弁護士のデクスターが出会った男、エイルマー・ヴァンス。デクスターは、心霊現象を調査しその時の体験を語るヴァンスの話術に引き込まれる。それは、数々の「ゴースト・ストーリー」であった、、、
著者はアリス&クロード・アスキュー。
妻アリスと夫クロードによる共作だ。
数々の著作がある様だが、本邦で読めるものは本作に限られている。
『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』。
この題名で、なんとなく探偵物語だとお思いになるかもしれない。
確かにその要素も少しある。
しかし、主なのは
「ゴースト・ストーリー」である。
エイルマー・ヴァンスが体験したり、
依頼してきた人物の事件に関わったりした時のエピソード集である。
読み味としては、
何処か上品な感じを受ける、怪奇短篇小説である。
さらに言うと、全8篇の短篇の内7篇が、
男女の愛に関わる物語であるのだ。
とは言え、本筋は怪奇小説。
甘ったるいエピソードばかりでは無い。
怪奇小説として面白く、それを恋愛系エピソードでまとめた『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』。
全体の雰囲気が、綺麗にまとまった怪奇小説集だ。
以下ネタバレあり
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読者目線としての登場人物
本書『エイルマー・ヴァンスの心霊事件簿』が著されたのは1914年。
著者アリス&クロード・アスキューはイギリスの作家。
本作は、19世紀末~20世紀初頭に書かれた探偵物語、そして怪奇小説の影響を受けた作品集だ。
狂言回しとしてのエイルマー・ヴァンスが存在し、
読者目線の存在としてデクスターがいる。
最初の3篇以外は、依頼を受けて事件に赴く展開だ。
そこだけなら、正に探偵物語の展開。
しかし、ヴァンスとデクスターは事件を積極的に解決はしない。
むしろ、起こった事を観察し、解説するだけの役割、
ほどんど読者と同じ目線を持っているだけに過ぎない。
ここが、本書が怪奇小説である所以である。
その事は本書の原題『AYLMER VANCE: GHOST-SEER』という題名にも表れている。
ヴァンスもデクスターも、基本的には超常現象に関与せず、見てるだけ。
デクスターに至っては「千里眼」という設定で、離れた場所や過去の事象をビジョンとして見るという、なんとも読者に優しい能力を持っている。
つまり、デクスターの「千里眼」は「読者目線を誘導する視点」であるのだ。
読者はヴァンスやデクスターと共に、超常現象を観察するのみ。
我々は単なる「GHOST-SEER(幽霊を見る人)」でしか無いのだ。
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作品解説
では、各作品を簡単に説明してみたい。
全8篇の短篇である。
侵入者
何事も、起こってから過去を悔やむ。
そして、事態を収拾する事に、自分の力のみを恃むでは無く、プライドを捨ててでも他人に頼らないとどうなるのか?
それを教えてくれる。
見知らぬ誰か
抗えない運命ならば受け入れるしか無いのか?
しかし、薄々破滅に気付いていながら「そうならなければいいな」という希望的観測のもと、運命を見ないようにしているのが哀しい。
緑の袖
出会った運命の相手が幽霊だったら?
誰でも考えた事がある(?)話をロマンチックに描いている。
消せない炎
自らの才能を信じる者達が、全て成功する訳では無い。
夢破れた者が辿る末路を、情感と共に描いている。
ヴァンパイア
家系という枠に囚われ、自らもそうだと信じてしまう事こそが、「呪い」である。
ブラックストックのいたずら小僧
幽霊の仕業なのか?それとも悪意の第3者がいるのか?
錯綜する悪意の連鎖が面白い。
固き絆
自らの意思と魂、運命が求める物の相克に苦しむ。
自分がしたい事と、自分が出来る事に違いがあるのは実生活でも思い当たる。
恐怖
家族であっても、こじれたものが行き着くと怪現象とまでなってしまう。
ラストの「恐怖」のみ、家族の話、近親者であってもぞんざいに扱うなら破滅をもたらすという教訓的なものになっている。
親しき仲にも礼儀あり、況んや家族をや。
それ以外のエピソードは男女の恋愛絡みだが、怪奇小説として統一感がある。
この読み味は、夫婦で書いている点も関係しているのであろうか?
お釈迦様でも草津の湯でも、恋の病ななんとやら。
それ故、ヴァンスとデクスターは見るだけしか出来ないという面もあるのだろう。
ままならぬ運命を受け入れるしかない人間達の悲哀の物語集である。
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さて次回は、愛による怪奇譚があれば、愛と友情で世界を救う事もある!?映画『ジャスティス・リーグ』についれ語りたい。