幻想・怪奇小説『ジョージおじさん――十七人の奇怪な人々――』オーガスト・ダーレス(著)感想 弱きもの達へ向ける優しい眼差し

 

 

 

プリシラの大好きなジョージおじさんは死んでしまった。今は遺産を狙う3人の親戚と一緒にお屋敷に住んでいる。「ジョージおじさん帰ってきて」プリシラが願うと、、、

 

 

 

オーガスト・ダーレスといえば、編集者として『アーカム・ハウス』を創設し、数多の幻想・怪奇作家を発掘した事で有名だ。また、小説家としてはクトゥルー神話系の作品で知られている。
そんなダーレスの怪奇短編集だ。いやがうえにも期待が高まるではないか。

本作品集の特徴的な印象として、

読んだ後に気持ちの良い優しさを感じられる。

 

怪奇小説なのに、優しさ?と思われるかもしれない。しかし、事実そうなのだ。
そして全体的に

話が分かり易くて面白い

 

変に凝った所が無いので、怪奇小説を読み慣れてない人にもオススメだ。


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  • 怪異の対象

怪奇小説にはある程度のパターンがある。
原因があるから結果がある「因果応報譚」。突発的、無差別的に災厄に見舞われる「不条理系」。ふとした機会で日常から踏み外した世界を体験してしまう「不可思議系」等だ。本作品集は「因果応報譚」が主となっている。

そして、本作品集では怪異に会うのは主人公というより、主人公に害を成すもの達である。少女や老人、迫害される者達を怪異が守り、無念の内に斃れたもの達の恨みを晴らす。
弱き者を自らの欲望の喰い物にしようとするヤツ達に因果応報が下る。本来なら恐れるべきハズの怪異を、読んでいる内に応援し、罰を下すと拍手喝采したくなる。怪異に襲われる対象が違うだけで、ほとんど勧善懲悪の様な清々しさがあるのだ。

  • 短編集としての面白さ

分かり易さ、読み易さ、オチの面白さ。
『ジョージおじさん~』にはこの三拍子が揃っている。
一品一品が面白く、読み終わった後に次の作品にスッと入っていける。
短編集となると、いくつかは「ちょっとイマイチ」と思う作品も入っていることがある。しかし本作品集は全て面白い。一冊としての読み味の統一感もあり、大変お得な感じがする。

 

以下ネタバレあり

 

 

  • 簡単な作品解説

本作品集を代表する『ジョージおじさん』以下、
『幸いなるかな、柔和なる者』
『黒猫バルー』
『ミス・エスパーソン』
『ビショップス・ギャンビット』
は弱き者を守る怪異の話。

『B十七号鉄橋の男』
『マーラ』
『アラナ』
は幻想的な怪奇譚

『パリントンの淵』
『プラハから来た紳士』
『青い眼鏡』
『死者の靴』
『客間の干し首』
『余計な乗客』
『ライラックに吹く風』
『マニフォールド夫人』
は因果応報譚

『ロスト・ヴァレー行き夜行列車』
は不可思議系の怪奇譚となっている。

 

 

怪奇譚でありながら、優しさ、懐かしさ、ユーモア等も盛り込まれており、どの作品も面白い。なかなか得難い作品集である。

 


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さて、次回は少女が世界を守る為に奮闘する『スワロウテイル人工少女販売処』について語りたい。