エス・エフ小説『ハロー、アメリカ』J・G・バラード(著)感想  心の中の夢を目指せ!?こんにちは、アメリカンドリーム!!

 

 

 

石油資源枯渇を契機に経済的衰退を招き、遂には崩壊を迎えたアメリカ。そのアメリカ大陸で、ヨーロッパの観測所にて熱核反応が確認され調査隊が派遣される。その「アポロ号」の密航者ウェインはアメリカ行きに希望を見出していた。それは彼のみならず、皆そうであったのだが、、、

 

 

 

 

著者はJ・G・バラード
波瀾万丈な人生にて裏打ちされた独特の作家である。
代表作に
『狂風世界』
『クラッシュ』
ハイ・ライズ
『楽園への疾走』
『人生の奇跡』
『J・G・バラード短篇全集』等、多数。

 

「思弁小説」(スペキュラティブ・フィクション:Speculative Fiction)と言われるSF小説を発表してきた作家、J・G・バラード。

「アウター・スペース」より「インナー・スペース」を求めたと言われる作家ですが、

本作、『ハロー、アメリカ』にて描かれるは、

アメリカンドリームです。

 

では、アメリカンドリームとは何?
との疑問があるかと思います。

それは、

個人の心の中にある「アメリカの夢」
つまり「明るい希望を目指す心(魂)」といったものです。

 

本作では崩壊後のアメリカが描かれていますが、
衰退したのはアメリカのみならず、
他地域でもその影響が見られるようです。

食料は配給制の欧州、
科学技術も沈滞し、かつてのきらびやかな「アメリカの発展」に各自の夢を重ね、
正にフロンティア・スピリットを持って、かつての新天地に再び乗り込む探検隊の物語です。

J・G・バラードといったら、
ちょっと小憎らしい面白さという印象ですが、

本作は

冒険小説的な色合いも強いです。

 

既知の領域の中の「未踏の部分」に希望を見出さんとする物語、
しかし、一筋縄では行かない、
それが本書『ハロー、アメリカ』と言えます。

 

 

  • 『ハロー、アメリカ』のポイント

希望を求める物語

希望と欲望は紙一重

冒険物語(アメリカ大陸、自らの心の内)

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 『地獄の黙示録』

本作『ハロー、アメリカ』(1981)は、
映画『地獄の黙示録』(1979)の影響が明確に見られます。

『地獄の黙示録』はフランシス・フォード・コッポラ監督作品。

ベトナム戦争後期、
軍の命令を無視してカンボジアに居座り、
独自王国を(勝手に)築いたカーツ大佐と、
それを暗殺する命令を受けたウィラード大尉の物語です。

カーツの王国に向かう過程で、戦争の影響を受け狂って行く隊員たち、
カーツの影響を受け動揺するウィラード、
ままならぬ世を絶望し拒否し、自らの作った楽園の中に引きこもるカーツ etc…

自らの強さと正義を押し付ける「アメリカ」に対する痛烈なカウンターとなっている作品です。

一方、『ハロー、アメリカ』は、
内容的には『地獄の黙示録』を踏襲しつつも、

外から見た人間が感じる、
「アメリカ」が持つ、能天気なまでの自信
それに希望を見出し憧れる者達を描いています

自分が生きている今の人生はどん詰まり。

ならば、かつて隆盛を誇ったと言われる、アメリカの持つポップカルチャー、
映画や、キャラクターや、ジャンクフード、
これらに憧れと目指すべき道を見出し、

フロンティアの再興隆を目指すのも無理は無いのかもしれません。

その文化が如何に滅びたのか、
それを知らないから憧れるという一面があったとしても、です。

『地獄の黙示録』と『ハロー、アメリカ』。

同じ構成、
同じアメリカの皮肉を描きながら、
登場人物が希求する方向性が真逆なのが興味深い所です。

 

  • マンソンとは?

本書『ハロー、アメリカ』の登場人物、
マンソンの本名は、「チャールズ・マンソン」であると言う。
(これも自称の様ですが)

では、チャールズ・マンソンとは一体なにした人でしょう?

チャールズ・マンソンとは、Wikipediaを参考にすると、
「ファミリー(マンソン・ファミリー)」の名で知られる疑似生活共同体を率いて集団生活していた、カルト教団の教祖だそうです。

日本で言うところの、「オウム真理教」の麻原彰晃を彷彿とさせます。

自らの妄想の王国に引きこもり、
他者を「疫病」として排除しようとしたマンソンのキャラクターは、正にカルトだったのでしょう。

 

  • 第45代アメリカ大統領

『ハロー、アメリカ』では、マンソンが第45代アメリカ合衆国大統領を自称し、
ウェインもそれを目指して冒険していました。

さて、実際の歴史において、第45代アメリカ合衆国大統領は誰かご存じでしょうか?

 

 

そう、答えは、

 

 

ドナルド・トランプです!!

何となく、「あぁ、成程」と思ってしまいます。
偶然ですがね。

 

 

「アメリカ」という超大国。

実際にアメリカに住んでいなくとも、
多くの人間の心の中に、
「理想のアメリカ」と「現実のアメリカ」が混在していると思います。

その理想とは、
実際は破綻に繋がっていたとしても、
どうしても憧れざるを得ないきらびやかな偶像なのでしょう。

本作『ハロー、アメリカ』では、
その偶像崇拝を描き出さんとした作品と言えると思います。

 

元ネタ!?と思われる『地獄の黙示録』

 


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