映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』感想  「面白さ」のフランチャイズ化

サンフランシスコでホテルマンをしているショーン。彼は親友のケイティと、その日を楽しむお気楽な毎日を過ごしていた。
しかし、ある日バスの中で刺客に襲われた事で、彼の素性が発覚。ショーンは、名前と過去を隠した存在、本名はシャン・チー。父親は、世界を裏で操ってきた犯罪組織のボス、ウェンウーであったのだ、、、

 

 

 

 

 

監督は、デスティン・ダニエル・クレットン
主な監督作に、
『ショート・ターム』(2013)
ガラスの城の約束』(2017)
『黒い司法 0%からの奇跡』(2019) 他

 

出演は、
シャン・チー:シム・リウ
ケイティ:オークワフィナ
シャーリン:メンガー・チャン
リー:ファラ・チャン
イン・ナン:ミシェル・ヨー

ウォン:ベネディクト・ウォン

ウェンウー:トニー・レオン
レーザー・フィスト:フロリアン・ムンテアヌ 他

 

 

 

サノスとの戦いが終わり、
また、
コロナの蔓延の為に、
長く上映期間が空き、
再会が待たれた「マーベル・シネマティック・ユニバース」系統の映画作品。

実際は、
『ブラック・ウィドウ』(2021)にて復活しましたが、
コレは、前世代に属する物語でした。

実質、
新展開が始まるのが、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」第25作目である本作、
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』です。

 

昨今のハリウッドは、
人種の幅広い採用を促進しており、
白人、黒人、メキシカン、アジア系など、
出演者は、これらを全て網羅していないと、
アカデミー賞にノミネートされないという事です。

そういう流れも相俟ってか、
はたまた、
中国市場を意識してか、

本作の主人公シャン・チーを演じるシム・リウは、中国系のカナダ人、
そして、メインキャラは、軒並み中国系で揃えられています。

で、シム・リウですが、

学生時代、クラスに一人は居た、
あだ名が「オヤジ」というクラスメイト

 

 

みたいな見た目をしています。

アジア系という事もあり、
何処か、親近感が湧きます。

更に、
本作のヒロイン役のオークワフィナは、

見た目、声、ファッションセンス、逞しさ、
その全てが「大阪のオバチャン」的な雰囲気を醸し出しています。

 

 

いや、実際に「大阪のオバチャン」が知り合いに居る訳では無いのですが、
何となく、
素人のイメージとして、合致したという訳です。

 

美男美女の理想のカップル像を提供するのが、
映画というもの。

しかし本作は、
その理想郷と真っ向から対決しています。

何故、こんな事をするのか?

それは、

キャストの「パッと見」に頼らなくとも、
内容で勝負出来る自信があるからです。

 

 

本作は、
とにかく、完成度が高い作品です。

アクションの奇想天外さ、
普通のオッサンとオバサンが、摩訶不思議アドベンチャーに繰り出すという意外性、
感情に訴えるウェットなストーリー、

誰が、いつ観ても、
最高レベルに面白い映画、

それが、本作と言えるでしょう。

正に、
これまでの「マーベル・シネマティック・ユニバース」を継ぐに相応しい作品です。

 

…しかし、
逆に言うと、
「いつもの」マーベル・シネマティック・ユニバース作品

勧善懲悪!!
敵を倒して、ヤッホーい!!
そして、次回に続く!!

みたいな感じです。

 

なので、
今までのシリーズが好きな人は、問題無く楽しめますし、

「アベンジャーズ?興味ねぇ」
みたいな人は、どうやっても楽しめません。

その辺は、ハッキリしています。

 

とは言え、
単体で観ても、完成度の高い作品である事は事実。

食わず嫌いは勿体ない、

折角、新展開が始まるのだから、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」を知らなかった人も、

本作から入る事も出来る、

正に、
全方向に隙の無い作品、
それが、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』となっております。

 

 

  • 『シャン・チー/テン・リングスの伝説』のポイント

完成度の高い面白さ

贖罪とエディプス・コンプレックス

フランチャイズ化された面白さ

 

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

スポンサーリンク

 

 

  • 贖罪とエディプス・コンプレックス

本作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は、
「テン・リングス」を使ったアクション面での面白さもさることながら、

それよりも目を惹くのは、
脚本というか、ストーリーの面白さです。

 

よく言えば、お気楽、
率直に言うと、その日を気ままに生きて居る、
自堕落なショーン、

何故、そんな生活を続けているのか?

それは、
ある種の「罰」の為です。

 

母を目の前で殺され、その時、何も出来なかった無力感。

それ故に、
悪の組織のボスの父ウェンウーに師事し、
その命令で殺人を犯すという罪悪感。

その結果、
彼の帰りを待つ妹を残し、
放蕩するという責任放棄。

 

人生において、
何が原因で「勝ち組」と「負け組」に分かれる事になるのか?

