モナーク産業の社長、ベン・ライクは「顔の無い男」の悪夢にうなされていた。ベンはその原因はライバル会社の社長、ドコートニーの所為だと考え、殺害を決意する。しかし時は24世紀、世界にはテレパシー能力を持つエスパーが生まれて、凶悪犯罪は不可能であった、、、
著者はアルフレッド・ベスター。著書に
『虎よ、虎よ!』
『ゴーレム100』
『イヴのいないアダム』等がある。
本書『破壊された男』は
SFの世界観で描いたミステリ小説である。
どちらが「主」か、とは言えない。
それほど見事に融合している。
私の様に口を開けて無防備で読んでいくと、いちいち「あ、あっ!」と唸ってしまう。
それほど面白い。
なので、SF的世界観が目眩ましとなっているが、
作中にちゃんと推理のヒントがちりばめられている。
私の様に悔しい思いをしたくなかったら、細かい描写にも気を付けて読んでみよう。
もちろんストーリー部分も面白い。
捜査官と容疑者の二人の視点で描かれる攻防。
どちらに感情移入するのか?
やっぱり悪人の方が面白味があったりする。
以下ネタバレあり
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SFミステリの傑作
本作『破壊された男』はSFミステリである。
SFの世界観でミステリをやっている。
つまり、その構成はミステリ的で、細かい所まで計算された作品なのだ。
そして、推理の根拠となるヒントがちゃんと作中に示されている。
この「後で気付けば明白な公平性」こそがミステリの魅力である。
その端緒が「WWFG」である。
読者にその時点で「注意して読んでね」と促しているのだ。
これには参った。
そして、面白かった。
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悪人の抵抗
捜査に当たってパウエルは「手段」「機会」「動機」を明らかにしようとする。
これを意識的に描写するあたりもミステリ的だ。
そして、読者にはそれらがあらかじめ分かっている。
つまり、パウエルは如何にベンを追い詰めて行くのか、そして、ベンはどの様な抵抗を見せるのか、それが本書の見所となっているのだ。
『刑事コロンボ』を思い出す。
しかし、設定は未来。
星をまたぎ、超能力を駆使し、時には大立ち回りをする。
印象的なベンのセリフがある。
「どちらもとことんまで勝負するんだ。フェアプレーとルールの蔭に隠れるのは、臆病者と弱虫としみったれだけだ」(p.127より抜粋)
このセリフに強者の傲慢さとプライドが如実に表れている。
そして、ベンはこういうメンタリティを持つからこそ、魅力的な悪役なのである。
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デモリションマン
本書『破壊された男(The Demolished Man)』は編集者の提案で付けた題名で、最初は『The Demolition』という題名だったらしい。
これを聞いて、何となく映画『デモリションマン』を思い出した。
これも未来の管理社会で犯罪を犯す話だ。
もしかして、『The Demolished Man』が原作だったのでは?
それがアクション映画になって、いつの間にか原作と遠く離れ『Demolition Man』になったのかもしれない。
真相はどうだろう?
本作『破壊された男』は面白い。
SF部分。
ミステリ部分。
男二人の意地の張り合いの部分。
読む人にとって心にはまるストライクゾーンは違うかもしれない。
しかし、いずれにしても一級品であり、それが無理なく融合しバランスがとれているからこそ、本作は名作なのである。
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さて次回は、今までのシリーズは記憶から「破壊」して新たなる一歩としましょう、映画『スパイダーマン:ホームカミング』について語りたい。