映画『マイ・エレメント』感想  夢も愛も将来も、心のままに選ぶ勇気

火のエレメント、エンバーは、ファイアタウンにて雑貨屋を営む両親の一人娘。父のバーニーは、何時か一人前になった時、エンバーに店を継がせると約束していた。
スピード、パワーは申し分無いが、癇癪を起こすのが玉に瑕。そんなある日、店の地下室が水漏れし、水のエレメントのウェイドが流れ着いて来て、、、

 

 

 

 

 

 

監督は、ピーター・ソーン
ピクサーに入社し、数々の作品に関わり、
『バズ・ライトイヤー』(2022)などの作品では、
声優として活躍。
監督作に、
『アーロと少年』(2015)がある。

 

声の出演/日本語吹替え は、
エンバー:リーア・ルイス/川口春奈
ウェイド:マムドゥ・アチー/玉森裕太
バーニー:ロニー・デル・カルメン/楠見尚己
シンダー:シーラ・オンミ/塩田朋子
ゲイル:ウェンディ・マクレンドン=コーヴィ/MEGUMI
ブルック:キャサリン・オハラ/山像かおり 他

 

 

かつて、「ピクサー」のアニメ映画というものは、
特別感がありました。

言うなれば、
スタジオのブランド名のみで、
無条件で観に行く、といった信頼があったのです。

しかし、
ディズニーの完全子会社化、
創業者のジョズブ、ラセター、キャットマルの離脱
他のアニメスタジオのCG技術の進歩
コロナ下での、三作品連続(『ソウルフル・ワールド』『あの夏のルカ』『私ときどきレッサーパンダ』)で配信限定、劇場公開スルー 等の理由で、

ピクサースタジオ自体に特別な魅力を感じる事が、
無くなってしまいました。

 

また、
直前の劇場公開作『バズ・ライトイヤー』(2022)が
正直、つまらなかった。

ピクサーの映画が
明確につまらなかったというのは初めてで、
私的には、結構ショックでした。

 

劇場公開スルー、
『バズ・ライトイヤー』の出来、

これで、2アウト。

正直、今回もつまらなかったら、
「ピクサー」というスタジオのブランド自体が、
危ぶまれる所です。

 

 

で、
本作『マイ・エレメント』です。

率直な感想を言いますと、

超名作では無いけれど、
ピクサーらしい、丁寧な良作

 

という印象。

 

実際、
夏休みという事もあり、
初日の初回にも関わらず、
親に連れられたキッズの観客も多かったですが、

子供が観て楽しくて、
親が観ても、思う所がある
ストーリー展開とテーマの面白さという、

従来のピクサーの強味を、ちゃんと継承した作品となっています。

 

また、
CGの進歩には毎回驚かされますが、

今回も、
背景CGが、まるでストップモーションの実写か!?と
見紛う程の質感だったり、

炎の揺らめき、
水のきらめきと液体感、など、
CG表現が難しい部分に挑戦しており、

それらの描写にも目を瞠るものがありました

 

また、
ピクサー作品と言えば、
本篇公開前のオマケの短篇アニメーション。

「かったるいな」
「早く本篇始まらないかな」と思いつつも、

結構観入ってしまうという
独特の魅力がある作品が多いです。

最近は無かったのですが、
本作では抱き合わせの短篇が復活しており、
(『カールじいさんのデート』)
ちょっと、嬉しい所です。

 

また、
本作の吹替えは、
メインのキャラに本職の声優を起用してはいませんが、

それでも、
バッチリ役に嵌っているので、
その点でも安心出来る作品。

 

そんな本作で描かれるのは、

他人と、
自分を受け入れる勇気を持つという話。

 

 

これぞ、超名作!!
というタイプではありませんが、

ストーリー、テーマ、
CGのクオリティなど、

安心して高水準の品質を、
どの年代が観ても楽しめるというのは、
凄い事です。

『マイ・エレメント』
中々のオススメ作品です。

 

 

  • 『マイ・エレメント』のポイント

他者を受け入れる勇気

自分の本心を受け入れる勇気

一歩を踏み出す事の、困難と尊さ

 

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 他者を受け入れる勇気

『マイ・エレメント』は、
勇気を獲得する話。

勇気の獲得とは、
本心を披露する決意をする事。

そんな事を、本作は示唆してくれます。

 

