幻想・怪奇小説『魔女王の血脈』サックス・ローマー(著)感想  

 

 

 

ロンドン在住の医学生、ロバート・ケルンにはアントニー・フェラーラという幼馴染みがいた。父同士は親友だが、ロバートはアントニーが何となく気にくわない。ロバートはある日、池の白鳥の死を目撃する。そして、そっくりな白鳥の像がアントニーの部屋にあったのだ、、、

 

 

 

著者はサックス・ローマー
イギリス産まれ。代表作に
『骨董屋探偵の事件簿』
『怪人フー・マンチュー』等がある。

 

本書『魔女王の血脈』は

オカルトアドベンチャーだ。

 

青年、アントニー・フェラーラが行くところに、災厄が振りまかれ、マイケル・ケルンとロバート・ケルンの親子がその事件に巻き込まれるというパターンの物語である。

長篇だが物語は連作短篇形式で、事件毎にクライマックスの波が訪れる。
この形式が、

独特のテンポの良さを産み、スイスイ軽快に読める。

 

なにぶん百年前の話なので、微妙な差別発言なども散見される。

とはいえ、

百年前の英国から見た「異国情緒」のイメージ

 

が推し量れるので、その意味でも面白い作品となっている。

20世紀初頭のオカルト事件モノ、という正に正統的な系譜の物語と言えるのではないだろうか。

 

 

以下ネタバレあり


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  • オカルト結社のメンバー

サックス・ローマーは神秘学の秘密結社である「黄金の夜明け団(The Hermetic Order of the Golden Dawn)」(「黄金の暁」等とも言う)に所属していたと言う。

魔術を研究し、その専門書も著した。
『魔女王の血脈』の登場人物マイケル・ケルンなどは、知り合いにモデルがいるのかも知れない。

先に紹介したアルジャーノン・ブラックウッド等、19世紀末~20世紀初頭に活躍した英国系の文学者が多く在籍しているようだ。

 

  • 構成解説

本書『魔女王の血脈』は長篇ではあるが、形としては連作短篇形式を採っている。

最初の導入部を除外すると、全部で5つのエピソードから成っている。
解説してみたい。

第一章
導入部、ロバートのアントニーへの不審が描かれる。

第二章~第六章
遠隔の呪いで、サー・マイケル・フェラーラとロバートが狙われる。
ライブで遠隔操作するタイプの呪いだ。

第七章~第十章
呪われた血筋の物語。
これ独自の短篇としても面白いオカルト作品だ。

第十一章~第十九章
エジプト篇。
疫病蔓延と催眠術、ピラミッド潜入。

第二十章~第二十四章
呪いの罠に掛かったヒロインの運命は?
謎の呪殺植物が描かれる。

第二十五章~第三十一章
再び呪いの攻撃。
呪いのアイテム使用とサラマンダー召喚。

 

こうして見ると、一口でオカルトと言えどもバラエティに富んでいる。

長篇としての大きなまとまりよりも、ネタを小刻みにしてテンポを重要視した作品構成になっている。

 

  • 死番虫

死番虫という字面が厨二心をくすぐるが、実在する「シバンムシ」という虫と関係があるのだろうか?
ビジュアルイメージとしては同じ感じだろう。

シバンムシは一般的に言うと害虫である。

成虫の体長は1ミリ程度。
一般家庭でも、新聞紙を置きっ放しにした押し入れや、放置した小麦粉に湧いて大量発生する(特に夏頃)ので見たことがある人も多いだろう。

常に掃除を心掛ければ見かけない生物なので、頑張って整理整頓を徹底しよう。

 

  • この設定、何?

p.43~44、マイラが「口寄せ」しているシーンがあるが、それはここのみで、後に説明は何も無い。

これは、死んだサー・マイケル・フェラーラの霊がマイラを霊媒として語っている言葉だと思われるが、特に説明は無い。

また、マイラは予知夢を見たりもするので、実は隠れた魔術の才能があるみたいな設定なのかもしれない。

 

「トートの書」を入れる「入れ子状の箱」が出てくる。
これにはモデルがあるのだろうか?

クライマックスでの対処法を曖昧にぼかしているのが拍子抜けだったのだが、何か基になる物があったが為の已むを得ない描写なのかもしれない。

 

 

オカルトものではあるが、変な理論で煙に巻かずに、テンポの良い展開でサクサク読める。

オカルト作品は独自理論や抽象描写に走りやすいが、本作はそんな事が無く、普通の読者にも読みやすい。

親子のバディものとしても、また、探偵小説的な感じでも読める作品だ。

 

 


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さて次回は、知らない人にはUFOも魔法?UFO短篇あれこれ『最終戦争/空族館』について語りたい。