カフェ「ドゥ・マゴ」にてお茶していた岸辺露伴は、同業者の漫画家、志士十五に出会う。その十五は新しい担当編集から、漫画で使用禁止の単語の「禁句集」を渡され立腹しているが、その中に「くしゃがら」というものがあって、、、
原作者・荒木飛呂彦の漫画、
『ジョジョの奇妙な冒険』のスピンオフ作品、
『岸辺露伴は動かない』からインスピレーションを受けた小説作品集、
それが『岸辺露伴は叫ばない』です。
著者は
北國ばらっど、
吉上亮、
宮本深礼、
維羽裕介、
の五人による、全五篇の短篇集です。
本ブログでも先日、
『岸辺露伴は戯れない』を紹介しましたが、
発売日は本書の方が本来は先。
しかし、
読み切りの短篇集なので、
前後しても全く問題ありません。
そして、内容は、
怪奇小説短篇集。
『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画が原作ですが、
それを知らなくとも、
怪奇小説的なアイデアの部分の面白さが秀逸で、
その部分だけでも楽しむ事が出来ます。
しかし、やはり、
岸辺露伴という漫画家が、
「スタンド能力」という超能力を使える、
という前知識があった方が、より楽しめるのは事実。
漫画原作ありのコラボ小説は多々ありますが、
偶に原作無視のクソ面白く無い作品もあります。
その点、本作は、
漫画の雰囲気を再現する事にも忠実ですので、
原作ファンも安心の出来です。
漫画原作付きの短篇小説としても面白い。
怪奇小説としての短篇としても、そのアイデア部分が面白い。
執筆者は超有名とは言えない方達ですが、
いずれの作品も粒ぞろい。
オムニバスのアンソロジー小説としても面白いという、
企画モノとしては珍しいクオリティ、
『岸辺露伴は叫ばない』は読んで損のない作品集です。
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『岸辺露伴は叫ばない』のポイント
原作漫画の雰囲気を忠実再現
短篇怪奇小説としてのアイデア部分も面白い
岸辺露伴の能力と「小説」の親和性
以下、内容に触れた感想となっております
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「ヘブンズ・ドアー」と「小説」
先日読んだ『岸辺露伴は動かない』のスピンオフ小説
『岸辺露伴は戯れない』が面白かったので、
その第一弾である本作『岸辺露伴は叫ばない』も読んでみました。
これまた面白い。
ちゃんと、原作を意識しており、
さらに、怪奇短篇小説としてのアイデア部分も面白いというのが素晴らしいですね。
さて、
岸辺露伴のスタンド「ヘブンズ・ドアー」には、
「相手を本にして、その経歴を読み取る」という能力があります。
本作を読んで気付いたのですが、
その能力が、
「小説」という文を読む行為と非常に相性が良いですね。
例えば、p.176からの場面。
何となく危険を感じながら、
好奇心には抗えず、
他人の記憶を読むシーンがあります。
ここの心境は正に、
主人公の岸辺露伴と読者の心境がシンクロする部分。
岸辺露伴はどうしても記憶を読み進める行為を止める事が、
そして読者は、小説を読むのを止める事が出来ません。
この、「相手を本にする」という能力が、
漫画以上に小説という形式と親和性のある、
今回、その事を実感出来たのは、嬉しい発見です。
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収録作品解説
それでは、収録作品を簡単に解説してみます。
著者4名による、全5篇の短篇集、
作品名(著者名)の順番です。
くしゃがら(北國ばらっど)
呪いの「禁句」がドンドン拡がって行く、
というのは、
古くからあるチェーンメール的なもので、
怪奇小説であれば、貞子で有名な『リング』を筆頭に鉄板のネタではあります。
この王道のネタに挑み、
それに「寄生虫」的なアイデアを付与したのが面白い所。
それに加えて、
志士十五のキャラクターも「ジョジョ」のモブっぽくて良いですね。
Blackstar.(吉上亮)
ネットの都市伝説を読んだ時の様な、
ゾッとする感じが面白い作品。
目的や因縁の無い怪異こそ、
理不尽な恐怖を呼び起こします。
「スパゲッティ・マン」という命名も言い得て妙な感じですね。
血栞塗(宮本深礼)
読むな読むなと言われたら、
やるなやるなと言われたら、
それに反発して是非ともやってみたくなる。
天邪鬼なのか、
それとも純粋な知識欲なのか?
純粋さと不純さの、
この二律背反したものを矛盾無く併せ持つからこそ、
岸部露伴をいうキャラクターは輝きます。
そのキャラクター性が如何無く発揮された作品と言えるでしょう。
検閲方程式(維羽裕介)
本作でも、
岸辺露伴の知識欲、好奇心が如何無く発揮された作品。
特に、
出歯亀的な側面もある、
「他人の記憶を読む」という行為。
この背徳的な行為が危険だと知りつつ、
露伴も読者も読むのを止められなくなる、
この作品と現実のシンクロ具合が素晴らしいです。
オカミサマ(北國ばらっど)
「この非常識人がぁ~」とか唸っている当の本人の行為がイカレているのが笑えます。
負債を先延ばししたら、
気付かぬ内に雪だるま式に巨大になっている。
借金はダメ、絶対。
と、思わせてくれますし、
嫌な事こそ、早めに片付けるべきなのでしょうね。
話の展開が、
いかにも「ジョジョっぽい」スピード感とミステリアスさに溢れています。
本作の収録作品に共通していることは、
「好奇心」。
作中でも「好奇心は猫をも殺す」と言われますが、
本作での岸辺露伴は、
その好奇心と創作意欲を決して手放しません。
絶体絶命の状況でも、
己の美意識を保つ、
この強情さも岸部露伴の代名詞。
面白い小説の途中で、
読書を止めろと言われても、
それは出来ない相談です。
好奇心を放棄するかって?
「だが、断る」と皆答えます。
読者は傍観者なれど、
しかし、
岸辺露伴の心境を、リアルに体感出来るからこそ、
本作の収録作品は面白いものとなっているのです。
原作の雰囲気を再現しつつ、
怪奇短篇小説としても面白い。
更には、
岸辺露伴の「ヘブンズ・ドアー」で相手の事を読むという行為と小説との親和性、
そして、好奇心を止められないという感じをリアルに味わえる読書感。
計算された面白さなのか?
怪奇小説短篇集としての面白さも素晴らしい、
企画モノとしては充分以上の満足度です。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
原作漫画作品はコチラ
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