幻想・怪奇小説『ボーダー 二つの世界』ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト(著)感想  此岸と彼岸の境界線を越える時、目醒める絶望と希望!!


税関で働くティーナは、人の不安や欺瞞を「嗅ぎ取る」能力の持ち主。百発百中の検挙率を誇り、世界中からオファーが来るが、現在は地元スウェーデンにて定職に就いていた。
ある日、容貌魁偉、明らかに隠し事をしている男が表われた。しかし、持ち物検査しても、何も出て来なかった。
男を解放したが、その時男はティーナに「また会おう」と言い、キスをする、、、

 

 

 

 

著者はヨン・アイヴェデ・リンドクヴィスト
スウェーデン出身。
他の著作に、『MORSEーモールスー』があり、
これは自身の脚本にて『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)として映画化され、世界中でヒットした。

 

 

ここ最近、
「北欧ミステリ」が流行り、
現在、数々のミステリ作品が翻訳されています。

本作はスウェーデンの作家、
ヨン・アイヴェデ・リンドクヴィストの作品。

これも大きな意味で、
北欧ミステリのカテゴリに入るのでしょう。

 

しかし、
「ハヤカワノベル」のカテゴリに入る本作、

実際に読んだ感じとしては、
幻想・怪奇小説。

ミステリというより、
カテゴリとしては、ファンタジー寄りだと思います。

そして著者は、
「スウェーデンのスティーヴン・キング」と称されているそうです。

成程、その異名は、言い得て妙。

超自然的な現象を題材にしつつ、
登場人物の心理描写を詳細に記す、

 

その意味で、確かにスティーヴン・キングに通ずるものがあります。

 

本作は短篇集。

原題、及び、英語訳における、題名は、
『Pappersvaggar』(英語訳:PAPER WALL)、
本書収録の「紙の壁」が表題作になっています。

対して、
日本語訳の本書は、
その表題作に「ボーダー 二つの世界」が選ばれています。

どちらも、
読めば、表題作に選ばれるのが、
「成程」と思わせる作品。

正に、本書のテーマを体現しているからです。

 

本書のテーマとは、
即ち、

境界との遭遇、
異界との接触。

 

此岸に生きる我々が、

ふと、何かの拍子に現われる、彼岸を見つけてしまう。

そこに触れるなり、
境界線を越えて、彼岸に行ってしまうなり、

本作では、
そういう「境界」と遭遇し、
「境界」に触れ、
「境界」ギリギリで葛藤する人間の様子を描くのです。

 

本作で描かれるのは、
超自然現象という、非日常。

そういう非日常に触れ、
選択を迫られた時、
人間の「本音」と「生の感情」が剥き出しになる。

それを発掘している、
『ボーダー 二つの世界』は、そういう作品と言えます。

 

 

 

  • 『ボーダー 二つの世界』のポイント

超自然現象に遭遇し、境界のスレスレで葛藤する人間の様子

詳細な内面描写

選択を受け入れるという事

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 収録作品解説

それでは、
簡単に収録作品を解説してみたいと思います。

本作は、
10篇の短篇と、1篇の中篇からなる作品集です。

因みに本書は、
「音楽が止むまであなとを抱いて」と「最終処理」のみ被っていますが、
それ以外の収録作品は、全て訳者が違います。

そういう意味で、
バリエーション豊かと言えるでしょう。

 

ボーダー 二つの世界
日本版の表題作であり、
著者自身が脚本を書き、映画化されました。

先頃、
「十二国記」の最新刊が刊行されましたが、
そのシリーズの「エピソードゼロ」と言える作品、『魔性の子』に雰囲気が似ています。

人は、満たされない「生」を過ごす時、
ここでは無い、何処かを憧れ、
今の自分は仮の姿であり、何時か、満たされる時が来る
そう信じて、
しかし、
実際には、そんな都合の良い事が起こるハズが無いと自覚しつつ、
日々、生きているのです。

しかし、
もし、今までの人生の全てを捨てれば、
変われるというのなら、
その変化を受け入れるのか?

結末へと至る、
その葛藤の心理描写が秀逸な作品です。

 

坂の上のアパートメント
ストレートなモンスターものであり、
ゴシックホラー的な展開であり、
そして、クトゥルフ神話みたいな雰囲気を持つ作品。

清く、正しく、面白い、
正統派のホラー作品と言えます。

 

Equinox
読みは、エクイノックス。
意味は、「彼岸の中日」。
つまり、死者が帰って来る日という意味ですね。

本作の主人公ヴェロニカは、
死体を冒瀆し、お人形遊びに興じる変態。

しかし、死体が動きだし、
喋り、
「お前も死んでいる」とか、『北斗の拳』のケンシロウみたいな事を言い出す始末。
ぱっと見、シュールなゾンビ的な作品なのですが、

しかし、
本作、もしかして、
全てヴェロニカの自作自演とも読める所に、
闇の深さを感じます。

 

見えない! 存在しない!
漫画『バキ』の最凶死刑囚編にて、
死刑囚の一人ドリアンは、催眠術で加藤に幻覚を見せて、嵌めます。
加藤の見た幻覚とは、自分の都合の良い状況というもの。
本作で描かれる怪奇現象も、それと同じもの。

