幻想・怪奇小説『誰かの家』三津田信三(著)感想  怪談の入れ子構造

 

 

 

S地方のTという山を縦走している時、最後尾の同僚が何かに怯える様な素振りを見せる。何かが、ついてきている!?とは言え、無事に下山しキャンプ場で知り合った3人組と食事を囲むと、酒盛りの流れで怪談を各自語る事になったのだが、、、

 

 

 

 

著者は三津田信三
ミステリとホラーの融合を目指すという。
代表作に
『忌館 ホラー作家の棲む家』
『厭魅の如き憑くもの』
『禍家』
『赫眼』
『十三の呪 死相学探偵1』等。

 

本作『誰かの家』は

怪談風ホラー短篇集。

 

全6篇の短篇が怪談形式で描写されています。

とは言え、著者はミステリをものにする三津田信三。

一筋縄では行きません。

一つの話に、怪談が入れ子構造になっています。

 

いわゆる「メタ構造」というヤツですが、ご安心を。

「恐怖を盛り上げる演出」として使用されているものなので、ただ読むだけでも十分「怪談の恐さ」を堪能出来ます。

その一方で、

何故、この様な話の「作り」になっているのか?
という事を解き明かす(想像する)面白さもあります。

 

これはミステリ的な楽しみですね。

怪談を楽しむホラー部分、
話の構成に唸るミステリ部分、

このどちらも面白いのが、三津田作品の特徴です。

今回は短篇という事で、その持ち味を気軽に楽しめます。

ファンも、新規も、等しく楽しめる、
いや、怖がる事が出来る、それが本書『誰かの家』であるのです。

 

 

  • 『誰かの家』のポイント

実録怪談風ホラー

メタ構造のミステリ

たまに挙げられるマニアックな書籍や映画の数々

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 収録作解説

まず、収録作の解説を簡単にやってみます。

全6篇の実話怪談風の短篇集です。

 

つれていくもの
怪談の多層構造になっています。

物語中の物語として、「高木の体験談」が面白く読めますが、
その物語から浮き上がった物語部分において、オチが待っているという構造。

物語中物語(高木の体験談)のオチ
→物語のオチ(成瀬と樹莉の失踪)の二段構えです。

物語中、一歩下に降りて(高木の体験談)、
再び登って元に戻った部分にも恐怖が待っているという感覚は、
恐怖が読書をしている我々の方向に浮き上がって来る感覚があり、より怖気を震わせられます。

あとあとさん
解説にも書かれていますが、
「簡単に済ますつもりが、長くなり過ぎた(p.64より抜粋)」の一言にまずツッコミが入ります。
長ぇよ、と。

しかし、この前置きがある事で、
物語の構造の奥行きが増しています。

「つれていくもの」同様に、
物語中の体験談(やなかさんの話)
→物語のオチ(やなかさん自身の存在の不気味さ)
二段オチで恐怖の浮き上がりがあります。

さらにこの「あとあとさん」は、
メインのストーリーラインを補強する形で前置きが並置される事で、
物語に奥行きと広がり、つまり恐怖が拡散する感覚を得ます。

複数人が認識する漠然とした不安」に
「確とした概念、名前」を与え、それを共有する事が、
恐怖(怪談)の確立になるという例が三つ並んでいる、とも言えます。

ドールハウスの怪
物語中の体験談、という三津田信三お得意の形式の作品。

さらに、少年の頃の思い出、というホラー・ジュブナイルと言える作風も、三津田作品にて度々見られるモチーフです。

「恐怖の予告状」みたいな構成が、嫌が応にも盛り上げます。

湯治場の客
珍しく、体験談風のストレートな語り。
むしろ、ちょっとコミカルな印象すら漂います。

ストーカーの夫につきまとわれている、という設定ですが、
端から見ると「僕」の行動も十分ストーカー的なのが笑えます。

御塚様参り
人を呪わば、穴二つ(掘れ)。

御塚様に参る道行きで動物(?)が次々と現われる展開はファンタジー的ですが、
「呪い」がモチーフだと頭にあると、恐怖の権化に見えるのが面白いです。

この話はむしろ、呪いを掛けている方が、
実は、代々御塚様に取り憑かれているのではないか?
というオチにゾッとさせられます。

誰かの家
この作品も、物語中の体験談。

意味不明なものに追いかけられるという悪夢を見た事ある人も多いと思います。
理屈抜きで、それを具現化したのが本作ですね。

ゲーム『サイレントヒル2』に出てくるバブルヘッドナースを想起させます。

 

  • 物語中物語

『誰かの家』の収録作を見てみると、明らかな特徴があります。

それは、「物語中物語」という形式です。

この、物語の多重構造がメタ構造を成す事が、
短篇、長篇問わず、三津田作品の大きな特徴の一つです。

有名な作品で言うと、
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談』の、「むじな」の話があり、
三津田作品の物語中物語も、この作品に通ずるものがあります。

(「むじな」のあらすじを簡単に解説すると、のっぺらぼうに出会ってビビった人が、屋台のオヤジにその事を話したら、屋台のオヤジものっぺらぼうだった、というオチの話)

本作の収録作で言うと、
「湯治場の客」以外は全て物語中物語の多重構造になっています。

特に、「つれていくもの」と「あとあとさん」にその特徴が顕著に見られます。

個別解説の部分でも述べましたが、

物語
→物語中物語
→物語

という形で、一旦物語のステージを降りて恐怖(オチ)を体験した後、
再び登った時に、そのステージにも恐怖(オチ)が浸食していると気付いた時

その物語を読んでいる私達自身の現実をも揺らがせる恐怖が身近に浮上してくる感覚があります。

つまり、

「物語」
→「物語中物語」の恐怖
→「物語」も危うい場所だった
→それを読んでいる「現実の我々」も恐怖を感じる

といった感じです。

これを意図して作っているメタ構造が面白いんですね。

 

  • マニアック作品紹介

三津田信三作品を読む時の楽しみの一つに、
今まで聞いたことも無い様なマニアックな小説や映画作品の紹介が挿入される部分もあります。

浅井了意の『伽婢子』の「人面瘡」(p.197)、
谷崎潤一郎の『人面疽』(p.198)
辺りは読んだ事が無くても知ってはいますが、

W・F・ハーヴィー「旅行時計」(p.187)
ロイ・ヴィカーズ「八番目の明かり」(p.187)
『ブラッド・エイプリル・フール』(p.290)
『ROT/ロット 惨劇の同窓会』(p.290)
等は名前すら聞いた事がありません。

こういう作品をチェックして、折を見て読んだり観たりするのも、面白い発見があり、
三津田作品の楽しみ方の一つだと思います。

 

 

本書『誰かの家』は、
素直に二段オチのホラー作品として楽しめますし、
ミステリ的に物語構造の面白さに着目する楽しみ方もあります。

スラッと読めるのに、
色々考える事がある、
誰が読んでも面白い作品、それが『誰かの家』と言えるのです。

 

著者の短篇集、こちらもオススメ

 


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さて次回は、読んで感じるものは怒り!!小説『日本SF傑作選4 平井和正』について語りたいです。