メラニーはジャスティーノ先生が大好き。今日も彼女の授業を待ちわびます。車椅子に、手枷・足枷・首輪で繋がれながら、、、
作者M・Rケアリーはイギリス生まれ。教職を経て、アメリカンコミックの原作者として活躍。本作『パンドラの少女(原題:THE GIRL WITH ALL THE GIFTS)』は長編小説2作目である。
本作はいわゆるゾンビ小説である。
小説、映画、漫画を問わずゾンビモノは古今東西数多くある人気モチーフだ。
本作の特徴的な面白い点はというと
旅をするパーティーの中に知性化ゾンビがいる!!
事である。しかもメンバー全員、それを自覚しているのだ。
また、ゾンビモノといえば、ある程度のお約束がある。作者と読者の共通意識というか、「こうなれば、こうくるよね」というパターンを読者は期待し物語はそれに応える。
その観点で見ると
いかにもやらかしそうなメンバーが集まっている
そのメンバー達がどうなるのか、予想しながら読むのがまた面白い。
以下ネタバレあり
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旅の仲間の役割分担
この作品は序盤の監獄描写がまたいい。
それもそのハズ。もとは序盤のみだった短編小説を元に、長編にしたのが本作らしいのだ。
規律と規則に則った生活が、ある日崩れそうな緊張感が常に漂っている。そして、あえなく崩壊する。
その安全な監獄を同じ人間の襲撃によって陥落され、ゾンビあふれる荒野を旅する事になってしまう。五人のメンバー。
作者はアメコミ原作者をやっていただけあって、キャラクターの設定が上手い。ちゃんと意味を持たせて、ストーリー上に必要最低限のメンバーだけを選んで配置している。その数が、5人だったのだろう。
まずは、知性化ゾンビのメアリー。
彼女は明晰な頭脳と判断力を持つ少女である、がゾンビ。自意識によって食欲を抑えている。
教師ジャスティーノは「優しい人」という役割だ。
実際、監獄でも「優しい警官」役を演じていたが、感情移入(と贖罪意識)によって自ら意識してその役にハマリ込んでゆく。
軍人、パークス軍曹は頼れるリーダータイプ。
ゾンビであるメアリーを排除したがっている。いつ囓られるか分からない相手と旅を続けるのは危険と考えている。感情的にではなく、合理的なタイプだ。
その部下、若年兵のギャラガー。
過去のトラウマを抱えている。若者特有の無謀な行動をいまにも起こしそうだ。
そして、学者のコールドウェル。
彼女はメラニーを単なる研究対象としてしか見ていない。隙あらばメラニーを解剖して、脳を輪切りにしたいと思っている。最早どっちがゾンビかわからぬ始末。
この五人を配置し、伏線やフラグを立てたりして、サバイバルが開始される。
「さぁ、どうなるか、期待してね」
と言う作者の言葉が聞こえるようだ。
このお約束に満ちたゾンビ世界で彼達がどんな行動を取り、どんな運命を迎えるのか、それを読者が予測しながら読める様に計算づくで作られている。
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連想あれこれ
さて、ゾンビ蔓延の原因は何か!?ゾンビものでは作品毎に違った理由が用意されていて、チェックポイントの一つである。
理由などない!!、ウィルス、軍の化学実験、宇宙人、吸血鬼etc.、、、
本作ではなんと原因がキノコ!!寄生生物由来タイプのゾンビだが、キノコはありそうでなかった。
まず、恐怖のキノコとして連想するのが映画『マタンゴ』、そしてウィリアム・ホープ・ホジスンの短編小説『夜の声』である。
また、漫画『ドロヘドロ』の最強魔法使い「煙」はキノコ魔法の使い手だ。
そして、忘れられないのがゲーム『ポケットモンスター』シリーズのキノコ型害悪ポケモン「キノガッサ」である。
そして、たけのこ派にとってはキノコは天敵であろう。
つらつら挙げるだけでもキリがない。事ほど作用に魅力的なキノコの世界に、本作も仲間入りだ。
また、本作ではゾンビ避けに消臭ジェルを使っていたのが面白かった。これは映画『トロール・ハンター』を思い出した。こちらも怪作であった。
新たなタイプのゾンビ作品を見せてくれた『パンドラの少女』。汲めど尽きぬ井戸の様に、ゾンビモノには多様な魅力がある。
それゆえ世界中で人気であり、作品も多く、そしてこれからも作られ続ける事になるのだろう。
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さて、次回は、ゾンビ以上に不死身の男の最後の物語、映画『ローガン』について語りたい。