映画『花戦さ』感想 上司の立場VS部下の一分!!

 

 

 

時は16世紀。花を愛する池坊専好(いけのぼうせんこう)は師の代理で織田信長に花をいける。その信長に「天晴れ」と言わしめた専好はその後、執行(しぎょう:住職の事)となり六角堂の中心人物となる、、、

 

 

 

監督は篠原哲雄。『はつ恋』(2000)『起終点駅 ターミナル』(2015)等。

主演、野村萬斎はご存じ狂言師。映画俳優としても『陰陽師』(2001)『のぼうの城』(2012)『シン・ゴジラ』(2016)等、活躍している。

共演に市川猿之助、佐藤浩市、高橋克実、等そうそうたる顔触れだ。
私が観た劇場では、兎に角マダム人気が凄い印象だった。観客の8割がマダムだ。

そして本作で描かれるのは安土桃山時代を舞台にした

上司と部下の関係である。

 

上司は部下とどう接するか。
部下は上司にどう仕えるか。
現代にも通ずる永遠のテーマである。

 

以下ネタバレあり


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  • 部下たるはどう仕えるべきか?

本作『花戦さ』において上司とは豊臣秀吉(市川猿之助)、部下とは千利休(佐藤浩市)と町衆である。

まず、印象深いシーンが秀吉が利休に金の茶室を作るよう命令するシーンだ。
一旦は断るものの、秀吉の度重なる要請で受ける事になる。「誠心誠意をもって仕えさせて頂きます。」という様な事を利休は秀吉に言う。そして、その時の目。これが凄い。土下座からスッと顔を上げた時の利休の眼差しには、何か訴えるものがあった。
しかし、秀吉はそれを敢えて無視する。

さて、「仕える」と言った利休のだが、その行動ことごとくが秀吉のカンに障る。金の茶室で黒の碗を出す。詫びを入れろと言われても固辞する。
秀吉からすると己に対する反逆なのだが、しかしこれが利休流の「仕え方」なのだ。

部下が上司に意見を述べるのは難しい。ましては、諫める時はなおさらだ。言葉で伝えると反感を買うし、手紙だと真意が伝わらない部分が出てくる。

利休の場合はその行動を以て秀吉を諫める。直接的なものでは無く、秀吉自身がそれに気付く事を願い行動に意味を込める。
天下人となった秀吉に意見する者なぞ最早存在しない。しかし、利休は敢えてそれをやる。それこそが、利休が秀吉に「仕える」という意味なのだ。

  • 上司たるはどうすべきか?

しかし、その思いは秀吉には届かない。真意は伝わらず、その表面的な見かけのみで判断してしまう。

上司とは孤独なものだ。その地位が高く、権勢が強ければなおさらだ。
立ち回りの上手い部下はそこにつけ込み、阿諛追従を以て仕える。しかし、自分の気持ちが良いからと言ってそんなおべっかヤロウばかり回りに侍らすと碌な事にならない。

最善策よりご機嫌取りの上司の希望を汲んだ意見しか言わないし、上司の方しか向いていないおべっかヤロウはその分部下に苛烈にあたる。しかし、自分にゴマをする者には甘いので、おべっかヤロウはおべっかヤロウを取り立てる。
自分と同じ相手なら、扱い方も心得ているし、自分の地位を脅かす事も無い。斯くしてゴマすりの連鎖が出来上がる。

しかし、この状態になると下に行くほど負担が大きくなり、それが積み重なると離脱や反旗につながってしまう。結局屋台骨が崩壊し、組織・会社の地力が低下してしまうのだ。

利休は口うるさい役を秀吉に対して演じる。この上司を諫める役こそが、利休が自分に課した秀吉に対する仕え方であった。

だから、専好(野村萬斎)にした様な温かい対応が出来なかった。「諫める」という行為に、温かさよりある種の厳しさを選択したからだ。
専好は言う、「おもてなしの心を持って、包み込めば宜しかろう」と。利休もそれがベストだと気付くが、時既に遅く、彼には彼流の方法を貫くより道がなかった。

ここに悲劇があった。上司に訴えるとしてもその性格に合ったやり方にすべきだし、上司の方も傲慢にならずに相手の事を慮りその言に耳を傾けなければならなかった。

  • ちょっと言わせて!

利休の真意は伝わらず、それどころかさらに苛烈な仕置きを町衆に行う原因の一つにされてしまう。

しかし、この町衆がちょっと不用意過ぎた。

まず、子供といえど支配者を猿呼ばわりするのはどうかと思う。
子供は親の言う事を真似し、その場のノリに敏感に反応して面白い事を言おうとする。
しかしそれにも限度がある。あの晒された子供は明らかに自分の意思で秀吉を侮辱していた。それに対し、大人は笑いで応えず、支配者の恐ろしさを教えるべきだったのだ。

人の影口を叩くのは楽しいかもしれない。しかし、それをやくたいもない子供の時分から行うことは避けるべきだった。

これは、ある種の教訓だし演出だ。しかし、そう分かっていても、猿猿と人を侮辱して喜んでいるを何度も観せられるのは気持ちの良いものではなかった。

  • 見た目が似ていない猿之助

この猿呼ばわりだが、秀吉役の市川猿之助氏は全く猿に似ていない。
しかし、演技力があるし、「秀吉は猿に似ていた」という共通認識があらかじめあるので、役者の見た目に拘る事も無い。

この暗黙の了解を使って自由にキャスティングしている開き直りが面白い。

そして、市川猿之助氏は2度目の秀吉役だという。その名前が役を呼び寄せたのかも知れない。

 

 

部下はどう諫言すべきか?
上司はどれだけ注意深く人の意見を聞けるか?
感情が伴えば尚のこと難しい。いずれの立場でも相手を慮るのが肝要なのだ。

U-NEXT

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さて、次回は言いたいことがけっこうある映画『ドクター・ストレンジ』について語りたい。