本『決定版 切り裂きジャック』仁賀克雄(著)感想  もはや伝説!?怪人の謎を解説!!

 

 

 

1888年8月31日、ヴィクトリア朝、イギリスのロンドン・イーストエンドにて一人の売春婦が殺害された。のどに2ヶ所の切り傷。そして腹部には数カ所の刺し傷がみられた。これこそ後にロンドン中を震撼させる「切り裂きジャック」の第一の犯行であった、、、

 

 

 

著者は仁賀克雄
ワセダミステリクラブを創始し、数々の訳書がある。

 

本書『決定版 切り裂きジャック』はその名の通り

切り裂きジャック解説本である。

 

誰でも一度は聞いたことのある、有名な連続殺人犯。
しかし、その詳細はあまり知らない人が多数だろう。
そんな人でも

この一冊だけで「切り裂きジャック」事件のその顛末のほとんどが分かる。

 

さらに、多数の資料に当たっており、そのガイド本としても詳しい。

まさに決定版と言える内容だ。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 切り裂きジャック事件とは?

諸説ある様だが本書『決定版 切り裂きジャック』では、
1888年8月31日~11月9日までに行われた連続殺人事件についてを指している。

犯行は深夜、売春婦を狙って行われた。
いずれの殺害方法も、のどを切り裂かれた事が致命傷となっている。
そして異常なのが、内臓の摘出あるいは損壊が見られる点である。

どうやら犯人は生体解剖が目的だったらしい。

市中は騒然、ロンドン警察「スコットランド・ヤード」の捜査も空しく、結局犯人は見つからず、迷宮入り。

その異常性、また、当時のメディアの煽りを受けある種伝説的存在となった「切り裂きジャック」は、その正体不明さが想像力をかき立てるのか、数々の「謎本」を生み今に至るまで考察がなされているのだ。

 

  • 盛り沢山の内容

本書『決定版 切り裂きジャック』は大まかに3つの項目で構成されている。

一つ、「切り裂きジャック事件」の顛末について述べたパート。

二つ、「切り裂きジャック」の犯人を考察した、その関連書籍の紹介と解説。

三つ、著者・仁賀克雄氏のイーストエンド探訪録、である。

まず一、「切り裂きジャック事件」の顛末を解説した部分。
これが本書のメインである。

多くの資料を詳細に当たったのだろう、その筆致はまるで見てきたかの様の臨場感である。

さらに、当時の風俗、政治状況も併せて記してあり、「切り裂きジャック」はある意味「ヴィクトリア朝」という時代を反映した事件だったと述べている。

植民地拡大による貧富の格差。
職を得られずに、その日暮らしを強いられる下層民。
移民に対する憎悪や職業差別。
無責任なメディアによる過剰な煽り。

これだけ言うと「あれ?現在と変わらなくね?」と思われるが、いつの世も社会的問題は変わらないという事であろうか。

また、二つ目が「切り裂きジャック」その人物に魅せられた数々の「犯人考察」本の解説。

しかし、常識的に考えて、当時の捜査当局で判明出来なかったものが、後の想像のみで解明出来るものではない

だが、この犯人不明という点が「切り裂きジャック」の魅力そのもの、つまり、今に至るまで解明されない「謎」こそが人を惹きつけてやまないのだろう。

著者の仁賀克雄氏も、個人の断定は避けながらも、その犯人像に迫っている。

三つ目におまけ的に事件の舞台となったイーストエンド探訪記が附されている。

異国で戸惑う様子、そして時の流れの中で事件が風化され忘却されている様子が描写され、短いながらも興味深い部分である。

 

 

兎に角、本書『決定版 切り裂きジャック』は「切り裂きジャック事件」に触れる場合の、その入門にして決定版的内容となっている。

さらなる細かい部分を調べようにも、これ以上のものが見つかるのか?そう思ってしまう。

著者が当たった広範な資料は本文中に示されているので、興味が湧いたらそちらも当たってみると良いだろう。

だが、結局は「想像の余地が残っている未解決事件」だからこそ、100年以上経っても色あせず人々を惹きつけるのであろう。

 

 


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さて、次回は『罪と監獄のロンドン』で、当時のロンドンの生活を覗いてみたい。