そんな本作にて描かれる教訓は、
好奇心は猫をも殺す

まぁ、ぶっちゃけ、
美味い話は何処にも無いって事です。

 

臨時教員
独特な読み味のある、ジュブナイル・ホラー。

幼少時の思い出を、現在、冷静に考えてみると、
妙な違和感が混じっているというのは、
誰しも、一つや二つは、あるのではないでしょうか。

なんとなく、
映画『ゼイリブ』みたいな終わり方が不気味。

 

エターナル/ラブ
個人的に、本書の白眉。

「結婚」というものを語りながら、
当初は、どちらかというとアンナ目線で、マリッジブルーを語っています。
しかし、途中から、
臨死体験を経て、変な悟りの境地に達してしまったヨーセフに引きずられて、
猟奇的な事件を二人は起こし、
関係が破局してしまいます。

本作にて描かれている通り、
「愛」と「結婚」は、別物
自分が体験した事、思い至った事が、
結婚したからといって、
必ずしも、相手と共有出来る訳ではないのです。

ヨーセフは、
死を克服する=永遠を生きる事が、
愛を永らえる事と同意だと、混同してしまったのです。
不死と愛は、同意ではありませんが、
手段(不死)が目的化してしまった為に、悲劇は起こったのです。

ラストが、
『ジョジョの奇妙な冒険』第二部のラストのカーズっぽくて、哀愁漂います。

 

古い夢は葬って
どうやら、作者の長篇『MORSEーモールスー』の後日談の様ですが、
本篇のみでも楽しめる作品となっております。

本書では、
自分の知らない世界に遭遇し、
人生の変わる主人公を、三人称にて描く作品が多いですが、
本作は、
その「自分の知らない世界」というものが、
「幸せな結婚生活」というのが、面白い所。

それぞれに夢はあるが、いったんその夢は置いておいて、ふたりの関係、ふたりの愛にエネルギーを注いでいる
(上記、p.353 より抜粋)

「エターナル/ラブ」では達成出来なかった「愛」が、
この作品にはあります。

 

音楽が止むまであなとを抱いて
短いながらも、意味不明が故に、なんとも不気味な作品。

最初、
これは、拷問者の一人称かと思いきや、
どうやら、拷問されている人間の自分語りの様な気がします。

…と、思っていましたが、
後書きを読んだ印象では、
「拷問されているキリストが、ユダに語りかけている」
という様なニュアンスの作品なのかな?
とも思いますが、
どうなんでしょう?

 

マイケン
老婦人の冗長な自分語りで、
まぁ、読んでいる時は「つまらんな」と、思ったのですが、
どんでん返しのある、
まるで、『ユージュアル・サスペクツ』(1995)の様なラスト

ババァ、やっぱりテロするんかい!!ってね。

普通に、何不自由無く暮らしていても、
チャレンジしなかった自分の人生が無駄だと感じた時、
その恨みを、外部に向けて発するという、傍迷惑な八つ当たりぶり。

結局、幸せとは、主観でしかないし、
事実をどう受け取るかは、客観と主観で、人それぞれ違うという事を描いて居ます。
そういう意味では、
黒澤明の『羅生門』(1950)も、彷彿とさせる作品です。

 

紙の壁
原書にて、タイトルロールとなった作品。
正しく、本書のテーマを体現しています。

境界は、「紙」という薄い膜であり、
そこを隔てて、異界と触れ合う作品。

異世界というものと、現実とは、
ほんの薄い膜での隔たりしかない、
自分が、その異世界に触れる時、
異世界の方も、同じく、こちらに触れているのです。

短いながらも、
少年が感じる「世界の捉え方」の描き方が、秀逸な作品。

 

最終処理
本書の一番長い作品であり、
本作のみ、中篇と言える分量があります。
そしてどうやら、
作者の未訳の長篇『Hanteringen av ododa』の後日談的な内容の様です。

ジャンルとしては、ゾンビもの。
世の中には、多くのゾンビ小説、映画、漫画がありますが、
まぁ、本作は、グロいだけで、
高校生が初めて書いた小説みたいなノリで、

ぶっちゃけ、面白く無い

主人公は、巻き込まれ型で、
自分の人生の境界線を越えてしまいます。

けれど、
フローラのスタンド能力とか、
敵のスタンド能力とかの意味が分からないので、
どうしても、入り込めませんでした。

 

 

私がホラー作品が好きなのは、

非日常に出会った時、
人の、真価が試される、
その窮極の状況において、
咄嗟の判断、瞬発力が試される、
その、人間性の描写が、面白いからです。

そして本書には、
どの作品にも、そのエッセンスが詰まっています。

 

自分のルーティンで生きていた日常が、
ふいに脅かされ、
まだ見ぬ世界が、突如、眼前に拡がる。

その時、
人は、境界を越えるのか?

窮極の選択を迫られた人間が、
どうして、そういう選択をするのかという、
その過程、心理の葛藤を詳細に描いているのが、
本書収録作の特徴と言えます。

 

だからこそ、
そこに共感し、もしくは、反発し、
読者の感情を喚起する、

本書『ボーダー 二つの世界』がエモーショナルなのは、
そういう理由だからであり、

故に、本書は、面白いのですね。

 

 

 


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