語られます。
本作でも、
新田は栗原の事を思い出す事が出来ませんが、
栗原は新田を一目で思い出すのですね。
このエピソードを踏まえ、
本作では、
その作中で複数回触れた「ストーカー被害」が、
事件の真相であったと語られるのです。
犯人捜しというミステリーを、
ホテルで織りなす人間ドラマで支えたのが表のテーマなら、
「恨み」「ストーカー」の怨念が、裏のテーマとして存在しているのです。
山岸には「厄介な客」として印象付けられ、
接客、処理した女性。
しかし山岸は、
「厄介な客」として覚えていても、
「長倉」という個人の女性としては覚えていませんでした。
しかし、
長倉の方は、山岸を殺す程に恨んでいた。
端から見ると完全にストーカーの逆恨みという理不尽なものですが、
「恨み」を忘れていない「やる方」には、完全な理由と動機が存在しているのです。
本作では、
ストーカーに怯える女性を描きつつも、
その一方で、
浮気する夫の現場を押さえる、
「恨み」のある相手に復讐するといった、
「ストーカー側」目線の心理、動機をも描いている、
そこが興味深い所です。
恨みを持つ者がどういう心理を辿るのか、
それを作中で、複数回に説明し、
それをクライマックスで繋げてみせる、
その構成の妙が、本作では光ります。
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ちょっと「粋」な演出
問わず語らず、
本作ではそういう、ちょっと「粋」な演出も見られます。
例えば、クライマックス時。
山岸を探す新田は、
部屋をやり過ごしてしまったかの様に思わせて、
戻って来て、
長倉から山岸を救い出します。
何故、戻って来たのか?
それは勿論、
「ホテルの文鎮」が斜めになっていたからです。
お客様がチェックアウトした部屋は、
文鎮一つに至るまで、整えられている。
その描写は、
作中に何度か演出されています。
それが新田も、
映画を観ている観客も、分かっています。
しかし、
新田はそれを山岸に告げない、
映画として、わざわざ観客に説明しないのです。
これは、
映画を作った側が観客を、
「言わなくても、分かるよね」
と、信頼しているからなのです。
誰でも気付く伏線、
ですが、それを敢えて説明しない。
それが、
作った側も、観る側も、
共通した認識になっている。
そこに、「おかしみ」を感じますね。
また、ラストシーン。
山岸は、新田と能勢に、
「藤木(総支配人)は来ません、二人が気詰まりになるといけないので」と、
藤木の食事会不参加を告げます。
山岸は、
そのセリフの「二人」の部分を「新田と能勢」と解釈しますが、
それを聞いた能勢は、察します。
「ハハ~ン」そういうことね。
そう言わんばかりに、
わざとらしい理由を付けて退出し、新田と山岸を二人にする。
つまり、
能勢は藤木の伝言から、
「若い二人には、オジサンが居ると邪魔だろう」
というメッセージを受け取るのです。
問わず語らず、
しかし、
気持ち良く察する事が出来る。
そういう部分も、
本作がミステリとして面白い作品であるのです。
ミステリである本作は、「犯人捜し」を骨子としながら、
ホテルで織りなす人間ドラマの表のテーマ、
「恨み」を晴らさんとする人間の心理を描く裏のテーマ、
それらを描きつつ、
バディ・ムービーとしての面白さも備えています。
ネタとしてはTVドラマ数回分のものを、
破綻無く一本の映画にぶち込んだ。
その構成の妙が
ミステリ作品として、
謎解き以外の部分も面白く観せる。
『マスカレード・ホテル』は、
丁寧な面白さのあるミステリ映画に仕上がっているのです。
*現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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コチラは東野圭吾の原作本です
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