それは、
他人の意見など、結局は無意味であり、
畢竟、
自己肯定感に他ならないのです。

 

その意味で、
シャン・チーは、
自分の名前を捨てるという事で、
過去から逃げ出したのであり、

それでいて、
元の名前と似た偽名を採用したのは、

過去に未練がある、
過去に、自分を見つけて欲しいと、
無意識下では思っているからなのかもしれません。

 

母の死の為に、
父の支配下に入り、
しかし、
その人生に嫌気が差し逃げ出す。

故に、
シャン・チーは、
父を超える為に、
父と対決しなければならないのです。

 

『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でミサトさんが
息子が父親に出来る事は、肩を叩く事か、殺す事だけよ」と言っていました、
受け売りだけどね。

つまり本作においては、
息子が父を殺さねばならず

それが、
過去の罪と罰に対する清算と贖罪に繋がり、
そこから、
シャン・チーのモラトリアムは終わり、
自分の人生を始める事が出来るのです。

 

本作は、言ってしまえば、
そういうダメ人間の更生を描いている作品であり、

それを、
完成度の高い、
異世界ファンタジー風のアクションに仕上げている所に面白さがあるのです。

正に、
『烈海王は異世界転生しても一向に構わん!』って感じです。

 

  • 「面白さ」のフランチャイズ化

完成度の高い『シャン・チー/テン・リングスの伝説』。

老若男女、誰が、どんな時に観ても面白い作品です。

 

…しかし、

清く、正しく、
楽しくて、
いつも、完成度の高い作品、

そういう作品、本当に観たいのか?

 

本作は、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」に一区切りがついた、

その一発目の作品。

今までのシリーズと、
何か、違うものを観せてくれるものかと、
内心、期待している所がありました。

 

しかし、
何も変わっていなっかった、
いつもの「マーベル・シネマティック・ユニバース」。

大将、いつもの!!

みたいな感じです。

 

人は、ヨクバリス。

例えそれが、
レベルの高い完成度を誇る面白い作品であっても、
いつも同じモノを観ていると、
「飽き」が来てしまうのです。

 

それなら、
「DC」作品でも観れば良いじゃないって、
デッドプールなら言いそうですが、

「マーベル・シネマティック・ユニバース」は、

作品の統一感の求め方がキチンと徹底している為に、

この頃の作品は、
ガワだけが違って、
観た後味が、
全て似通った感じになってしまっている様に感じます。

謂わば、
作品のフランチャイズ化
まるで、マクドナルドの様になっているのです。

何時、何処で食べても、
手軽に面白いマクドナルド、みたいな。

 

本作でも、
例えば、無駄にグロい、残酷な描写は避けられています。

例えば、
シャン・チーの母親のリーが死ぬシーンをカットしていたり、
また、
シャン・チーは、その仇を討ったと言いますが、
それも、言及するだけで、シーン自体存在していません。

残酷さを排除していますが、
それは一方で、
観る側が、シャン・チーの「罪の意識」を共有しにくくなるという部分もあります。

普通の映画なら、
そのあたりのシーンを入れる事もあるでしょうが、
本作の場合、
配給元のディズニーのチェックが入って、
家族での鑑賞に耐えうる内容に合致させられているのだと思われます。

 

「マーベル・シネマティック・ユニバース」シリーズに対する忖度、
配給元に対する忖度、

これらが、
作品毎、
監督毎、
俳優毎の独自色を薄めているのです。

シリーズの、
確固とした世界観を構築する為には、
しかたの無い事ですが、

その一方、この頃は作品の独自性を犠牲にしていると、
私は感じますね。

 

しかし、その辺りの、

「マーベル・シネマティック・ユニバース」の様に、
シリーズの統一した世界観を守り、
壮大な物語の拡がりを作るか、

「DCエクステンディッド・ユニバース」の様に、
混沌とした作品群で、特化した面白さを追求するか、

結局は、作り手側の戦略と選択になるのだと思います。

 

 

確かに、完成度が高く、面白い作品である、
『シャン・チー/テン・リングスの伝説』。

正に、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の模範の様な作品であるが故に、

逆に、
既視感があるという問題もあり。

今後のシリーズの分岐点となるのか?

色々な意味で、
注目作であると言えます。

 

 

因みに、
本作のラストでカメオ出演した
キャロル・ダンヴァース/キャプテン・マーベル役のブリー・ラーソン

彼女は、
本作の監督、デスティン・ダニエル・クレットンの作品の常連であり、
(『ショート・ターム』『ガラスの城の約束』『黒い司法 0%からの奇跡』)

それで、本作でもチョイ役で出ているんですね。

 

 

 

 

 

スポンサーリンク