映画『イット・カムズ・アット・ナイト』感想  夜、来たる「それ」がもたらす、心理スリラー!!


 

疫病に罹った祖父のバド。家族に伝染させない為、父ポールが祖父を殺す現場を見学したトラヴィス。その日の夜中、悪夢にうなされるトラヴィスは突如起こされる。家に、何かが侵入して来たのだ、、、

 

 

 

 

監督はトレイ・エドワード・シュルツ
撮影アシスタントを経て、映画監督となる。
短篇として『Two to One』(2011)『Krisha』(2014)を撮影。
『Krisha』(2016)を長篇化した作品で評価を得る。
本作が、二本目の長篇。

 

出演は
ポール:ジョエル・エドガートン
サラ:カルメン・イジョゴ
トラヴィス:ケルビン・ハリソン・ジュニア
スタンリー:犬

ウィル:クリストファー・アボット
キム:ライリー・キーオ
アンドリュー:グリフィン・ロバート・フォークナー 他

 

 

 

IT ”それ”が見えたら終わり
『イット・フォローズ』

近年公開された、ホラーの名作です。

そして、『イット・カムズ・アット・ナイト』。
題名に「IT」が、本作にも入っています。

「イットを借りて来て」と娘に言われてレンタルショップに行って、
お父さんは、間違えて借りて帰って来てしまった。

しかし、である。

娘に非難されながらも、

期待せずに観たら、意外と面白かった。

 

そんな雰囲気を持っているのが本作
『イット・カムズ・アット・ナイト』です。

 

 

さて、

『IT ”それ”が見えたら終わり』では、
殺人ピエロ。

『イット・フォローズ』では、
謎のストーカー。

では、
『イット・カムズ・アット・ナイト』では、
何が出て来るのか?

題名から察する所の、
夜にくる「それ」とは何か?

 

ネタバレになるので、
それを言えないのが、辛い所。

しかし、
ハッキリと言える事は、

モンスターが出て来て「ウェイ!」
という事態がメインの映画ではありません。

 

本作はホラー描写も多いですが、

あくまで、心理スリラー。

サスペンスが主体の映画となっております。

 

なので、

ホラー映画を観る時、
それに期待する所は何なのか?

それによっては、
肩透かしを喰らう人も居る一方、

「こういう作品が観たかった」と、
恐怖に歓喜する人も居るだろうと思われます。

 

山中、
人目を避け、
独自のルールを設け、
生き残りを図る家族。

彼達が見舞われる恐怖、
「それ」とは一体何なのか?

 

限定された状況での、
ワンテーマを活かした作品、

『イット・カムズ・アット・ナイト』は、
正に、ホラーらしいホラー作品なのです。

 

 

  • 『イット・カムズ・アット・ナイト』のポイント

限定状況による、ワンテーマの面白さ

家族の危機

夜に来る、「それ」とは何か?

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 


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  • 題名から察する印象について

本作の題名は『イット・カムズ・アット・ナイト』。

名は体を表す。

本作の題名から、
その内容をどの様に推測しますか?

 

私は、
夜に来る「それ」、
つまり、ゾンビ的なモンスターが家を取り囲み、

生き残りを懸けて、
決死の籠城戦を敢行する

勝手に、
そんなストーリーを予想していました。

完全に、ゾンビ脳ですね。

 

しかし本作は、
そんな派手な、
モンスターが出て来て、サバイバルするようなホラー作品では無いのですね。

心理スリラー、
サスペンスがメインとなっているのです。

 

なので、
人によっては、
「何だ、この、期待だけさせておいて、何も起こらないクソ映画は!!」
とお怒りになるかもしれません。

しかし、むしろ、

題名から勝手に察して、
何かが来るぞ、来るぞと思わせておいて、
何も来ませんでした!!

みたいな、
観客の期待を逆手にとった「じらし」を積極的に楽しむ、

そういう姿勢を採った方が、
より楽しめる作品と言えるのです。

 

  • 3つのポイントについて

先に挙げた、本作の3つのポイント。

限定状況による、ワンテーマの面白さ

家族の危機

夜に来る、「それ」とは何か?

実は、この3つは、同じ事だったりします。

その解説を、今からやってみたいと思います。

 

本作、
『イット・カムズ・アット・ナイト』は、
ソリッド・シチュエーション(限定状況)における、
ワンテーマを突き詰めた作品です。

こういう作品は、
ホラー映画や、
予算が少ない映画などでよく見られます。

作りとしては、豪華で無くとも、

伝えたい事を明確に、
集中して描いているが故に、

逆に大作映画よりも面白かったりします。

 

さて、
では、本作のテーマとは一体何なのか?

