映画『ダンケルク』感想  リアリティとスケールの追求!!

 

 

 

第二次世界大戦時、1940年、フランス、ダンケルク港。フランスに派遣されていたイギリス陸軍(BEF)他、連合軍はドイツ軍に包囲され撤退を余儀なくされた。追い込まれたBEFは海から逃げる為ダンケルク港へ集まるが、海岸は遠浅で波が荒く、撤退は困難だった、、、

 

 

 

 

監督はクリストファー・ノーラン
当代随一の映画監督としてその名を馳せている。
監督作に
『フォロウィング』(1998)
『メメント』(2000)
『インソムニア』(2002)
バットマン ビギンズ』(2005)
『プレステージ』(2006)
ダークナイト』(2008)
『インセプション』(2010)
ダークナイト ライジング』(2012)
『インターステラー』(2014)

 

主演は本作が映画初出演のフィン・ホワイトヘッド
他、メインキャストのトム・グリン=カーニーやハリー・スタイルズも本作が映画デビューである。

共演に、ジャック・ロウデン、キリアン・マーフィー、ケネス・ブラナー、マーク・ライアンス、トム・ハーディー等。

 

あの、クリストファー・ノーランが戦争の実録映画を撮る。

トレーラーをひっくり返し、
ビルを爆破し、
飛行機を輪切りにし、
実際に成層圏から地球を撮影した監督である。

そう、見所はCGを使わずに

映画でどこまで「実写」を追求できるのか?

 

という事である。

そして、『ダンケルク』は戦時を描写しているが、戦争の交戦を描く映画ではない。

困難にあたっても生き延びる、

 

その気概を意味する「ダンケルク・スピリット」を表わした映画である。

戦争映画に付きものの残酷描写は無い。
ヒューマニティーの押し付けも無い。
あるのは生き延びようとする人間と、それを助ける人間の物語である。

いろんな人が観て、それぞれいろんな事を感じて欲しい作品だ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 視点を固定した戦争映画

『ダンケルク』は戦時を扱った映画であるが、過去の戦争映画の名作『プラトーン』や『プライベートライアン』とはそのテーマが明確に異なっている。

戦時を扱っているが、戦争の交戦を描かないのだ。

戦争映画をいえば、
その悲惨で苛酷な状況の中で、人間性の崇高さとそれに比した堕落を描いている事が多い。

よって、戦争という非日常の中で、主人公とその周囲の状況を描き群像劇の様相を呈する。

しかし、本作『ダンケルク』では、その視点はごく個人的なものになっている。

戦況や戦時の人間性、そういう戦争状態から抜け出す為に、目の前にある目的「生き残る」という事だけに集中した視点になっている。
その、個人視点を3つ並べたいるのだ。

『ダンケルク』の視点は、
生き残りに必死な若き陸軍兵のトミー、
そして
兵を救出しようとする個人船の視点、
撤退する軍をサポートする空軍兵の視点、
この3つの視点でそれぞれのサバイバルを描いている。

 

  • 複雑なものを、分かり易く

ダンケルクの防波堤での1週間
兵を救出に向かう個人船の1日
撤退する兵を護衛する飛行機乗りの1時間

これら3つの視点が時間軸を飛び越え、交差して描かれる

しかし、驚異的なのは、この錯綜する視点に混乱しない事である。

最初は何も考えずに観ている。
それが、ストーリーが進むにつれ、「あ、時間がズレてた」という事に気付く。
しかし、そこで混乱が起きないのだ。

何故なら、時間がズレていると気付いた時には、その3つの視点の時間がほぼ同期しているからなのだ。

また、視点と時間が錯綜していても、視点毎の時間の流れる方向は常に一定なので、余計な混乱を防いでいる。

この「複雑な設定をしておいて、構成によって分かり易く観せる」とうのはノーラン映画でよく見られる。

『メメント』のさかのぼるストーリー。
『インセプション』の多重の夢。
『インターステラー』の多重世界。

そして『ダンケルク』でも、難しいものを分かり易く描いている。

 

  • 実写に拘るスケールの大きさ

映画監督は名実ともに評価されると、大金をつぎ込んだスケールの大きな物を撮ろうとする。

ノーラン監督にとっては、本作『ダンケルク』こそがそれだろう。

そして、ノーラン監督と言えば、CGを極力使わず、実写に拘った映画作りがその特徴である。

『ダークナイト』ではトレーラーをひっくり返し、ビルを爆破。
『インセプション』では回転する廊下をセットで作り、実際に回す。
『ダークナイト ライジング』では輪切りにした飛行機を飛ばし、
『インターステラー』では地球をIMAXカメラで撮る為に成層圏まで飛ばす。

兎に角、リアリティに拘る映画作りがノーラン監督の持ち味である。

本作でもその拘りが遺憾なく発揮される。

まず冒頭のシーン。
浜辺に出ると、そこには、人、人、人の行列。
実際のフランス、ダンケルクにおいて撮影している。

あの泡が押し寄せる不気味な浜辺は本物ならではである。

そして、ダンケルクの防波堤。
既存部分の180メートルに、映画撮影の為に150メートル実際に付け足して建造している。

史実にもあるが、「置いて行かざるを得ないジープを使って遠浅の浜に臨時堤防を作る」事もやってのける。

さらに、実際に当時の「スピットファイア」を3機を飛ばす。

確認はしていないが、船も実際沈めているのでは?

浜辺、海、空、見渡す限り広がる水平線にて本物の映像が撮られている。

実際の面白さもさる事ながら、「これをどうやって撮影しているのだろうか?」「これは実写であるのか?」そういったメタ目線で観るのもノーラン監督作品の面白さである

 

  • 効果音と音楽の迫力

本作『ダンケルク』は音にも迫力がある。

そして、終始背景に不安を煽る様な音楽が流れている

戦争映画では、戦場の迫力ある音、戦車や飛び交う銃撃戦の音がフューチャーされる。

しかし、『ダンケルク』はそういう場面は無い。

あるのは、
不意に訪れる銃弾の着弾音。
遠くから飛来する爆撃機のエンジン音。
落下する爆弾の風切り音。

これら見えない所から急襲してくる死の足音だけである。

だが、それだけでは無い。
何も起こっていなくても、絶えず音楽が流れ、それが不安を途切れさせない。

不意に襲ってくる死の恐怖、その緊張感を音楽によって観客に持続させているのだ。

ここぞという時に効果的に使うのでは無い。
常に流す事によって緊張を強いるという、こういう音楽の使い方もあるのだ。

そして、その音楽を作ったのはハンス・ジマー。
最早、映画音楽の巨匠と言える。

 

 

戦争という対局的な事象において、ごく個人的な目線まで下ろした視点を提起。

3つの視点を時間をずらして、しかし分かり易く観せる構成力。

しかし、本作『ダンケルク』の一番の魅力は、その実写のスケール感であるだろう。

映画はここまでものを創造出来ると実証してみせた大作である。

 

 

 

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さて、次回はノーラン監督の代表作を語ってみたい。
まずは『バットマン ビギンズ』である。