本『罪と監獄のロンドン』スティーブ・ジョーンズ(著)感想  庶民の犯罪と監獄の物語り!!

 

 

 

ヴィクトリア朝のロンドン。産業革命の影響で富を獲得した人間がいる一方、赤貧に喘ぐ生活を送る下層民も多数いた。苦境を逃れる為、アルコールに溺れるもの、犯罪に手を出すもの、それも皆辛い日々を生きる為であった、、、

 

 

 

著者はスティーブ・ジョーンズ
名前が似ているがジョブズとは全くの別人だ。
他の著書に
『恐怖の都ロンドン』
『鍵穴から覗いたロンドン』等がある。

訳者は友成純一。猟奇幻想作家だ。
著書に
『陵辱の魔界』
『獣儀式』
『邪し魔』等がある。

 

本書『罪と監獄のロンドン』は著者の「ロンドンシリーズ」の第3弾である。
とはいえ、単独でなんら問題ない内容だ。
(しかし、本書を含め全て絶版なのが惜しい)

ヴィクトリア朝(1837~1901)のロンドンにおいて

困窮に喘ぐ庶民の犯罪と監獄の様子について描かれている。

 

国としては絶頂期を迎え、文化も爛熟しきった一方、下層民の生活はすさみきっていた様子が見て取れる。

その庶民の様子を

豊富なイラスト、写真、エピソードで紹介している。

 

庶民の生活こそ、時代を映す鏡。
それを「犯罪」という面から分かり易く切り取った良書である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 犯罪と監獄

本書『罪と監獄のロンドン』は大きく分けて前半と後半に分けられる。

前半では庶民の犯罪例がこれでもかと紹介され、裁判でのトンデモ面白(?)エピソードが語られる。

妻に暴力を振るっても無罪放免、判事を言葉巧みに煙に巻く酔っ払い女性、追放されても何度も帰って来る犯罪者。

今の常識からでは考えられなくとも、全て実話である。

興味深いのが、パブの役割である。

下層民は狭い部屋に押し込まれ、劣悪な環境で生活している。
家族といえども長時間顔を付き合わせるのはたまらないものがある。

その憂さを晴らす為、大衆バーといえるパブに入り浸り、酒に酔い仲間と騒ぎくだを巻き一時自らの困窮を忘れる。

しかし、一杯機嫌で帰って来た夫を、妻や子供達は非難をこめた目で見つめる。
それが気に入らないと夫は妻に暴力を振るい、子供はそんな家をいやがり路上生活者となる。

ガス抜きの施設のはずが、一方で家庭崩壊をも生み出す。
あの立ち飲みスタイルにはそんな歴史があったのだと、なんとなく納得する所がある。

後半では、裁判で懲役の判決を受け、収監される様子が描かれる。

その環境も劣悪なら、収監者のモラルもあったものじゃない。

特に面白いのが、p.222から始まる実録部分である。

まずい食事、むしろ食べたら病気になりそうなものが出てくる。
不衛生なベッド、ノミ、シラミ、ゴキブリの海。
強烈な排便の臭い。
染み渡る冷気。

収監者の悲惨な状況に、自業自得とはいえ同情を禁じ得ない。

 

前半から後半にかけて、まるで一つの物語りの様にエピソードが連なっている。
そして、最期の章は「釈放」で終わるのだが、更生しようにも世間が受け入れず、再犯の末に再び収監というお決まりの流れが語られる。

一度の失敗で再浮上が難しいのは、古今東西変わらないのである。

 

しかし、犯罪者の悲惨な状況を列挙しているハズなのに、そこに一抹のユーモアと妙なエネルギーも感じるのもまた事実である。

皆、生きるのに必死なのだ。

 

 


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さて次回は、苦境を打破したハズが再び苦境に陥る!?『動物農場』について語りたい。