将来に対し、漠然としたイメージ持っていなかった高校生の外村。ある日彼は、学校のピアノの調律にやって来た板鳥の仕事ぶりを見る。その時、外村の脳裏に浮かんだのは、緑溢れる「森」のヴィジョンだった、、、
監督は橋下光二郎。
TVドラマの「鈴木先生」の監督などを手掛け、
映画『orange-オレンジ-』(2015)にて長篇監督デビューを果たした。
出演は
外村直樹:山﨑賢人
柳伸二:鈴木亮平
板鳥宗一郎:三浦友和
佐倉和音:上白石萌音
佐倉由仁:上白石萌歌 他
原作は、2016年の本屋大賞を受賞した
宮下奈都(著)の『羊と鋼の森』。
本作は、その映画化作品です。
ピアノという楽器は、
羊の毛で作られたハンマーが、
鋼の弦を叩くことで音がでます。
標準的なピアノは、
黒鍵36、白鍵52の88鍵で構成され、
鍵そのものは、木で出来ています。
外村が見た森のヴィジョン。
それは、ピアノという楽器が持つ、
無限とも言える空間的拡がりのイメージを幻視したものだと言えます。
「希望の進路」という物を持っていなかった外村。
彼は、この体験を切っ掛けに、
ピアノの調律師になる事を目指すのです。
本作、『羊と鋼の森』は、
調律師となった社会人1年生の外村、
新しい事を始めた彼の、
期待と不安で揺れ動く、懸命なる日々を描いた作品です。
本作は、ピアノの調律師という、
専門性の高い職業を描いた作品です。
その、
ピアノの調律師の作業を見るだけでも、
興味深く楽しめます。
普段知らない世界の
熟練した職人の技を見る。
そういう面白さのある作品でもあります。
また、ピアノという楽器を扱う関係上、
数々のピアノの名曲が作中で披露されます。
単純に名曲を楽しむも良し、
曲とストーリーの関わりを感じるのも良し、
音楽がフューチャーされた作品ならではの楽しみ方があります。
ゆったりとしたペースで、
ジックリと作られた作品、『羊と鋼の森』。
自らの人生を省みる契機ともなる、
そういうしっとりとした作品でもあるのです。
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『羊と鋼の森』のポイント
新しい事をする、その期待と不安
ピアノ調律師という職業
ピアノの名曲の数々
以下、内容に触れた感想となっております
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ピアノの調律
本作、『羊と鋼の森』は、
本屋大賞を獲った同名原作小説の映画化作品。
主人公の外村の、ピアノの調律師1年生として奮闘を描いた作品です。
しかし、一般的に、ピアノの調律師という仕事は何をするのか?
そういう特殊性というか、
普段自分の知らない専門家、職人の仕事振りを観るというだけでも、
大変興味深く、勉強になる作品です。
殆どの楽器は、演奏者自らがメンテナンスを行うといいます。
しかし、ピアノという楽器は、
その調整箇所が多く、専門的なメンテナンス知識が必要な為、
プロのピアノ調律師に仕事を頼むのが一般だそうです。
ピアノは金属、木、合成樹脂など様々な部品から構成されています。
演奏の頻度は勿論の事、
温度、湿度の変化で楽器の状況が変化、
そういう部品、状況といった、
多岐に亘る調整箇所を整えるのが、ピアノ調律師の仕事です。
ピアノの調律というものを簡単に説明してみます。
それは、
調律、整調、整音に分けられます。
先ず、ピアノの機械的な調子を整える調律。
整調は、
鍵盤を押して、音が出るまでの調子を整える作業。
つまり、演奏に関する部分の調整。
整音は、
ピアノの音色、音質を整える作業。
映画で、
ハンマーヘッドを削ったり、針を突き刺したりしていたのは、整音部分の調整です。
ハンマーヘッドに針を突き刺す(ニードリング)すると、
内部の圧力が変わり、音質が変わるそうです。
もう、これだけ聞いても、
いかに神経をすり減らす作業か、想像出来るというものです。
作中でも、
その見た目や、兄貴分的な雰囲気とは違い、
実際は全般的不安障害と呼ばれる、
見た物全てに神経質に反応してしまう事に悩まされた過去があったと言います。
同僚の秋野も一癖あり、
その職業柄なのか、
精神的な疲労が激しい職業だと思われます。
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期待と不安
そういう専門的な、職人気質の職業に就いた外村。
彼は、失敗したり、罵倒されたり、
しかし、時には思わぬ充実感を得たり、
そういう日々を送る事になります。
本作で描かれるテーマの一つは、
この新しい事を始める時の、期待と不安に満ちた充実した日々を描く事です。
学校でも、
部活でも、
勉強でも、
そして、仕事でも、
新しい事を始めた時は、何をやっても上手く行かず、
自分の才能の無さ、不甲斐なさ、いたらなさに
歯がゆく、悔しいく、情けない思いをする事になります。
この段階で心折れたり、
諦めたり、
また、思い切って見切りを付けたりする事も多いでしょう。
しかし、
続けなければ、何事も精通する事ままならないのです。
作中にも象徴的なセリフがあります。
「才能っていうのは、ものすごく好きっていう気持ちなんじゃないか」
好きこそものの上手なれ、です。
好きだからこそ、
嫌なことがあっても続けられる、
続けていれば、段々と道を進んで上達して行ける。
人生という物は、
勝ち負けのある競技ではありません。
いかに歩んで行くのか、
そういう長いスパンでの「道」の様なものです。
コツコツ歩むという事は、
日々の喜びも、そして失敗も、
踏みしめる足跡の一つとして確かなものとなる。
失敗を恐れるな、
日々学ぶ事を喜び、
色んな事を糧にして、信じた道を進め。
迷った時、
落ち込んだ時、
それでも前に進んで行く、
そういう一歩の踏み出す新たな力を再び見出す、
『羊と鋼の森』は、そういう映画なのだと思います。
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原作小説です
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