エス・エフ小説『BLAME! THE ANTHOLOGY』感想 5人の作家によりダウンロードされる異なる基底現実

 

 

 

電基漁師のはぐれ者、鈍丸はある日の探索中「死体拾い」という黒い塊と遭遇する、、、(はぐれ者のブルー)

珪素生命の異端者ルーラベルチが出会った探索者・夷澱(イオリ)は様々なものの温度を測る「検温者」だった、、、(破綻円盤 ―Disc Crash―)

重油の川の側にある集落で起きる事件、、、(乱暴な安全装置 ―涙の接続者支援箱―)

階層都市を穿つ大陥穽を永遠に落ち続ける塔の話、、、(堕天の塔)

霧亥が消息を絶って幾年月……階層都市の全ては「環境調和機連合知性体」に掌握されていた、、、(射線)

 

 

 

九岡望、小川一水、野﨑まど、酉島伝法、飛浩隆
5人のSF作家が描く、5つの巨大階層都市の物語
原作アリのアンソロジーの場合、作中の登場人物を用いた本篇の外伝ストーリーが描かれる場合が多い。
だが、本アンソロジーは『BLAME!』の世界観をもって、各作家が独自の基底現実を表現したものになっている。

『BLAME!』ファンはもちろん、初見でも「巨大都市がテーマのSFアンソロジー」として楽しめる

 

『BLAME!』はそのビジュアルのインパクトも作品の魅力であり、それを文字でどれだけ再現出来るのか不安もあったが、ハードなSF描写でそれを補っている。
『BLAME!』ファンはもちろん、『BLAME!』を知らない作家のファンも等しく楽しめるハズだ。各作家の描く『BLAME!』世界を楽しんで頂きたい。

 


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  • 原作アリのアンソロジーの場合

アンソロジーには大きく分けて2つある。テーマ別アンソロジーと原作付きアンソロジーだ。
テーマ別とは、「恋愛」「食事」「吸血鬼」等一つのテーマの元に作品を集めたもの。
原作付きは、その原作の世界観を描いた作品を集めたものである。

本作はもちろん原作付きアンソロジーであり、テーマ別と比べると、世界観が固定されている分制約が多い。しかし、あらかじめ決まった世界を描く分、作者も読者もその設定を自明のものとして話を進められるので、より深い話を短編でも作る事が出来る。

さて、その上でどの様な原作付き作品を作るか。
一つは、世界観を忠実に再現した物語を作る。
もう一つは、その世界観で自分独自の物語を作る方策がある。

もちろん、世界観を忠実に再現しつつ、そのまま自分独自の作品が出来上がれば、それが一番いいだろう。しかし、実際にはどちらかに方向性を振ったほうが面白い作品になる。

 

本アンソロジーでは

「はぐれ者のブルー」九岡望(著)
「乱暴な安全装置 ―涙の接続者支援箱―」野﨑まど(著)
が世界観再現系で

「破綻円盤 ―Disc Crash―」小川一水(著)
「堕天の塔」酉島伝法(著)
「射線」飛浩隆(著)
が独自物語系である。

本作品集では特に、独自物語系がハードSFとなっており、『BLAME!』を知らない読者でもSF好きなら十分楽しめる。
作家ファンが『BLAME!』を知る切っ掛けになれば嬉しい。

 

私の一番のお気に入りは「堕天の塔」だ。
あなたも一読してみては如何だろうか?

 

 


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さて、次回は異星人をただ一人でおもてなしする男の話『中継ステーション』について語りたい。