廃墟から発掘された古い手記。そこには、ある老人の驚異の体験が記されていた。古くから悪い噂があったというその土地に引っ越してきた男は、妹と犬と共に暮らしていたのだが、、、
著者はウィリアム・ホープ・ホジスン。
自身の体験を活かした海洋冒険小説を多く著している。
代表的な長篇に「ボーダーランド3部作」、
『<グレン・キャリグ号>のボート』
『異次元を覗く家』(本書)
『幽霊海賊』がある。
また他の著書に
『夜の声』(映画『マタンゴ』の原案)
『幽霊狩人カーナッキの事件簿』等がある。
「ボーダーランド3部作」の2番目にあたる本書。
原題は「THE HOUSE ON THE BORDERLAND」。
本書『異次元を覗く家』こそが、
「ボーダーランド(境界)」の怪異を最も表した作品である。
主人公はごく普通の老人。
しかし、彼が出会うのは
驚異の宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)である。
想像力の限界まで挑戦したかの様な、果てしない時と宇宙の描写こそが、本書の魅力である。
原因や理由のある論理的な恐怖では無い。
ふいに恐怖が襲いかかってくるが、
そのスケールがデカすぎて見当識が狂う。
読書でありながら、まさに「異次元を覗」いているかの如き感覚に陥ってしまう。
こういうホラーもあるのかと、驚きつつため息を吐いてしまう。
遙か彼方まで妄想や空想を飛躍させるのが好きなタイプなら、本書『異次元を覗く家』も楽しめるだろう。
以下ネタバレあり
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宇宙的恐怖!!
本書『異次元を覗く家』の一番の魅力と言えば、やはり中盤に唐突に始まる「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」である。
ゆくりなく、イキナリ始まる時の果てへの旅。
時間が急速に進み、地球どころか太陽系自体が老い、星辰の寿命が尽き果てて行く様が驚異的な想像力で描写される。
主人公も読者も、ただ唖然としてそれを見るほか無く、スケールの大きさに圧倒される事しか出来ない。
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恐怖に理由は要らない!?
「宇宙的恐怖」部分も、豚面の怪人に襲撃される部分も、その原因や切っ掛けの様なものは描写されない。
ただ、その土地、もしくは家自体がその原因を含んでいるのだとほのめかされるのみだ。
この理由の無い恐怖、根本を対処しようの無い驚異には絶望しかない。
襲いかかる恐怖を、自分が破滅するまで受け続けるしかないからだ。
本書『異次元を覗く家』の場合は、その土地から立ち去れば驚異から逃れられたハズである。
だが、それが出来ない理由として「運命の女性に出会い」、それが「土地に縛られた地縛霊的存在」であった為、引っ越しするという選択肢が無かった、とされている。
しかし、その割に、女性と出会うロマンス部分をバッサリ省略している辺りに、書きたいものは「恐怖と驚異なんだ」という事がハッキリと表れている。
面倒な理屈、
もっともらしい原因など必要ない、
純粋に恐怖の表出を目指した作品だと言える。
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団精二こと荒俣宏の解説
本書は1972年刊のハヤカワ文庫版の新版である。
訳者は同じ荒俣宏だが、旧版では「団精二」と名乗っている。
これは言うまでもないが、「ロード・ダンセイニ」という作家から採った名前だろう。
さて、本書には荒俣宏氏の解説が新版、旧版の2種類載っている。
これがまたどちらも面白い。
面白い解説というものは貴重である。
私の戯言など及ぶべくもないので、本文のみならず、解説も読んで頂く事をオススメする。
想像力の限界まで駆使し、時の果ての太陽系の終焉まで描き出した本書『異次元を覗く家』。
「この部分を描きたかったのだ」という、まさに乾坤一擲の力に満ちた描写に、圧倒される事間違い無しの作品である。
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さて次回は、「ボーダーランド3部作」の掉尾、『幽霊海賊』について語りたい。