それは、ズバリ、
題名そのもの『イット・カムズ・アット・ナイト』

日本語で言うならば、
「夜に来たるモノ」です。

では、
一体、何が夜に来るのか?

それを考える、
観た人間が各々思う事を感じ取る、

それが、本作の一番の面白い所なのです。

 

パンフレットによると、
本作を観た多くの人が、

「それ」とは、
トラヴィスが観る悪夢の事を言っていると解釈しているそうです。

祖父の死を切っ掛けに、
夜な夜な悪夢に苦しみ、
不眠症で、夜、家を歩き回るトラヴィス。

確かに、その解釈は正しいですが、
私は、それを、もうちょっと独自目線で解釈してみたいです。

 

それを考える上で、
先ず、本作で描かれる家族関係について考えてみたいと思います。

 

  • 家族関係

『イット・カムズ・アット・ナイト』には、
二つの家族が登場します。

そして、
トラヴィス目線で進む本作においては、
父親の対比が、明確に描かれています。

 

家族第一を掲げ、
厳格なルールを設定し、
息子トラヴィスにも厳しく接する、ポール。

一方のウィルは、
愛したキムを追って都会に出た情熱家。

妻とはイチャイチャし、
息子にも愛情を持って接しています。

 

 

厳格なポールの家に、
ウィルの一家という異分子が紛れ込む。

始めは上手くいっていても、
結局は破滅的な事態が起こってしまう。

本作は、共同体の崩壊を、
その最も最小の単位「家族」において描く事で、

危機的状況における人間性の喪失を描いているのです。

では、何故その様な事態に陥ってしまったのか?

その答えこそが、
夜に来る「それ」なのです。

 

  • 夜にくる「それ」

『イット・カムズ・アット・ナイト』。

本作はその題名から、
夜に、ゾンビ的な、何かクリーチャーやモンスターがやって来ると、
予め観客に予想させます。

そして映画の冒頭部分を観て、

病気が流行った原因は?
人類が減少したのは、何か起こったからなのか?
パンデミックか?戦争か?

そういう疑問を持つ事になります。

 

しかし、
解り易い「何か」は、
結局、最後まで何も来ない!

詳しい説明も一切無いのです。

観客に出来る事はただ、
夜に来る「それ」に怯え続ける事になります。

 

これを、

肩透かしと感じるか、
面白い演出と感じるかは、人それぞれ。

賛否両論だと思います。

 

さて、ポール達、家族で決めた、厳格なルール。

必ず二人一組で行動する、
家の鍵は必ずかける、
トイレは外、夜はバケツに、
夜、緊急時以外は外出しない、
食事は一日二回、皆でそろって摂る。

これらのルールのおかげで、
日中は、ある種のルーティン・ワークを形成し、
「何か」からもたらされる恐怖から目をそらす事に成功しています。

しかし、クリーチャーは何も来なくとも、
夜には言い知れない「何か」が毎度起こっています。

 

祖父の死を契機に、トラヴィスが見始めた、悪夢
これは、トラヴィスの不安、
主に、病気に罹患する恐怖を描いています。
何故、罹患が恐怖かと言うと、
それは家族という共同体からの排除に繋がるからです。

ウィルの訪問
家族という、閉ざされ、ある程度の平穏が確保された空間に、
ウィル一家という異邦人が参加する事になります。

トラヴィスとキムの会話
眠れない二人の会話。
最初は普通に会話しますが、
年頃のトラヴィスにとって、美人のキムは女性を意識させる存在です。

ポールとウィルの酒盛り
祖父パドの部屋で、秘蔵の酒を飲む二人。
しかし、
その会話にて、ポールはウィルが嘘を吐いているのではないのか?
と、疑う事になります。

スタンリーの帰還
望んでいたハズのスタンリーの帰還。
しかし、スタンリーは病気に罹っていた。
そして、
スタンリーがいた「赤いドア」の先を開けたのは、誰なのか?
祖父の部屋で寝惚けていた、アンドリューの仕業か?
アンドリューはスタンリーに触ったか?
アンドリューを保護し、彼に触れたトラヴィスも危険?
ここから、一気に疑念が噴出し、クライマックスへと突入する事になります。

 

これらに見られる通り、

日中は目をそらしす事に成功していた不安、疑念、恐怖が、

夜、溢れ出しています。

そう、夜来たるモノとは、「疑心暗鬼」。

本作は、
一つ一つは些細な疑念でも、
その積み重なりが、

やがては破滅的な局面を迎える、
人間の負の側面を描く事がテーマの作品なのです。

 

