漫画『終わった漫画家』福満しげゆき(著)感想  欲望と自意識のせめぎ合い!!

 

 

 

彼は「終わった漫画家」であった。デビュー当時こそヒットを飛ばすが、その後は鳴かず飛ばず、なんとか業界の隅っこで生き続けていた。枯渇した自分の才能に悩みつつ、結婚したいと思った彼は女性をアシスタントに雇って「紳士的に」仲良くなろうと考えたのだが、、、

 

 

 

著者は福満しげゆき
自虐的グラグラ漫画家だが、どっこいまだまだ生きている。
代表作に
『僕の小規模な失敗』
『僕の小規模な生活』
『生活』
『うちの妻ってどうでしょう?』
『就職難!!ゾンビ取りガール』
『中2の男子と第6感』
『妻に恋する66の方法』等がある。

 

皆さん、福満しげゆきという漫画家をご存じですか?

自虐ネタと妻ネタを駆使し、人生切り売り的に実録漫画を描いている漫画家である。

 

彼は実録漫画のみならず、オリジナル漫画も描いているが、それはいつも「僕、おじさん、女の子(+ゾンビ)」的な登場人物で構成される。

大体いつも、似たキャラクター、
いわゆるスターシステムが採用されており、本作『終わった漫画家』でも「よく見るいつものキャラクター」により描かれている。

内容はいつもの、

耐えきれない己の存在の軽さに悩みつつ、
煩悩や欲望を自己の中でのみ膨らませる展開である。

 

いくつになっても変わらない、
20年経っても同じ所にいるのか?と言わんばかりの、

厨二的視点による人生の不安、苦悩
そして妄想を細かい内省と心理描写で描く作品だ。

 

作品が変わっても、作者・福満は変わらない。

日々押し寄せる陰キャ的苦悩を作品として昇華させる。

 

この手法で本作も描かれている。

漫画家が下心アリで女性アシスタントを雇う。
もうこの時点で妄想爆発した感があるが、作者の陰キャ的発想による自虐と欲望ネタがハマり過ぎて面白い。

そう、福満しげゆきの漫画は、

好きな人が読めば全て面白いのだ。

 

本作には巻末付録に「いつもの」コラムもちゃんとある。
ファンは安心して「買い」の一手である。

ファンで無くとも、自らを陰キャ的厨二と自称するなら、本作は面白いハズ。
読んでみては如何だろうか。

 

 

以下ネタバレあり


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  • 福満漫画の魅力

本作では舞台設定に、「男性漫画家が下心アリで女性アシスタントを雇う」という身も蓋も無いものが採用されている。

これはラブコメ的展開を予想させる反面、
実際の漫画家も女性アシスタントにエロい事しているのではないかという読者視点の妄想を具現化した作品でもあるのだ。

しかし、これは一概に妄想とも疑惑とも言えない。
数年前に、女性アシスタントに手を出して刑事事件になった漫画家が実在する

こういう陰キャ的妄想を汲み取りつつも、実際にあった事件や出来事を使って漫画に落とし込むのが上手い

もっと分かり易く言うと、作者福満しげゆきは、
陰キャ的厨二的妄想を抽出し、ある種のリアリティを持って漫画に組み込むのが上手いのだ。

なので、陰キャの皆様は福満の漫画を読むと、「あ~、あるある」と、その細かいセリフの一つ一つまで共感する事が出来るのだ。

その共感性は(一部の)読者の思想や実体験を的確に突いて来る。

この陰キャ的視点による世界観の共有が福満漫画の魅力である。
「言葉に出来ない様な日々の不安を抱えつつ、それに苛まれながらも生きている」のは自分だけでは無いと気付かされるのだ。

 

  • 内省で進むストーリー

本作のメイン登場人物は地味目の3人。
ウェーイ系では無いので、行動の前に思考が先立つ。

その、表の顔に隠れた内面の饒舌な心理吐露が本作の魅力の一つだ。

そして、お互いの思惑は交差しないのに、表面的には自然と噛み合っているという展開が面白いのだ。

……まぁ、現実は、お互いの思惑を通す為に、表面的にだけ上手く取り繕うというのが人間関係なんですがね。

そういう、ままならない現実の塩辛さがあるからこそ、この陰キャ風味のラブコメ展開を楽しむ事が出来るのだ。

 

  • ジョジョ立ち

いかにも福満漫画の『終わった漫画家』であるが、他の作品には見られない特徴もある。

本作は、顔の書き込みの線が多い。

元々、女性の体のフォルムを服のシワで表現する事に拘りがある作家であるが、
本作では顔の線の書き込みを多くして、チョイチョイ劇画風の表現を入れる事に挑戦している。

また、本作では何故かキャラの立ち絵にくねくねしたポーズを取らせている。
いわゆる「ジョジョ立ち」をさせているのだ。
p.29、p.86、p.106等をチェックして頂くと分かるだろう。

p.29などは、リサリサを彷彿とさせるポーズとセリフである。

恐らく、ただの立ち絵では寂しく思い、ちょっとポーズを取らせてみたらジョジョっぽくなったのではないか。
そして、それが案外面白くて、徐々に意識してポーズを取らせる様になったのだと思う。

表現方法の一部として、立ち絵にジョジョ立ちを採用するのはアリだと思う。

こういう風に、作者・福満しげゆきは試行錯誤しつつ、新しい表現方法を試しながら自分が「終わった漫画家」にならないように頑張っているのだ。

 

 

色々理屈をこねたが、本作『終わった漫画家』は面白い。

A子のそこはかとないエロさを担当し、
B子は若さ故の傲慢さ、自分一人だけの時にはご機嫌な躍動感を持ちつつ、人と接するときにはツンケンする。

この二人の対比も良い。

自虐的ネタを挟みつつ、それでも作者は漫画を止めない。
それは彼の一貫した作品作りの姿勢を見れば分かる。

己を見てくれ

創作者に必要な、この根源的な欲求を発揮して行く限り、私は福満しげゆきの漫画を読み続ける事だろう。

あ、それと、巻末ポエムも面白いので、そちらも皆さんちゃんと読みましょう。

 

著者の別作品の最新単行本、妻ネタ漫画である


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さて次回は、終わった作家とは程遠い作家のライフワーク、小説『ダークタワーⅠ ガンスリンガー』について語りたい。