さて、
『マイ・エレメント』を観た時、
ピクサーの過去作、
『インサイド・ヘッド』(2015)を思い出しました。

『インサイド・ヘッド』は、
「喜び」「悲しみ」「怒り」などの感情がアイデンティティを持ったキャラクターとして存在しています。

 

一方本作では、
「エレメント」という形で、
解り易く、「火、水、風、土」と、
違う「人種」が4つ存在します。

最近の作品は、
まぁ、
ディズニーの息がかかったものは特に、
多様性を意識して設定に組み込むものが多いです。

それが、
わざとらしかったりするのが、
最近の作品群の問題点と言えますが、

本作に於いては、
「エレメント」という形に「なぞらえる」事で、
自然と、多様性のある環境を理解しやすくなっています

 

主人公のエンバーは火。
一方のウェイドは水。

一目で解る、相反関係。

この二人が、
同じミッションに挑み、
互いに相手を知り合う事で、
惹かれ合うというのが、本作のストーリーライン。

しかし、
火は、水に消され、
水は、火に蒸発させられる。

結局は、
結ばれぬ二人なのではないか?

そういう固定観念、既成概念を破って行けというメッセージが、
本作のテーマの一つでもあります。

 

結ばれぬ二人の物語としては、
『ロミオとジュリエット』系列ですが、

映画で言うなら、
『ウェスト・サイド物語』(1961)
『ウェスト・サイド・ストーリー』(2021)
『イン・ザ・ハイツ』(2021)

という、
移民の恋愛や、夢、将来をテーマにした作品らと、
共通のテーマ性を持っていると言えます。

 

  • 自分の本心を受け入れる勇気

エンバーの父母、バーニーとシンダーは移民で、
エレメンタルシティにて、苦労して自分達の居場所と店を構えた苦労人。

旅立ちの時、
父に「土下座の礼」みたいなのをしても、シカトされ、
故郷に捨てられたと感じていたバーニーは、

自分の店に誇りを持っており、

寄る年波の体調変化も相俟って、
エンバーに継いで貰うのを心待ちにしています。

 

子供の頃から店に慣れ親しんだエンバーも、
自分が二代目になる事を当然として認めており、

客の理不尽に対して「キレ」さえしなければ、
直ぐにでも、という所まで来ています。

 

しかし、
「ヴィヴィステリア」という花に焦がれていたり、
ガラス細工に才能を見せたり、
実際は、芸術家気質だったエンバー。

彼女の深層心理の本心としては、
店を継ぐことに拒否反応を発しており、
その表象をしての「キレる」行為だったのです。

 

二代目だから、
長女だから、
父の夢を潰したくないから

 

人生を生きるのに、
親が敷いたレールを快適に進む事が安心と感じる人もいます

一方、
その他者の期待と希望が重みと感じる人も居るのです。

 

人に、愛を告白する事には、
勇気が必要です。

それと同等か、それ以上に、

親に、
「あなたと私の道は違う」と宣告する事も、
勇気が必要です。

勇気とは、
自らの本心の発露を覚悟する事

 

本作では、

エンバーとウェイドとの関係、

又、

エンバーと、父バーニーの関係は上手く行きました。

エンバーの旅立ちの時、
バーニーは、
自身が父にして欲しかった「返礼」を、
エンバーに返しました。

 

しかしバーニーと、
彼の父の様に、

勇気の発露が必ずしも、
上手く行く訳では無いという事も、
本作では語っています。

 

それでも腐らず、自分の道を進み、

そして、
一番大切と言った娘が、
自分の道から外れても、
それを、快く受け入れ送り出す潔さ

それも、勇気の一種であると、
バーニーの姿から、語っているのではないでしょうか。

 

 

作品のテーマに関わらず、
わざとらしい「多様性」を押し付けて来る作品が多い昨今。

本作『マイ・エレメント』は、

他者を受け入れ、
自分をさらけ出す困難を描きながらも、

固定観念、既成概念、しがらみに捉えられずに、
勇気を発揮する事の重要性を描いた作品と言えるのではないでしょうか。

 

それぞれの「エレメント」の文化の描写なども面白く、
CGの見やすさもあり、

まだまだ、
「ピクサー」ここにアリと、
言えそうですね。

 

 

 

 

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