幻想・怪奇小説『夢に抱かれて見る闇は』岡部えつ(著)感想  弱き者、怠け者が陥る地獄!!リアル貧困ホラー!!

 

 

 

近所を根城にしている古鴉の鳴き声で目を覚ました真千子。壁を見ると、そこに骸骨が浮かんでいた。真千子は思う、これは15年前に分かれた博也なのだと、、、

 

 

 

 

著者は岡部えつ
本書収録の「枯骨の恋」にて、
2008年、第3回『幽』怪談文学賞短編部門<大賞>を受賞。
著作に
『残花繚乱』
『新宿遊女綺譚』等がある。

 

 

「幽」という雑誌があります。

怪談専門誌として異彩を放っていますが、

その「幽」が主催した怪談文学賞の受賞作が収録されている、『夢に抱かれて見る闇は』。

 

本書は元々「怪談」のレーベルだったとは思うのですが、
読んでみると

至極真っ当なホラー作品。

 

まぁ、
「怪談」と「ホラー」の区別は何だ!?

明確な線引きをするのは難しいですが、

要はホラー好きでも楽しめる短篇作品集となっていると言いたいのです。

 

さて、では本書で主に描かれているホラーとは何でしょうか?

それは、

女性の恨みつらみ
プラス
貧困ホラー!

 

とも言える物です。

 

ホラー作品なので、
ある種の超常現象が描かれてはいます。

しかし、それだけでは無いのが本書。

その超常現象部分よりむしろ、
それを支えるリアル部分の恐怖が際立っています。

 

他人に対する恨み辛みの根源、

登場人物本人が意識しない性格の悪さが、
読んでいる読者には透けて見えますが、

しかし、その感情は自分の中にもあるのも事実。

読んでいると、
自分の悪い部分も再確認させられるという、
なんとも始末の悪い読後感。

 

見も蓋もありませんが、
このリアルさに共感してしまう部分も確かにあり、そこがまた面白い所。

 

さらに登場人物は、いずれも貧困に喘いでいますが、
それを笑えないのが現在の日本。

明日は我が身のこの窮状

 

リアル過ぎてマジで怖いです。

 

身に津々と染み込んでいく、この恐怖。

普通だからこそ怖い、
確かに「怪談」的な「ホラー」作品、

それが『夢に抱かれて見る夢は』です。

 

 

  • 『夢に抱かれて見る夢は』のポイント

40代女子の恨み辛み

リアル貧困ホラー

第三者目線だから分かる、微妙な性格の悪さ

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 自分の事を書いた?作品

本書『夢に抱かれて見る闇は』は、
主に40代女性の目線により物語が語られています。

しかも、その目線は、
いわゆる幸せな、
もしくは平凡な、人生を送っている女性ではありません。

 

例えるならば、キリギリス

バブル時にイキッて遊びほうけた人間が、

現在、男も金も無く、

社会から爪弾きにされ、
ギリギリ最底辺を目前にして、
最後の足掻きみたいなものを見せる作品集です。

 

著者の岡部えつの生年が1964年。

恐らく、著者自身、
バブルの最盛期が青春と重なり、
その恩恵に与った最後の世代であろうと思われます。

「これ、もしかして、自分の事書いているんじゃ?」

そう、思わせる面白さがあります。

 

映画『スタンド・バイ・ミー』でも言っていましたね。

「書くことが無くなったら、自分の事を書けば良い」と。

著者自身の事が書かれた作品の面白さは、
独特の面白さがあります。

本書も、フィクションの形をとっていますが、

ある種の自伝的な小説では無いのか?

そこに、面白さがあるんですよね。

 

  • 弱い者が夕暮れ、さらに弱い者を叩く

『夢に抱かれて見る闇は』は、
その解説にて、面白い事が書いてありました。

解説を書いた門賀美央子氏いわく、

無自覚な悪人」を描いたのが本書の特徴だとの事です。

 

確かにそう、言われて見れば納得。

第三者である読者の目線から登場人物(主人公)を見れば、
正に明々白々。

自分の行動の打算を、
色々な言い訳で正当化している醜さ

これが本書における「ホラー要素」の一つなんですね。

まぁ、読む方は、そこにツッコむのが面白いんですけどね。

 

そしてまた、
本書にて特徴的に描写されるものは、
弱者のメンタリティ」なのだと私は思います。

 

いじめっ子といじめられっ子が居るとします。

いじめられる子が恨むのはいじめっ子、
その相手に恨みを返す。

そう考えるのは普通の精神ですね。

しかし、
苛められる事が常態となった人間にとって、

いじめっ子に逆らうという事自体が、思考の埒外にあります。

むしろ、
自分でも反撃できそうな人間、

つまり、
自分に同情の念を寄せる、
ある種の優しさを持った人間に対して恨みの念を送る事になります。

 

自分を虐げる相手、
現在自分より強い相手に反抗するより

自分でも勝てそうな相手、
そういう相手を見極めて、あらぬ恨みを八つ当たりするんですね。

 

よく言われる事に、

「傍観者の目線が、一番傷付けられる」
というフレーズがあります。

何故傷付くのか?

