半年前に妻を亡くしたベンジャミン・ミー。7歳の娘はしっかりしているが、14歳の息子共々、自身も愛する人の喪失の痛手より立ち直れずにいた。問題行動を起こした息子の退学を契機に、ベンジャミンは引っ越しを決意。そこは、閉館中の動物園だった、、、
監督はキャメロン・クロウ。
女性っぽい名前だが男性である。
小説の『初体験/リッジモント・ハイ』がベストセラーとなり映画化、その際脚本を担当し映画の世界へと足を踏み入れる。
主な監督作品に
『ザ・エージェント』(1996)
『あの頃のペニー・レインと』(2000)
『バニラ・スカイ』(2001)等がある。
主演のベンジャミン・ミー役にマット・デイモン。
仕事が途切れない人気俳優だ。
主な出演作に
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)
『プライベート・ライアン』(1998)
『オーシャンズ11』(2001)
『ボーン・アイデンティティー』(2002)
『インビクタス/負けざる者たち』(2009)
『エリジウム』(2013)
『インターステラー』(2014)
『オデッセイ』(2015)等がある。
他、共演にスカーレット・ヨハンソン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、エル・ファニング等。
本作は実在の人物である、ベンジャミン・ミーの『幸せへのキセキ(原題:We Bought a Zoo)』を基に脚本を書いた映画化作品。
いわゆる実話系の作品である。
本作、映画の『幸せへのキセキ』で傷心のベンジャミン・ミーは
何を思ったか動物園を購入(家付き)。
閉館中だった園を立て直し、開園を目指そうとする。
新聞の人気コラムニストだったがそれを辞め、全くの異業種に乗り出すのだ。
新しい事をやり出すには、様々な困難がある。
そういうチャレンジや冒険の様子を描きつつ、本作でメインのテーマとなっているのは、
人と人との繋がり、
そして悲しみから立ち直る過程である。
愛する家族を喪った悲しみ、
その辛い思いを乗り越え、新しい人生を歩み出そうとする。
その様子を爽やかに描いたヒューマンドラマである。
ストレスの多い世の中で生きているからこそ、
本作『幸せへのキセキ』の様に奇を衒わない、ストレートなドラマにこそ面白さを感じる。
明日から、また頑張って生きて行こうと思えてくる作品である。
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『幸せへのキセキ』のポイント
人と人との繋がりの大切さ
喪失の哀しみからの再生
「20秒の勇気」を出してみよう
以下、内容に触れた感想となっております
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日本語題
本作『幸せへのキセキ』の原題は『We Bought a Zoo』。
「動物園買っちゃった」とでも訳そうか。
この味も素っ気も無い題名を、邦題の『幸せへのキセキ』に変えたのはなかなか面白い。
この片仮名の「キセキ」には「奇蹟」という意味合いも含めつつ、
テーマである「哀しみからの再生」という意味を持たせた「軌跡」という言葉とのダブルミーニングとなっている。
なかなか洒落た題名である。
*以下、ネタバレ多めの解説となっております。
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哀しみを忘れる為の逃避
ベンジャミン・ミーは半年前に亡くなった妻が忘れられず、町の何処に行っても妻との思い出にぶつかり楽しむ事が出来ない。
また、息子は息子で、万引きなどの問題行動を繰り返し、その描く絵も断首や不気味な妖怪など問題がありありと見られる。
息子が退学になったのを契機に、ベンジャミン・ミーは心機一転せんと引っ越しを計画。
一目惚れした優良物件がなんと動物園付きだった。
ベンジャミン・ミーは閉鎖中の動物園を再開しようと奮闘し、新しい事にチャレンジする。
だがそれは結局、彼にとっては哀しみから逃れる為の逃避であった。
一方息子のディラン・ミーはマイペース。
むしろ、無理矢理気味に郊外に連れて来られたのが若干気に入らず、手伝いもせずに一人絵ばかり描いている。
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虎のスパー
本作『幸せへのキセキ』でキーとなるキャラクターは、17歳の老いた虎のスパーである。
スパーは老齢で食欲も無く、水も飲まず、登った岩の上から降りられない位消耗している。
飼育係のケリーは見るに忍びず、これ以上苦しみを長引かせるより安楽死を選択する様にベンジャミンに提言する。
しかし、ベンジャミンはそれを拒否。
彼は死に直面しているスパーに妻の影を重ねており、少しでも生き長らえて欲しいと願っているのだ。
だがそれも、彼の勝手な願いなのかもしれない。
妻を喪った故に、スパーを手放す決心が付かず、
しかし、妻との思い出と直面出来ないのと同じように、スパーの現状を正しく直面(理解)出来ていない。
そしてそれは、息子のディランとの関わりにおいても同じであった。
ベンジャミンは息子の拗ねた態度が気に入らず、環境を受け入れないディランを責める。
だが、ディランからするとそれは、彼の気持ちを省みない独りよがりの押し付けに過ぎず、横暴でしか無い。
息子の本音を聞き、ベンジャミンは気付く。
自分は妻の死後、事態に直面するのを避けていたという事に。
寝ている息子のスケッチブックを覗き見るベンジャミン。
相変わらず不気味な絵ばかりだが、その中にスパーの絵が混じっている。
暗い、見たくない様なものの中でも、実は気付いて見てみたら素晴らしいものがあったのだ。
ベンジャミンは妻の写真を見ることすら避けていた。
哀しみに押しつぶされるかと思ったベンジャミン。
しかし写真を見たベンジャミンを包んだのは、優しく温かい思い出であった。
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新しい出発
ベンジャミンはスパーを安楽死させると決意する。
彼を手放す決心をするがしかし、
一方で忘れようとしていた妻との思い出は、掛け替えのないものとしてそれを受け入れる事が出来た。
ベンジャミンは子供達に妻との出会いを語る。
哀しみに囚われ、それを忘れるよりも、
伝えられる美しいものを教えて行こうとするのだ。
初対面の妻との初めての会話。
勇気が要るのは、最初の20秒。
この20秒で恥をかく勇気を出せれば、人生はよりよく拓けて行けるのだと。
愛する配偶者や、親、子、を喪うのは哀しい。
しかし、それはきっと乗り越えられる。
その契機となるのは新しい環境と本音で語り合う勇気。
それを与えてくれるのは、人との関わりなのだ。
ストレートに、恥ずかしがる事なくドラマを見せてくれる『幸せへのキセキ』。
新しい事をやる時、
勇気が出ない時、
気分が落ち込んだ時、
そんな時に一歩踏み出す後押しをしてくれる優しげな作品である。
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さて次回は、孤高の戦士でも仲間<カ・テット>は大事、小説『ダーク・タワーⅢ 荒地』について語りたい。