映画『シラノ』感想  恋愛草食系の末路を見よ!!

詩と戯曲を愛し、軍の連隊に所属するシラノは喧嘩に滅法強く、劇場で気に入らない役者をこき下ろし、決闘にも勝利する。
そんな彼は同郷のロクサーヌに恋をしていたが、自分の容姿を気にし胸の内を言い出せないでいた。
ある日、ロクサーヌに呼び出されるシラノ。それは恋の告白だったが、その相手はクリスチャンという青年に向けたもので、仲を取り持って欲しいという願い事だった、、、

 

 

 

 

 

 

監督は、ジョー・ライト
監督作に、
『プライドと偏見』(2005)
『つぐない』(2007)
『アンナ・カレーニナ』(2012)
『PAN ~ネバーランド、夢のはじまり~』(2015)
ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)
『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』(2020) 他

 

出演は、
シラノ:ピーター・ディンクレイジ
ロクサーヌ:ヘイリー・ベネット
クリスチャン:ケルヴィン・ハリソン・Jr.

ギーシュ公爵:ベン・メンデルソーン
ル・プレ:バシール・サラディン 他

 

 

 

先日、日本で初の女性プロゲーマーであった「たぬかな」さんが、
所属事務所から契約破棄を言い渡されました。

その理由は、
2022年2月15日の動画配信の最中に、
身長170センチ未満の男性に人権は無い」的な事を言って、炎上した事が原因でした。

 

世間での反応は、
「当然だ」という声がある一方、
「いきなりクビにするのはどうか」「所属事務所が炎上から守るのも仕事では」
という意見もありました。

しかし、
過去の「胸がAカップの女性に人権が無い」などの発言が発掘されたり、
また、
どうやら、対戦型格闘ゲームのプロ選手界隈でも、
「業界で一番口が悪いのは、ダントツでたぬかな」と言われる位であり、

実は、一発レッドカードでは無く、
過去の行状が積み重なってのペナルティだったと思われます。

 

 

さて、「シラノ」です。

シラノ・ド・ベルジュラックは、
17世紀フランスに実在した剣術家、作家。

このシラノ・ド・ベルジュラックを題材にした、
1897年初演の、
エドモンド・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」により、
名が知られる事になりました。

戯曲では、
自分の「大きい鼻」という容姿に苦しみながらも、
ロクサーヌに思いを抱き続けるという人物で、

以降、
戯曲の「シラノ・ド・ベルジュラック」を題材にした
リメイク作が、各地、各国で作られる程の大ヒットとなりました。

 

日本でも、
「シラノ」を「白野」として作り直されたりしてますね。

つまり、
戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」で描かれたテーマである、

「容姿」と「恋愛」についての悩みは、
時代を超える、

 

その証左であるのですね。

 

そして、
映画版である、本作『シラノ』は、

ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」を元にした、
エリカ・シュミットの2018年版の舞台を原作としており、

「容姿に悩むシラノ」という設定をそのままに、
そのコンプレックスを、
「大きい鼻」から「低身長」に変更しています。

その舞台版で、
シラノを演じたピーター・ディンクレイジと、
ロクサーヌを演じたヘイリー・ベネットが、
映画版でも、同じ役で続投しております。

 

 

さて、そんな本作です。

ジャンル的には、
恋愛ミュージカルドラマであり、

また、
予告篇が大変よく「作り過ぎて」おり、

本篇の内容も、
予告篇そのままとなっております。

 

恋愛の悩みは時代を超越しますが、

「モテ」の基準は、
時代や場所、個人の嗜好によって、様々。

 

17世紀フランスに生きるロクサーヌは、
クリスチャンの容姿に一目惚れしますが、

相手の頭の中がカラッポかどうか調べる為、
シラノに相談し、
クリスチャンに、自分宛ての手紙を書かせる様に頼みます。

ロクサーヌは、
詩魂というか、
ウィットに富んだ会話や、
ロマンティックな台詞を楽しみたいのですね。

そしてシラノは、
ロクサーヌを失望させない為に、
クリスチャンの「恋文」の代筆をする事になるのですが、、、

 

台詞や詩、
言葉の部分に重きを置くという意味で、

戯曲、ミュージカルというジャンルに、
ピッタリとした題材である『シラノ』。

容姿と恋愛を題材にしたドラマという事もあり、

時代を超越した、
老若男女楽しめる作品と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

  • 『シラノ』のポイント

衣装も絢爛な恋愛ミュージカル

言葉に重きを置いた、詩的な表現

自信と容姿と恋愛の悩み

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 草食系恋愛の末路

容姿に自信が無く、
愛する相手に思いを告げられずに悩む

これは、
誰でも、経験のある事ではないでしょうか。

本作のメインテーマは、
その青春の悩みを描いている為に、

時代を超越して、
老若男女の心に届く作品に仕上がっているのではないでしょうか。

 

テーマは時代を超越するとは言え、

恋愛における「モテ」の基準は、
地域、時代、
そして、個人の嗜好によって様々

本作の舞台である、
17世紀フランスに生きるロクサーヌが重視するのは、

詩的で、ウィットに富み、ロマンティックな会話を繰り出せる相手となります。

 

シラノは、
ロクサーヌを失望させない為、
彼女が一目惚れしたクリスチャンの「頭脳」として、

彼の代わりに恋文を代筆し、
バルコニーにいる愛しの相手に、詩的な言葉を繰り出すのです。

 

秘めた想いを胸に、
しかし、愛の表現にて相手を歓ばす。

ロクサーヌがクリスチャンと結婚する場面でも、
「ギーシュ公爵を食い止めて」と言われれば、黙って出て行く。

その様子に、
騎士道精神というか、
硬派な侠気を感じて胸が熱くなるのは、

不思議と、男女を問わない描写です。

 

しかし、
本作においては、
ラストシーンにて辛辣な描写があります。

シラノは、その今際の際(いまわのきわ)にて、
ロクサーヌへの愛を告げつつも、

自分が愛したのは、己のプライドであった」と
告白して逝ってしまいます。

 

これは、

クリスチャンがロクサーヌに言われたという、
「あなたの容姿より、その魂が好きだ」という言葉を信じられずに、

自分こそが、
クリスチャンの代筆家、その魂であったと、
もっと早く告白出来なかった事の、

後悔と慚愧の念であると言えます。

 

片思いというものは、
苦しいものであり、

告白して、
想いが打ち砕かれると思うと、
中々、言い出せないものです。

故に、
人は、自分の想いを告白せず、
苦しまずに済む道を選び、

安全に、
現状を保留しがちになります。

 

しかし、
本作のラストから読み取れるものは、

自分のプライドを守る為に、
その想いを告白出来ないのなら

それは、
もしかしたら、
手に入るハズだった幸せをも手放しているのかもしれない、

という事です。

 

日本では、
未婚率の上昇、
出生率の低下が叫ばれて久しいですが、

それは、
生涯賃金の低下という、
外部的な環境要因もありつつも、

本作のシラノの様に、
恋愛における草食系の増加という、
文化的な要因もあるのではないでしょうか。

 

本作のラストからは、

「君たち、こうなりたいのか?」

という警告を読み取る事が出来、

恋が成就しないが故に、
恋愛を推奨するという、
中々に、凝った手法、オチになっております。

 

片思いを拗らせた先の、
人生の終局よりも、

想いが遂げられなかったとしても、
その先へ進む為に、

玉砕でも、
愛の告白をすべきではないのか?

本作『シラノ』は、

そういう恋愛のススメたる作品なのではないでしょうか。

 

 

 

大元の原作となった、ロスタンの戯曲が、コチラ

 

 

 

 

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