救命ボートにて、大海原を行く2艇。彼達はとある不気味な島で水と食料を補給した後、海藻に囲まれた島に辿り着く。そこには、何やら怪しい生き物が蠢いていた、、、
著者はウィリアム・ホープ・ホジスン。
航海士だった過去を活かした海洋怪奇小説を多く著している。
『<グレン・キャリグ号>のボート』(本書)
『異次元を覗く家』
『幽霊海賊』
の3作は、「ボーダーランド3部作」として知られる。
他、著書に
『幽霊狩人カーナッキの事件簿』
映画『マタンゴ』の元ネタとなった『夜の声』等がある。
本書『<グレン・キャリグ号>のボート』は一応ジャンルとしてはホラーである。
しかし、その内容と言えば、
作者の好きなものを色々ぶち込んだ
という印象を受ける。
幻想怪奇小説風の出だしから、嵐の海を越えて、怪物と戦い、ヒロイック風活躍をする。
こう書くと分かるが、
ほとんど少年漫画風のノリである。
航海士をしていたという著者が、
「こんな活躍をしたらカッコイイだろうな」
と思っただろう妄想が爆発している。
特に難しい事もなくスラスラ読める。
冒険小説をササッと読みたい時にオススメする一冊だ。
以下ネタバレあり
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怪奇小説から冒険小説へ
事故に遭った<グレン・キャリグ号>から脱出した救命ボート、という態で始まる本書。
まず始めは幻想怪奇風の雰囲気で始まる。
怪しげな島に遭難船がある。
食料や水の備蓄があれど、人がいない。
そして夜な夜な怪しい声が聞こえ、何者かの襲撃を受ける、、、
映画『マタンゴ』を彷彿とさせる冒頭部分は怪奇小説として面白い。
そして、嵐の海を乗り切るシーンが挟まれ、海藻の島に辿り着く。
メインストーリーである海藻の島の部分は冒険小説である。
てっきり、冒頭の雰囲気で怪奇連作冒険短篇になると思いきや、作風をガラッと変えてくる。
怪物と戦いつつ、何故か7年も食料を保っていた難破船を救出し、ハッピーエンドというラストを迎える。
「迫り来る怪奇」の迫真部分とご都合主義の「何じゃそりゃ」の部分が相まって不思議な読み味になっている。
怪奇小説の出だしで、冒険小説の活躍をする。
作者の実体験を活かした海洋冒険部分も挿入する。
まさに、作者・ウィリアム・ホープ・ホジスンの趣味、妄想を具現化した作品であろう。
しかし、畢竟、全ての小説は作者の妄想である。
その中に、共感出来る部分、面白い部分を見つけ出せればそれで良いのだ。
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さて次回は、これまたウィリアム・ホープ・ホジスンの作品『異次元を覗く家』について語りたい。