漫画『花のズボラ飯』原作:久住昌之 漫画:水沢悦子 感想  ムーブメントの先駆けとなってしまった作品!

 

 

 

駒沢花は一人暮らし。夫が単身赴任なのを良いことに(!?)自堕落生活を満喫している。しかし、今日はヤル気を出すんだ!と思いつつもやっぱりのんべんたらりと過したい。そう、ご飯さえも手抜きでちゃっちゃと済ませたいのだ、、、

 

 

 

話担当の久住昌之(くすみまさゆき)は漫画原作者、エッセイスト、等幅広い活躍をしている。かの有名な『孤独のグルメ』も彼の原作だ。

絵担当は水沢悦子。他の作品に
『ヤコとポコ』等がある。

本作『花のズボラ飯』は食事漫画である。

しかし、一言で「食事漫画」と言ってもそのバリエーションはいくつもある。

食事・料理そのものにスポットを当てた「グルメ漫画」
食事・料理を題材にして戦う「バトル漫画」
食事・料理を中心に日々の営みを描く「日常系漫画」
話の中で食事・料理に重点が置かれている「ストーリー漫画」
等である。

本作『花のズボラ飯』は「日常系漫画」である。

 

そして、主人公・花の日常は常にラクを目指してゆるゆるである。

花は日々の「ラクしたい」という欲望に忠実に、適当に手を抜いて生きている。

 

勿論、常に怠け者では無い。夫が赴任先から帰って来る時はハリキリ、普通に仕事もしている。

しかし、人が心の中に持っている「あ~ここでラクしたい」というポイントで的確に手を抜いてくる。

この、怠惰な欲望あるある感

 

がこの漫画の魅力の一つである。

ここを「そうだよなぁ」と共感出来るか、
「手前ぇサボるなよ」と批判するかで好みが違ってくる。

絵柄自体も可愛いが、若干人を選ぶ点があるのは否めない。

ちなみに私は好きです。

 

 

以下ネタバレあり

 


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  • 時代に咲いた花

『花のズボラ飯』は1巻の発売が2010年の12月。
そして2巻の発売が2012年の3月であった。

この、2012年という年は、
2011年12月に発売された『このマンガがすごい!2012』のオンナ編で1位となり、
2011年のマンガ大賞で第4位のポイントを獲得したことで『花のズボラ飯』に対しての注目度が上がっていた時である。

そして、ドラマ『孤独のグルメ』が2012年1月~3月に好評をもって放映された時だった。

原作者が同じ久住昌之氏という事で漫画版の『孤独のグルメ』と並んで置かれ、しかも『このマンガがすごい!』「マンガ大賞」で好評を博した事もあり、『花のズボラ飯』はけっこう売れた。

だが、売れるという事はたくさんの人の目触れる事を意味する。本書は賛否両論を生んだ。

  • 食事表現

『花のズボラ飯』の絵は、写実的なものを突き詰めたタイプではなく、マンガ的なデフォルメの効いた、ちょっとロリが入ったカワイイ絵柄である。

そして、この絵柄で、花の食事シーンをちょっとエロチックに描写するシーンがある。

この、食事でまるで性的エクスタシーを得ているかの様な表現に嫌悪感を催す人もいる。

この表現を、
「マンガ的な過剰なデフォルメ表現、代替表現」として楽しむか、
「食欲と性欲を混同した気持ち悪さ」ととるかで作品に対する評価が決定的に違ってしまう。

読み手の性格、年齢、そして漫画にどれだけ慣れているかによって、その好き嫌いが変わってしまう作品だろう。

  • 先駆けとなってしまった表現

そして、この表現法の先駆け的作品として『花のズボラ飯』は認知されてしまう。

ドラマ『孤独のグルメ』の好評を受けて、漫画『孤独のグルメ』が再評価され、同じ原作者を持つ『花のズボラ飯』も売れた。

そして、そのおこぼれに与ろうと、「食事漫画」が雨後の竹の子の如くに濫造される。

勿論、商機に乗じる事は良いことだ。しかし、問題なのはその内容であった。

ドラマ版『孤独のグルメ』は井之頭五郎役の松重豊氏の演技力が好評の主因であった。漫画『孤独のグルメ』では作画・谷口ジロー氏の卓抜した描写力が何気ないシーンにも圧倒的説得力を持たせていた。

『花のズボラ飯』の魅力はそのちょいエロ表現だけではない。
的確に捉えてくる日常怠惰あるあるネタ
どこかノスタルジックの漂う作風
突如挟まれる奔放で楽しい比喩表現
ダジャレ的セリフの面白さ
これらが作り出す「日曜の午後の様なリラックスした雰囲気」が作品の魅力である。

しかし、後発作品の多くは描写力や作風等の再現が難しい魅力を追求する事を放棄し、より簡単でキャッチーな表現を選んでしまう。
それは「エロ」である。

エロはやはり、人を惹きつける。
『花のズボラ飯』で見られた食事を性的エクスタシーで表現する方法を、その表面だけ多くの作品が剽窃してしまう

エロの力は兎に角凄い。絵にインパクトがあるのでつい目にとまってしまう。
しかし、実際に読んでみると全く中身がなくて閉口してしまうが多く、その「生みの親」となってしまった『花のズボラ飯』も並行して批判にさらされる事になってしまったのだった。

 

タイミングが時代の波に乗り、売れて多くの人の目にとまる。良いことがある一方、その結果、表現法をパクられ多くの批評にさらされる。

人間万事塞翁が馬、という言葉を思い出さずにはいられない。

 

しかしながらこの作品、私は面白い。
そして実際に批評出来るのは、それを読んだ者だけである。
あなたもこの作品、読んでみては如何だろうか?

 

 

 

 


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さて、次回は、水沢悦子と絵や作風やセンスが似ているうさくんの作品『にゃん天堂』について語りたい。