家族で決めたルール。

平穏を保つルールも、しかし、
夜に、少しずつ破られてしまいます。

 

一人で、深夜徘徊するトラヴィス。

夜に外に出てしまうポール。

家族で食事のハズが、
一杯とはいえ、酒を飲んでしまうポールとウィル。

施錠を徹底するハズが、
誰かが、「赤いドア」を開けてしまっている。

 

平穏を担保するハズのルール。

外からの脅威に怯え、備えながらも、
しかし、
少しの破戒の積み重なりが、
結果、疑心暗鬼を招き、内部から崩壊し、
結局は破滅的局面を迎える事になるのです。

 

限定状況にて、その過程をジックリと描写する。

本作は心理スリラーであり、
サスペンスであり、
そして、紛れもないホラー作品なのです。

 

  • 小ネタ解説

本作の冒頭、

祖父パドの部屋に掛かっていた絵が接写されます。

その作品は、画家のピーテル・ブリューゲル作、
『死の勝利』。

 

『死の勝利』は、
『バベルの塔』などで知られる、ブリューゲルの代表作の一つ。

どんな人間にも必ず訪れる「死」というものの圧倒的な存在感と、
それに対する人間の儚い抵抗を描いた作品だと言われています。

監督のトレイ・エドワード・シュルツは、
この絵を毎晩観ながら、
本作の脚本を完成させたとの事。

 

本作のテーマ、
そして、これから映画にて起こる事を、象徴した様な絵画であるのですね。

 

  • A24

本作の配給会社は、「A24」です。

大作とは言えなくとも、
ドラマとして面白い映画を多く配給しているイメージです。

2018年は、
ヘレディタリー/継承』等も配給しており、

今後もチェックすべき会社であると思います。

 

  • 出演者補足

父、ポール役を演じたのは、ジョエル・エドガートン

『ザ・ギフト』(2015)という作品で監督の経験もある彼は、
本作では製作総指揮も務めています。

ジョエル・エドガートンはイケメン系ではありませんが、
観たら忘れない、顔面力が高い俳優です。

その顔は、どう見てもいじめっ子顔。
しかし、役的に良い奴を演じる事も多い、
不思議な役者です。

出演に
『スターウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002)
『アニマル・キングダム』(2010)
『ウォーリアー』(2011)
『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)
『華麗なるギャッツビー』(2013)
『エクソダス:神と王』(2014)
『ザ・ギフト』(2015)
レッド・スパロー』(2018)
『ある少年の告白』(2018)(日本では2019公開予定)等があります。

さて、ジョエル・エドガートンは、
本作について、
「移民の恐怖」を描いた作品だ、
と言っています。

ポールの一家の家に、
ウィル一家という移民が入って来る、
確かに、言われれば、そういう要素があると気付きます。

私も同じく、
本作は、
「保護主義」と「自由主義」の貿易戦争だ、
と感じました。

排他的に自国のルールに固執するポールと、
自由な発想のウィルが対比されている様に思いました。

これを、本作の場合に当て嵌めると、
「移民の恐怖」も「保護主義」も、

「自国民を守る為」という名目のもと、
「自国ファースト」を掲げて行動した結果、
カタストロフィが訪れています

トランプ政権の今後、
そして、
外国人労働者を受け入れんとする日本、
その行く末を暗示している、

本作はそういう一面もある、

そういう解釈も出来るのが、面白い所です。

 

キムを演じたのは、ライリー・キーオ
エルヴィス・プレスリーの初孫です。

個人的には、
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)にて、
「妻たち」の一人、ケイパブルを演じたのが、印象に残っています

他の出演に、
『マジック・マイク』(2012)
『ローガン・ラッキー』(2017)
『アンダー・ザ・シルバーレイク』(2018)等があります。

 

 

 

『イット・カムズ・アット・ナイト』。

その題名から、
「それ」が、夜やって来ると、観客に推測させます。

しかし、実際は、
解り易いクリーチャーはやって来ない。

むしろ、
夜にやって来るのは、自己の内部の問題、
「疑心暗鬼」なのです。

そういう心理スリラーを描いた作品である本作、

2018年には、
クワイエット・プレイス
ヘレディタリー/継承』という、
家族をテーマにした名作ホラーが公開されましたが、

本作も、またホラー映画の名作の一つとして、
記憶されるのではないでしょうか。

 

 

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