それは、いじめを受けている人間が、
傍観者の事を自分より下に見ているからなんですよね。

「お前はおれより下(俺でも勝てそう)なのに、偉そうにしやがって」
という発想ですね。

 

弱い奴が、
自分よりさらに弱そうな奴を狙ってマウントを取ろうとする、

この連鎖が、
世間や社会、学校をつまらないものにしているんですね。

 

精神的ヒエラルキーが低い人間同士が醜いマウントの取り合いに終始する

この身も蓋も無い事を描写している事も、本書の面白さであるのです。

 

  • 作品解説

では、本書収録作を簡単に解説してみます。

全8篇の短篇小説集です。

 

枯骨の恋
骸骨が部屋に居る!?
この異常な状況よりも、実は語り手である真千子の、おざなりな無責任感覚こそが一番怖いという。

読み進める内に明らかになるこの事実に引き込まれます。

 

翼をください
子は親に似る、
というのは、
幼少期に精神の箍を作るのは親だからです。

巡る因果の様に、
その所業が受け継がれて行く様子が哀しい作品です。

「翼が欲しい」という、その意に反して、
自由は無く、絡め取られているんですね。

 

アブレバチ
本書では最長の作品。

会社による苛めの描写と、
古い因習。
二つの別のものが寄り合わされる構成が面白い作品です。

娘を喪った人間と、
生活に困窮して藁にも縋る人間、

この二人の関わり、
ラストまで読んでから、再び読み返すと、
また違った印象を受ける作品です。

 

縁切り厠
家系に伝わるローカルな怪奇、
ミニマムな印象を受けますが、

自分にとっては特別な「自分の人生」をいうものを鑑みるに、
家族という括りによって見ると、昔から繰り返されている、
実はありふれた事象であると再確認させられます。

その家系で繰り返す不幸を、
「家系」という括りから外れ、
「神」として祀られているご先祖様が祓うというのが面白い作品です。

「神」が見せるのは、
主観に囚われた人間に、
現実という客観を見せる行為。

超常現象が、むしろ現実を理解させるというオチが爽やかな印象を受けます。

 

ギブミーS
スラップスティックな笑いに塗れた作品。

子供が欲しいという事を言い訳に、
「SEXがしてぇ」という40女の性欲が爆発しています。

 

棘の道
本書において、最も「怪談」的な作品。

一人称にて描かれる小品ですが、
次々と明かされる展開、
オチの切れ味、

短篇としての面白さが存分に味わえる作品です。

 

親指地獄
不思議な余韻を残す作品。

人生という物は、
自分の物であると認識していないと、
いつの間にか地獄に陥る、
そんな印象を受けます。

自分の不幸が、他人によるもの、
そういう言い訳を自分に許してしまったら、
怠惰という地獄に陥ってしまいます

形だけ「トモダチ」していた関係を、
後から思い出して、
「あんなの友達関係では無いワ」という、

過去を否定するメンタリティこそ、現在を病んでいる証拠です。

 

メモリイ
何とも嫌な作品が続いたので、
ラスト位はちょっと爽やかに。

記憶と事実はイコールでは無い

物語の展開を、読者にある程度予想させつつ、
過去の自分の記憶に、母の目線の「メモリイ」を重ねる事で、
新たなる事実を浮かび上がらせる

そういう展開が清涼な読後感を呼び起こします。

 

 

 

第三者目線で見ると、明白に分かる性格の悪さ。

困窮し、身も蓋も無い行動を取る事の醜さ。

しかし、
描写される事は、決して他人事では無い、

実は、
目線を変えると、自分の事を描いているのではないだろうか?

そんな事を思わせる、
恨み辛みの怪談ホラー。

『夢に抱かれて見る闇は』、
諦念という、ある種の心地よさを感じるものなのです。

 

 

書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています

 


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